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第1部 本
歴史
名画で学ぶ経済の世界史(田中靖浩)
『名画で学ぶ経済の世界史 国境を越えた勇気と再生の物語』2020/7/30
田中靖浩 (著)
(感想)
神父、軍人、商売人、貴婦人、国王、高級娼婦、画家に画商……レオナルド・ダ・ヴィンチやナポレオン、有名無名の彼らが悩みながら奮闘し、切り拓いてきた世界史の舞台裏を通して絵画と経済の関係を楽しく解説してくれる本です。
実を言うと、『名画で学ぶ経済の世界史』というタイトルに、はあ? 何それ? 名画で経済の世界史……あんまり面白くなさそう……とまったく期待せずにページを開いて……プロローグの「ペストとルネサンスと虹と」に完全にやられてしまいました(笑)。
この本はすごく面白いです! 「楽しくて勉強にもなる」っていう言葉は、まさにこの本のためにある! 大興奮で一気に読み進んでしまいました。
「船がシチリアの港に着いたのは1347年の秋。
降りてきた船員たちの皮膚はどす黒くただれ、身体のあちこちに腫れ物と紫斑ができています。」
プロローグは、ヨーロッパをペスト(黒死病)が襲った日から始まります。感染を恐れたヴェネツィアでは、外からやってきた船を40日間港に留めおき、大丈夫であると確信するまでは船員を下船させなかったのですが、それでもペストはイタリア半島へ、そしてヨーロッパ全土へと広がっていったのでした……。
この時、人々を絶望させたのが、ペスト患者を献身的に看病したお医者さんや神父さんほど感染してしまったという事実。人々は教会への不信感を募らせ、多くの死者が出て人口が減り経済活動が停滞、人が去って古びた建物が取り壊されていきました。
その跡地に新しい建物を建てていったのが新たに登場したパトロンたち(ペストによってビジネス再編が一気に進みました)。彼らの依頼を受けて、若き画家たちが、古きギリシャ・ローマ時代を参考にしつつ、独自の建築・彫刻・絵画をつくりあげていったのです。これが「ルネサンス(再生)」芸術なのでした。
……そうだったんだ。ルネサンスって、ペストからの再生でもあったんだ!
こんな感じで、今まで私のなかでは「学問としての歴史(年号と事実の集合体)」として、何かずーーっと遠いところにあった「歴史」が、大好きな名画とともに「活き活きと再編成」されていく感じに、読んでいてわくわく感が止まりませんでした。いろんなことを学べました(復習できました)。
・イタリアはヨーロッパの人にとって憧れの地だった(「グランドツアー」というのは、イギリスの良家のご子息がイタリアを目指す旅のこと。その他の国の人もみんなイタリアに行きたがった)。
・イスラム教徒との友好を望んでいたシチリア王フリードリヒ2世は、十字軍遠征で困り果て、イスラム教徒との粘り強い交渉の末に「エルサレムはキリスト教に属するが、神殿の丘だけはイスラム教のもの」という着地点を見つけたものの、その中途半端さが逆に両陣営の亀裂を決定的にしてしまい、結局、200年にわたってキリスト教徒とイスラム教徒はエルサレムを奪い合うことになった。
・十字軍遠征でゼロを含むアラビア数字がヨーロッパに入ってきたことが、さまざまな技術や科学を生むことになった。
・遅筆だった天才ダ・ヴィンチは、すばやい一発勝負が必要なフレスコ画が苦手で、時間をかけられ修正もきくテンペラ画を用いた。そして自分ならではの特徴をだそうと遠近法や色彩を工夫した。
・フランドル地方の画家たちは、食用の亜麻仁油に顔料で色付けして新しい絵の具(油絵)を作った。この北方の発明がイタリアに伝わり、やがて絵画の歴史を変えることになった。
・湿気が多いヴェネツィアでは、歪みやすい板の代わりに船の帆(キャンバス)に絵を描くようになり、歪まないだけでなく持ち運びも良かったことで、どんどん普及した。
・活版印刷技術によって、航海術、料理法、計算・簿記の技術などを安価に書籍化できるようになり、ヨーロッパ人の文化を著しく底上げした(アルファベットは活字化しやすかった)。
・オランダは宗教を問わず移民を受け入れたので、多くのユダヤ人が集まってきて、その金融・情報収集力の高さが、オランダの商業的大成功に寄与した。
・ナポレオン(フランス軍)は他国の美術品を略奪してルーブル宮殿に保管し、一般市民への公開を始めた(絵画が私的所有物ではなく、「公共財」の性質を持つようになった)。
・イギリスは産業革命を起こしただけでなく、知的所有権の法制化も進めた(イギリスは技術だけでは金にならないことを知っていたので、特許やノウハウを含む知的所有権を早くからおさえにいった。)
・アメリカの金持ちが印象派絵画を愛好したのは、優しい色合いの風景画や人物画が多かっただけでなく、「贋作が少なかった」から。
……この他にも、知らなかった(気づかなかった)西欧の絵画や経済の歴史話がいっぱい☆ すごく勉強になりました。
田中さんによると、絵を見る意味は「視野を広げる」ことにあるのだとか。
「絵画はあらゆる芸術の中でもっとも凝縮度の高いものです。」
「どんな絵にも、その背後に「隠された」物語」があります。」
……こんな風にいろんな角度から「絵画鑑賞」が出来るなんて、本当に凄いことだなーと感心させられました。すごく心が豊かになれそう……。
「絵画は見る者すべてを勇気づけ、「明日の幸せ」を与えるものである。
これぞ本当の絵画ルネサンス=再生なのかもしれません。」
……ヨーロッパ絵画をもとに、「勇気と再生の物語」を訪ねる旅への案内をしてくれる本でした。楽しさと学びを同時に与えてくれる凄い本です。ぜひ読んでみてください。だんぜんお勧めです☆
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