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第1部 本
歴史
リノベーションからみる西洋建築史(伊藤喜彦)
『リノベーションからみる西洋建築史』2020/4/6
伊藤 喜彦 (著), 頴原 澄子 (著), 岡北 一孝 (著), 加藤 耕一 (著), & 4 その他
(感想)
古代ローマの建造物に対する多様なリノベーションを皮切りに、その創造性を探りながら西洋建築史を再考し、さまざまな時代と地域におけるリノベーション事例を紹介してくれる本です。内容は次のとおりです。
第1章:都市組織の中に生き続ける古代建築
第2章:再利用による創造、改変がもたらした保全
第3章:古代末期から中世へ
第4章:歴史的建築の再利用と建築家の創造性
第5章:近世ヨーロッパ宮殿建築のスクラップ・アンド・ビルドと建築再生
第6章:線的な開発と面的な継承の都市再生
第7章「:過修復」から「保全」・「保護」へ
第8章:建築が紡ぐ人々の意志
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ヨーロッパの建築や都市では、使われなくなった建造物の部材を別の建築に使い回したり、建造物そのものを異なる用途で再利用したりすることは当たり前だったそうです。この本を読んで、古代ローマの円形闘技場の遺構の地上階が店舗や工房等に、上階は住宅や倉庫として使われたなどの再利用事例が多数あるだけでなく、教会などの建築材として再利用されたり、大々的に売買されたりしていたことを知りました。
「コンスタンティヌス帝以後、部材の再利用(スポリア)は当たり前のように用いられ、中世を通し衰退していくローマにとっては大きなビジネスでもあった。」
……そうだったんだ。考えてみれば、木造が多い日本の建築物と違って、西洋の建築物は「石」を多用しているのだから、これを再利用しない手はないですよね。重い石を新たに運ぶのに、手間や時間(探す・切り出す・運ぶ)がかかるだけでなく、廃棄するのも容易ではないのですから。
それにしても……重厚な西洋建築を「リノベーション」の観点から見たことはなかったので、すごく新鮮でした。有名な建築物に「再利用された部材」が多数あることを知ったことで、海外旅行に行ったときの「観光」がもっと楽しくなりそうな気がします。
個人的にすごく興味深かったのが、「第2章:再利用による創造、改変がもたらした保全」で紹介されていた「スペイン・コルドバの大モスク」。あの素晴らしい建築物は、創建モスクからすべての円柱が「再利用されたもの」だったとか! 創建当初からずっと、再利用による創造、改変が繰り返されてきたのだそうです。
「スペイン・コルドバの「メスキータ」として親しまれるその建築は、中世イスラーム建築の傑作として知られるが、13世紀以降はキリスト教の大聖堂として使用されるようになり、現在に至る。」
「コルドバ大モスクで連綿と続けられてきたリノベーションは、いずれも既存の建築の存在を大前提とすることから始まっているが、前身建物の扱いの丁寧さや介入度合いの強弱は実に多様である。興味深いのは、一部のリノベーションに見られるデザイン密度の薄さやある種の雑さ、いい加減さが、逆説的に、この建築を生き残らせることに繋がっている点である。再利用から創造され、使い続けるための改変によって保全されてきたコルドバ大モスクは、既存の建築の全体または一部を、物理的・造形的・観念的に再利用する行為のモデルケースとしても捉えることができるだろう。」
また「第4章:歴史的建築の再利用と建築家の創造性」では、「サン・ピエトロ大聖堂」のリノベーションの例が紹介されていました。
「(前略)この一連の再建では、旧大聖堂を聖遺物、新大聖堂を聖遺物容器とみなしていたともいわれる。聖遺物は「部分が全体である」、つまりどんな欠片であっても全体と等価値であるという考え方があり、物質的な多寡は問題ではなかった。この点、サン・ピエトロ大聖堂においては、物質的な保存よりも象徴的な保存と継承が重要であった。全体的な分量でいえばごくわずかであるとしても、旧大聖堂の部材は、アルベルティからベルニーニに至るまで、新大聖堂のさまざまな場所で再利用された。旧大聖堂が形としてほとんど残ってないことだけから保存や継承を議論しているのでは見えないことは多いだろう。」
……文化財としての価値がある建造物の保存というと、「当初の姿」を可能な限り留めるべきではないかと感じる一方で、「使えない建造物ではいけないのではないか」とも思ってしまいます。また「保全に使うための昔と同じ部材が非常に手に入れにくくて、修繕に多額の費用がかかり負担が非常に重い」という話を聞くと、修繕に使うのは似たような新しい部材でもいいのでは? と考えてしまいます。
この本を読んで、あらためて思うことは、「建造物は、美しく快適に使えることが重要」なのではないかと言うこと。「歴史ある建造物」でも、それを維持しつつリアルタイムで住んでいる(使っている)人々にとって、「美しく」「快適」なことが重要という観点で、新しい部材に一部だけ古い部材を組み込んで、リノベーション(大規模でも一部でも)していくことが必要ではないかと思わされました。
東京の丸の内などでは、巨大ビルディングの一部に、もとの石造建築物が装飾壁として残っているだけなのを見て、ちょっと複雑な気分になっていましたが、美しく・快適という意味で合理的な素晴らしいリノベーションなのでしょう。
西洋の建築物を鑑賞する、新たな楽しみを与えてくれる本でした。歴史や建築に興味のある方は、ぜひ眺めてみてください。
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