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第1部 本

ビジネス・問題解決&トラブル対応

科学技術の失敗から学ぶということ(寿楽浩太)

『科学技術の失敗から学ぶということ: リスクとレジリエンスの時代に向けて』2020/6/11
寿楽 浩太 (著)


(感想)
「覆水盆に返らず」。私たちは本当に科学技術の失敗から学べているのか。もしうまくいっていない部分があるとしたらそれはなぜなのか。そういう問題点を乗り越える方法はないのか……この本は、現実に起きた事件を通して、これらの問いについて考察しています。内容は次の通りです。
1 タコマ橋とコメット―「失敗から学ぶ」サクセスストーリー
2 機体が言うことを聞かない!―何が最新鋭機を墜落させたのか(1)
3 高度がおかしいぞ!―何が最新鋭機を墜落させたのか(2)
4 「チャイナ・シンドローム」―巨大技術の事故は防げないのか
5 スペースシャトル・チャレンジャーの悲劇―誰がシャトルを打ち上げさせたのか
6 ディープウォーター・ホライズン―大企業はなぜ失敗を繰り返すのか
7 日航機乱高下事故と機長の裁判―原因究明か、責任追及か
8 通勤電車の大事故は誰のせいなのか―組織の責任を問う難しさ
9 3.11複合災害の衝撃―レジリエンス・エンジニアリング論とは
10 これからの「科学技術の失敗からの学び」のために
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 どれも参考になることばかりだったのですが、中でも考えさせられたのは、「4 「チャイナ・シンドローム」」で、スリーマイル島原発事故の研究をしたアメリカの組織社会学者C・ペローの考え方。
「(前略)ペローは研究を進めた結果、根源的で、かつ悲観的な見方を示します。
 それは、現代の航空機や原発のような、あまりにも複雑で、しかも大きな危険性を潜在的にはらむシステムにおいては、複数の要素が偶然に不幸な連鎖をして大事故に至ることは防げない、という考えです。
 ペローは、そうした先端技術では単に要素が多いというだけではなく、要素と要素が網の目のように複雑なつながりを持っていて、しかも、それらの間の結びつきが強いために、ある出来事が起きたら、おもむろに状況を見きわめて対応するといった余地を許さない特性があると主張します。」
「ペローはこうした「冷めた」見方を示した上で、ではどうするかについても「冷めた」見解を示しています。
 彼は、事故は起きてしまうものだと考えるしかない以上、私たちはその技術が事故を起こしたときの結果が、社会にとって受け入れられないほど破局的なのか、あるいは、我慢して甘受できる程度なのかで、その技術を用いてよいかどうかを決めるべきだ、と提案しました。」)
 ……この「冷めた」見方は、すごく現実的だと思いました。
 そして私たち日本人にとって、忘れられないのが3・11東日本大震災。あの「想定」を大きく超えてしまった大災害の後、専門家たちは「レジリエンス(回復力)」を考えるようになったのだとか。
「3・11複合災害の後、専門家たちは「レジリエンス」と呼ばれる考え方を深め、特に「安全」の考え方を変えて技術や防災の備えに活かすことで、この問題に対応しようとしてきました。(中略)
 従来の安全の考え方では、機能を損ねかねないような外乱(原発に対する地震の揺れや津波による浸水など)に対して、それが何にどのぐらい影響を及ぼすかを特定して、そうならないように備えます。つまり、外乱を跳ね返しびくともしないようにすることで安全を保とうとしていたわけです。ただ、この際にどんな外乱にも無限に耐えられるようにはできませんから、想定を置いてその範囲内で耐えられるようにしていました。
 ところが、この考え方では、想定を超えた場合については安全の備えで検討される範囲外になりがちです。想定を超えた場合について言い出すときりがなく、ものをつくることや使うことなどできなくなってしまいます。さらに、この考え方で困るのは少しでも想定を超える外乱に襲われた途端に、システムが一挙に機能を失い、「手も足も出ない」ままにひどい結果を招いてしまうことがある点です。(中略)
 RE(レジリエンス・エンジニアリング)では、想定を置いてその範囲内で機能を100パーセント維持することを目指すのではなく、想定に関わらず、どんな場合でもできるだけ機能を維持し、そしてなるべく早く、容易にそれが元の状態に回復する力を持つにはどうしたらよいかを問題にします。
 言い換えれば、場合によってはある程度機能が損なわれることは承知の上で、その代わり、大崩れして何もできなくなるような状況だけは、なんとか避けようというわけです。
 また、壊れ方(機能の失い方)がなるべく復旧を妨げる性質のものにならないように工夫しようという意味も含まれます。」
 このREの考え方は、とても現実的に役に立ちそうな安全策のように感じました。
 すべてのものが網のように絡み合って複雑化している現代、避けられない事故や失敗に私たちがどう対応すべきか、とても参考になる情報をたくさん知ることが出来ました。みなさんも、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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