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第1部 本

生物・進化

生命はデジタルでできている(田口善弘)

『生命はデジタルでできている 情報から見た新しい生命像 (ブルーバックス)』2020/5/21
田口 善弘 (著)


(感想)
 生物は、38億年前の太古の時代からゲノムに刻まれたデジタル情報を使いこなしてきた。地球上に存在する生命は、例外なくすべてデジタル情報の産物である……「デジタル信号処理系としてゲノムを捉える考え方」で、生命科学を分かりやすく解説してくれる本です。
「寿命を伸ばす遺伝子発見!」、「『がんゲノム医療』検査に保険適用」など、最近の生物学・医学は進展が速く、「遺伝子」関連の記事やTV番組も増えて、「遺伝子」「ゲノム」という言葉がすごく身近なものになってきました。
 でも……遺伝子とかゲノムって、本当のところ、どんなものなの? と疑問に感じている人も多いのではないでしょうか。この本は、医学や生物学には詳しくないがネットやITは得意、という人に、遺伝子やゲノムのことをすごく分かりやすく教えてくれる本です。その一例を紹介すると、次のような感じ。
「(DNAという)設計図を生物はどのように読んで実際に生物という実体を作っているのか、という原理がセントラルドグマである。」
「生物もDNAという名のデジタルデータを活用するためにプレーヤーに相当する仕組みを持っている。その仕組みは簡単に言ってしまえば、部分読み出しと逐次再生である。部分読み出し、というのは、長大なDNAから直接情報を読みだして使うのではなく、まず短い部分コピーを作ってからプレーヤーにかけて再生を行う、という意味である。」
「「DNAという設計図からRNAという再生リストが構成され、そこから3Dプリンターよろしくタンパクという三次元の巨大分子が作り出されるプロセス」をセントラルドグマ、と呼んでいる。」
「ゲノムはデジタルデータならではの多くの利点を持っている。最大の利点はノイズ耐性が強いことだろう。」
「(DNAの複写の仕組み)こうやって、一対の二本鎖を、二対の二本鎖に倍化してDNAの数を二倍にするわけだが、このプロセスは所詮は化学反応なので、ある割合でミスが生じる。つまり、Aの相手がT以外、Gの相手がC以外の場所が二本鎖にできてしまうわけだ。これが生じた場合、元のDNAの塩基配列を参照すれば、正しいDNA二本鎖を作り直すことができる。非常に単純化されているが、基本これはデジタル通信における誤り訂正機能に他ならない。」
「生命が人間に先駆けてデジタル情報処理を採用できたのは、これを化学反応という極めてアナログな仕組みで実現できたからだ。仮想的な電気信号でしかないデジタル通信と異なり、DNAは現実の物体を利用したデジタル情報処理である。ATGCの四種類の分子の並び順でデジタルデータを表現する。四つの分子を並べるのは分子の重合反応で事足りる。複製を容易にするために、DNAはAとT、GとCが向き合うとエネルギーが低くなる、という原理を持ち込んだ」
「機能を持ったプログラム部分も保持している。まさに、データとプログラムがシームレスに混在した構造を取っていることが明らかになった。」
 ……こんな感じで、生命科学を、IT用語や一般の科学用語を駆使して説明してくれるのです。だから、すごく分かりやすかっただけでなく、DNAを「デジタル情報」ととらえて考えることがすごく新鮮で、新しい発想が出来そうな気すらしてしまいました。
 この他にも、「マイクロRNAスポンジ」、「ペプチド創薬、核酸創薬」など、新しい研究や知見も数多く紹介され、生命科学の最新情報も知ることが出来ます。
 ITに詳しい人だけでなく、生物学や医学を専門とする人にとっても、教科書・専門書とは違う見方での解説が、すごく参考になるのではないかと思います。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。お勧めです。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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