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第1部 本
ユーモア
バッタを倒しにアフリカへ(前野ウルド浩太郎)
『バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)』2017/5/17
前野ウルド浩太郎 (著)
(感想)
一発逆転を狙ってモーリタニアに旅立った「バッタ博士」の記録です。ちなみに「一発逆転」とは、次のような気持ちだったとか(笑)。
「大学院を出て、ポスドクとして研究室にいた頃は、安定した職もなく、常に不安に苛まれていました。博識でもなく、誇れるような実績もない。友達と楽しく飲んでいても、トイレにたったときに研究の手を止めた罪悪感に襲われる日々でした。なので、一発逆転を狙おうと」
ところでモーリタニアとは、日本ではスーパーで売っているタコの産地として知られているそうです。確かに……そういえば聞いたことがあったなー。この国は、バッタによる被害に悩んでいるそうです。
「サバクトビバッタはアフリカで数年に1度大発生し、農作物に大きな被害を与えています。私はこのバッタの研究者なのに、人工的な研究室で飼育実験ばかりしており、野生の姿を見たことがなかった。自然界でのバッタを観察したいという気持ちもありました」
ということで、バッタ研究者の前野さんは、現地の言葉(フランス語)もわからないのに『バッタを倒しにアフリカへ』旅立ったのでした。それが、この表紙のアホっぽい(ごめんなさい)写真につながるのですが、彼がなぜ緑色の服を着ているかと言うと……。
「子どもの頃に、バッタの大群に女性が襲われ、緑色の服が食べられたという記事を読んで、自分もバッタに包まれてみたいと思っていたんです。」
う、うーん……とにかくバッタ愛が凄い。結果的には、緑の服はバッタにはスルーされたようですが……。
「今回、バッタにはスルーされましたが、なぜ私の衣装が食べられなかったのかも、ちゃんと調べています。アホかと思われるかもしれませんが、この夢を叶えるためにはバッタの食欲や飛翔、そして群れの動きを予測するための様々な研究が必要です。最終的に、私の頭の悪い夢がアフリカをバッタの食害から救うかもしれません」
……ぜひ救って欲しいと願っています。
この本は、昆虫学者のアフリカでの研究日記(バッタや現地の生活などのカラー写真もあり)ですが、いろんな意味ですごく読み応えがあります。まずなんと言ってもユーモア感覚がとにかく素晴らしい。例えば、言葉も分からないまま、遠い異国のモーリタニアの研究所で生活を始めたころの描写。
「会議やパーティーなどでは知らない言葉が飛び交い、完全なるアウェーになるが、不思議と疎外感を覚えなかった。この感覚は、日本で畑違いの研究者たちと会話していたときにそっくりなのだ。日本語なのに何を言っているのかまったくわからず、聞き流していた。だから、アウェーには慣れていた。」
……なんか、すごく分かるような気が(苦笑)。
しかも前野さんは、現地でさまざまなトラブル・不運に見舞われます。バッタを探しに行ったはずなのにゴミダマという虫だらけだったり、大金をかけて作った鉄製の網ケージ(プラスチックだとバッタに噛みちぎられるため)が塩を含んだ砂のせいで腐ってしまったり、大干ばつが起きてバッタが発生しなかったり(!)、さらにサソリに刺されたり……とにかく大変な目に次々遭遇します(涙)。
でも、前野さんはすごくタフ。どんな時にも前向きに動いて、たとえ別な方向であっても何かをやろうと行動するのです。バッタに出会えないならゴミダマを研究しちゃえ!とか、バッタがいない間はフランスの研究所で勉強も兼ねて統計作業をしようとか……。
「第7章 彷徨える博士」には、ブログや講演会などでファンがどんどん増えてきた状況に、次のような記述が。
「そこで、ピンときた。「人の不幸は蜜の味」で、私の不幸の甘さに人々は惹かれていたのではないか。実感として、笑い話より、自虐的な話のほうが笑ってもらえる。本人としては、不幸は避けたいところだが、喜んでもらえるなら不幸に陥るのも悪くない。
この発想に至ってからというもの、不幸が訪れるたびに話のネタができて「オイシイ」と思うようになった。考え方一つで、不幸の味わい方がこんなにも変わるものなのか。そして、なにより重要なのは、私を見てくれる人がいることだ。ファンの存在は、異国で独り暮らす人間にとっては心強いものになり、ウェブ上での情報発信は、リアルタイムに反応があるので、精神衛生上、助けられた。」
この本はユーモアあふれる文章に笑わされ、異国でのフィールドワークの状況や研究者が職を得るための苦労話が(ホロリとさせられながら)実践的にすごく参考になるという素晴らしい本ですが、価値を最大にしているのは、この「何事にもめげないど根性」だと思います。
「あとがき」で前野さんは、日本に帰国後に、日本の食べ物が美味しい上に簡単に手に入る幸せや、舗装道路を歩けるありがたみを書いていますが、「不便な生活」は、日常生活に幸せがたくさん詰まっていることを教えてくれるそうです。……私も、何かに不満を感じたときには、この前野さんのモーリタニア日記を思い出して、安全で快適な日本に住んでいるだけでも十分幸せなのだと再認識しようと思います(笑)。
とても面白いだけでなく、元気も分けてもらえる本でした。
とくにフィールドワークの研究者を目指す方にとっては、前野さんが「日本学術振興会海外特別研究員」を利用してモーリタニアに行ったことや、京都大学の「白眉プロジェクト」に応募した状況などの具体的な記述が、とても参考になると思います。
ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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