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第1部 本
社会
ミライをつくろう! VRで紡ぐバーチャル創世記(GOROman)
『ミライをつくろう! VRで紡ぐバーチャル創世記』2020/6/24
GOROman (著), 西田 宗千佳 (編集)
(感想)
日本にVRを広めたエヴァンジェリストのGOROmanさんが、自らの半生を振り返り、「今後VRによって人々の生活がどのように変わっていくのか」を大胆に予測している本です。
かなり前からVRに興味を抱いていたGOROmanさんは、2012年に発表された『オキュラス・リフト(Oculus Rift DK1)』を購入して試してみて衝撃を受けたのだとか。それまでの常識をくつがえすほどの安い価格に対して、期待以上の機能(実在感・没入感)があったからだそうです。
「(オキュラスが)特別なディスプレイを使わず、今までより格段に大きな視界を実現できた理由は「レンズ」と「生成する映像」にありました。オキュラスが使っていたのは巨大な魚眼レンズです。魚眼レンズを使って見た映像は、周囲が歪み、伸びたように見えます。視界が広がって見えたのはこのためです。ならここで、「歪んで見える」ことを逆手にとって、最初から映像を歪ませておいたらどうなるでしょう。魚眼レンズで歪む効果によって、映像は「歪んでいるようには見えない」正常な見え方に変わります。すなわち、映像は正常な状態のまま、視界だけが広くなるわけです。ディスプレイも安価ですし、レンズも決して高いものは必要ありません。映像を歪ませるために必要な計算も、今のコンピュータにとってはたいした負担になりません。だから、低コストかつ今までにない没入感のあるVRが実現できたのです。」
すっかりこれに惚れ込んだGOROmanさんは、日本にVRを広めるために2014年~2016年、Oculus Japan Tearmを立ち上げ、Oculus VR社の親会社であるFace book Japan株式会社で国内のVRの普及に務めることになったのです。
そして「第4章 VRで生活はこう変わる」には、次のような興味深い記述がたくさんありました。
・VRでは、空間全体を作業に使える「空間パラダイム」へと変化する。(例えば、「ワークモード!」というと、周囲の風景がオフィスに早変わりする。また「しばらく周囲からの干渉をミュートする」ことも出来る。)
・レジャーやエンターティンメント、特に「劇場」のあり方は大きく変わる(VRで映画館などを再現できるし、みんながS席に座ることができる)
・コンテンツは、ものすごく短いものと、濃くて長いものの両方を作れる人が生き残る。
・有名人やアイドルが見ている「視界」を提供するサービスが生まれるかもしれない。
・アバターで人に会うことが当たり前になっていくと、「アバターでいないこと」を不自然に思う可能性がでてくる。
……他にもいろいろあって、すごく説得力を感じました。そして、次の「第5章 VRは社会をこう変える」では、さらに「未来」感に満ちたスケールの大きな予測をしています。
・アマゾンの本業は「通販」じゃなくなるかもしれない(バーチャルで済むものが増えてきたら、モノがいらなくなる。)
・VRで人に会うことが増えるのであれば、現実の衣服ではなく、VRで使うアバターが切る衣服や装飾の方にお金をかけるかもしれない。
・バーチャルドラッグのようなヤバイものが出てくるかも。(「現実よりもバーチャルの世界の方が満たされているから戻りたくない」というのは、そうなった時に本当に深刻。)
・教育は限りなく「一対一教育」に変わっていく
……などなど。驚かされたのが、すでにエストニアで行われている「電子住民」の話。ネットから「自分がエストニアの電子国民である」という登録が出来るのだそうです。
「エストニアの電子国民になると、エストニア国民として登記して会社を興せますし、銀行口座もオンラインで簡単に開設できます。確定申告して税金を納めることもでき、エストニア国民と同じ利便性を、エストニアの国土に住んでいなくても享受できるわけです。エストニアは人口約130万人の比較的小さな国ですが、電子国民を1000万人まで増やそうと計画しています。(中略)つまり、国境とかはもう古い。その国の理念に共鳴したり、税制に利点を感じたりする人が集まるようになるでしょう。これこそ「VR時代の政治」だと思いませんか?」
「国の形はもっと自由になるんです。税を納めるなどの義務を果たしていれば、複数の「バーチャルな国」に属していいはずです。」
「もちろん、生活する以上は物理的なものが必要になります。実際に病院に行ったりゴミを処理したり、といったことには行政サービスが必須で、そこには当然費用がかかります。社会保障も同様です。ですから、物理的な国に属することが不要になるわけではなく、税も不要というわけではありません。」
「だから僕は、2045年には、たくさんの国がバーチャル世界にあふれ、人は複数の国に属し、自由に国と国の間を渡り歩くようになるのではないか、と思っているんです。VRが「時間と空間」の常識を変えてしまう結果、僕たちの生活基盤である「国」からも、僕たちは自由になれるはずなのです。」
この本は「VR」というIT技術の本ですが、個人的には、「VR」が変えていく未来社会の予測が特に参考になったように思います。
また前半では、GOROmanさんのまさに「ギーク」な半生が綴られていて、これもとても面白かったです。パソコンやゲーム漬けの少年時代を過ごしていて、アメリカのネット文化創始者たちの子ども時代に近いような印象を受けました。自宅のガレージで、電子部品に囲まれながらパソコンのキーボードを叩いている早熟なコンピュータ(ゲーム)おたく少年って感じで(笑)。これからの若者の生き方の一つとしても、参考になりそうな気がします。ぜひ読んでみてください。
最後に、「おわりに」にあった「未来への決意とエール」を感じさせられた言葉を。
「僕は未来を作るのに必要なのはビジョンを持ち、熱意を持って失敗を繰り返してもチャレンジし、行動することそのものだと思います。」
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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