ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)

第1部 本

 IT

イノベーターズ(アイザックソン)

『イノベーターズ1 天才、ハッカー、ギークがおりなすデジタル革命史』2019/10/10
ウォルター・アイザックソン (著), 井口 耕二 (翻訳)
『イノベーターズ2 天才、ハッカー、ギークがおりなすデジタル革命史』2019/10/10
ウォルター・アイザックソン (著), 井口 耕二 (翻訳)


(感想)
 現代の重要な技術、コンピュータとインターネットの歴史を詳しく紹介してくれる本です。
 第1巻は、コンピュータの母といわれる伯爵夫人エイダ・ラブレスの存在から、世界初のコンピュータの誕生、プログラミングの歴史、トランジスタとマイクロチップの発明、そしてインターネットが生まれるまでを網羅しています。
 そして第2巻は、パーソナルコンピュータ、ソフトウェア、ブログ、Google、ウィキの歴史の紹介と、テクノロジーの「これから」を考察しています。
 この本は、コンピュータやインターネットが、多くの人々の努力によって発展してきた経緯をじっくり語ってくれます。イノベーションは、誰か一人の天才の手によるものではないのです。
「イノベーションは、熟した果実が肥沃な土地に落ちるようにして起きる。1937年の大発展も、理由はひとつではなく、さまざまな可能性、アイデア、必要性があちらでもこちらでも組み合わさって起きている。イノベーション、特に情報技術のイノベーションの歴史ではよくあるように、時が満ち、環境が熟したのだ。無線の普及で真空管が発達した結果、デジタルの電子回路が生まれる下地ができた。さらに論理学の理論的発展が回路の進歩をうながす。近づきつつある戦争の足音もその流れを加速した。開戦が避けられない状況で、計算能力が火力に劣らず重要であると明らかになったのだ。革新が革新を呼び、あちらでもこちらでも技術がどんどん進化する。」
 コンピュータやインターネットの歴史は学んだことがあったので、最初のコンピュータが、織機のパンチカードにヒントを得て構想されたことは知っていましたが、それ以外にも、いろいろな技術が使われていたようです。安価な記憶手法として、「音響遅延線」という技法が使われたことは知らなかったので興味津々でした。
「音響遅延線は、濃度が高く動きのゆっくりした液体、たとえば水銀などを満たした長い管に、データをパルスとして格納することができる。管の一端で、一連のデータを搬送する電気信号が水晶端子によってパルスに変換され、小さい波となって管の端から端までを行き来するのである。波は、必要な時間だけ電気的に更新できるし、水晶端子で波を電気信号に戻せばデータを取り出すこともできる。1本の管でおよそ1000ビットのデータが処理可能で、コストは真空管回路の100分の1になる。」
 ……記憶する液体……なんかわけわかんない感じですが、面白い技術ですね。
 そしてパソコンやソフトウェア、インターネット、さらにGoogleが出来た経緯など、現在のIT産業の基礎となった歴史を総合的に学ぶことが出来ました。
 特に面白かったのが、ヌーペディアとウィキペディアの逸話。「いつでも最新の知識が網羅された百科事典」を目指して最初に作られたのは、ヌーペディアだったそうです。これは「従来の百科事典より学問的に正確であることを目指す」もので、専門家の校閲など厳格な仕組みがありました。……が、当然のことですが、「作業は遅々として進まない」という限界に突き当たることに。
 このヌーペディアの付属品(または補給装置)として作られたのが、ウィキペディア。こちらは「誰でも書ける」ものでしたが、それだけに「正確ではない」可能性が高くて、使い物にならないことが懸念されていました。ところが……現在の状況でも分かるように、最終的には、圧倒的に「使えるもの」に育っています。このウィキペディアの予想外の大成功によって、本来本命だったはずのヌーペディアは停止されることになりました。
「ウィキペディアの守備側は積極的だ。ウィキペディアにおける編集復元の戦いは、本当の戦争もかくやというほど激しい。しかも、たいがいは理性軍が勝利するのである。ウィキペディアの立ち上げから1か月で、項目数は千に達した。丸一年たっているヌーペディアのほぼ70倍だ。」
「ウィキペディアでは、中立的な視点による執筆が基本方針として掲げられている。そのため、明快な記事が多い。地球温暖化とか人工妊娠中絶といった、論争になりがちな話題も、例外ではない。見解の違う人が協力し合うのも簡単になった。」
 ウィキペディアは、「運営」も同じようになされています。
「どのルールも、コミュニティのなかで自然発生的に成立したもので、上層部が一方的に押し付けたものではない。インターネットそのものと同じく、権力は分散しているのだ。ウェールズはこう回想している。
「多くの人が集まって検討する以外、こんな細かいガイドラインを作る方法はないと思いますよ。考え抜かれた解決策にたどり着くことがウィキペディアではよくありますが、それはたくさんの頭脳が改善に取り組むからです。」」
 ……一般人が自主的に編集している「百科事典」が、実用に耐える「おおむね正しい」最新知識版になっていく……インターネットの力を、人々の底力(善意の力)を感じさせてくれて、嬉しくなります。
 そして最終章「第12章 エイダよ、永遠に」には、次の記述がありました。
「コンピュータとおなじように、ARPANETも、たくさんのチームが協力して設計を進めた。礼儀正しいひとりの大学院生が始めた「コメント求む(RFC)」なる提案を回覧するという方法でものごとを決めていったのだ。そこから、クモの巣のように張りめぐらされたパケット通信ネットワークが生まれた。中央の管理機構もハブもなく、権限はノードの一つひとつに完全分散されている。各ノードはコンテンツを作成・共有する機能を持ち、押さえつけようとする試みを迂回することができる。こうして、共同的なプロセスが共同を推し進めるシステムを生み出した。インターネットには、創造主のDNAが刻み込まれているのだ。インターネットは、チームどうしだけではなく、お互いを知らない一般大衆どうしのコラボレーションもうながした。これは、革命にかぎりなく近いと言えるほど大きな変革だ。」
 この他にも、いろんな情報がぎっしり詰まっています。
 コンピュータとインターネットを中心としたデジタル革命の歴史を学べる本でした。ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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