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第1部 本

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量子コンピュータが本当にわかる!(武田俊太郎)

『量子コンピュータが本当にわかる! ― 第一線開発者がやさしく明かすしくみと可能性』2020/2/19
武田 俊太郎 (著)


(感想)
 日本における数少ない量子コンピュータの開発者自身が、分かりやすく量子コンピュータの仕組みから可能性まで教えてくれる量子コンピュータ入門書の決定版です☆
 実をいうと量子コンピュータについては、「0と1が重ね合わせ状態にある」量子の性質を利用した画期的コンピュータで、計算が超高速化する可能性がある……ということぐらいは知っていたものの、なんか難しそうだし……そもそも量子自体が恐ろしく小さくて不安定そうなのに、それをコンピュータの素子に使おうなんて「ない」わー。まあ、これを仕事に使うことなんて、おそらくないから、詳しく知る必要もないか……などと内心ではちょっぴり思っていました(汗)。
 だからこの本にも、それほどの期待をしていなかったのですが、なんと! 量子コンピュータの本としては、今まで読んだ中で一番分かりやすい説明をしてくれたと思います☆
 例えば、量子コンピュータの基本中の基本、例の「重ね合わせ」。この本は、2重スリット実験での説明がとても丁寧なので、ようやく「ああ、そうだったの」と理解することが出来たような気がします。
「電子は左の隙間を通った可能性と、右の隙間を通った可能性があり、どちらの可能性にも確定せずに、両方の可能性を『重ね合わせた』状態になっている。2つの波を重ね合わせると干渉が起きるように、1個の電子の中で2つの可能性が重ね合わさることで干渉が起こる。」
「干渉による縞模様を具体的に説明するには、電子は「粒でもあり、波でもある」と考えます。(中略)電子は、発射された直後は1個の粒でした。しかし、その後はあたかも波のように広がりながら空間を進んでいきます。実体は1個で、1か所にしか存在しないはずの電子。それが波として空間に広がり、異なる複数の場所に存在する可能性を持ちながら進みます。これこそが「重ね合わせ」という状態なのです。波として進んだ電子は、水面の波のように2つの隙間を同時に通って干渉を起こします。しかし、電子の波を壁に当てて、電子がどこにいるのかを調べようとした瞬間に、電子はまた1個の粒に戻って1か所に現れるのです。波の大きさは、電子がそこに存在する可能性の大きさを表しています。強め合って大きな波になった位置には、電子が現れやすくなり、弱めあって小さな波になった位置には、電子は現れにくくなります。この結果、電子を何個も発射して積み重なると、縞模様が現れるのです。」
 ……ここでは一部のみを紹介しましたが、イラストを使って、かなり詳しい説明をしてくれるのです。量子コンピュータは、この「重ね合わせ」を利用して計算をするそうです。
「量子論理計算とは、このように波を入れ替えたり、タイミングをずらしたり、干渉させたりして、量子ビットの重ね合わせ具合を表す波の形を変える操作なのです。」
 ……こんな「重ね合わせ具合を表す波の形を操作」するコンピュータがきちんと動作するためには、量子ビットの「波の形」が正確性・保存性に優れていなければならず、やっぱり実用化は非常に困難なのでは? と思わずにいられませんでしたが、実際に実現は困難だそうです。
 量子コンピュータの実現が難しい理由の一つは、量子がとてもデリケートな存在だから。そしてもう一つの理由は、量子一つひとつを限りなく正確に操る必要があるから(量子ビットは普通のコンピュータのビットとは情報の性質が異なるため、そもそもノイズや誤差が少しも許されない仕組みになっています)。
 なお、量子ビットは直接図ると重ね合わせが壊れてしまうという性質があるので、誤り訂正は困難と考えられていましたが、次の方法で可能だそうです。
1)量子ビット複数個を連携させ1個分の情報を表す
2)連携の乱れの有無の情報だけ別の量子ビットに移す
3)この量子ビットを測定
4)乱れ(=エラー)があることがわかれば元の量子ビットを訂正
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 驚かされたのが、量子コンピュータの計算はなんと「出力から入力へ逆向きにさかのぼれる」ということ! しかも、このことは消費電力が小さくなる可能性を示唆しているのだとか。
「物理学では、「情報を失うとき、必ず熱が発生する」という法則が知られています。(中略)量子コンピュータは、情報を失わず、逆向きにさかのぼることのできるコンピュータになっています。(中略)このような逆向きにさかのぼれるコンピュータは、原理的には熱の発生を限りなくゼロに近づけることができ、消費電力を小さくできます。」
 もしもこれが本当なら、量子コンピュータの結果が信頼できないと感じた時には、元の情報に戻って自分の計算結果を再検証することが出来るということですね。
 でも現実的には、量子コンピュータはまだ、実用的に役立つ問題を解くまでには至っていないようです。そこで「量子コンピュータには量子の力でしかできない計算をさせ、それ以外の計算は通常のコンピュータに実行させるという役割分担をさせよう」という方向も検討されているのだとか。確かに、これが最も現実的な使い方だと思います。また、量子コンピュータに多数の候補からざっくりと望ましいもの十個程度に絞り込ませ、その後は、普通のコンピュータがその中から最適なものを選びだすという使い方も出来るかも。
 さて、武田さんたちは、量子コンピュータを「光方式」で実現させようとしています。
「光方式では、光の粒である光子1個で量子ビットの情報を表します。(中略)光方式のメリットは、冷凍庫や真空の容器といった特殊な装置が必要ないこと、高速で動作すること、また光を使った通信もできるということです。一方で、光方式の主なデメリットは、一部の演算(量子版XORなど)を行うことが難しく、確率的に行う方法しかないため、何度も演算をくり返すような複雑な計算ができないということでした。」
「本来の量子テレポーテーションは、単に情報をそっくりそのまま移動するだけです。しかし、少しやり方を工夫すると、演算を行いながら情報を移動することができます。つまり、元の量子が持つ量子ビットの情報に、量子版NOTや量子版XORなど何かしらの演算を行ってから、別の量子に移動することができるのです。」
「光に情報を載せるときは粒の人格の方に頼み、一方で光を操るときには波の人格の方に働きかけることにしました。これによって、光の「二重人格」の良い所取りが出来るようになったのです。この方法で、確実に成功する、新しいタイプの量子テレポーテーション装置が完成しました。」
 ……光子を使った量子コンピュータ、メリットがたくさんあるので、実現したら素晴らしいですね☆
 量子コンピュータについて、分かりやすく丁寧に説明してくれる本でした。興味がある人は、ぜひ読んでみてください。特にこれから仕事で使う(研究する)可能性のある方にとっては、他の人に説明する時の資料としても、すごく参考になると思います。お勧めです☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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