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第1部 本

天文・宇宙・時空

地球外生命と人類の未来(フランク)

『地球外生命と人類の未来 ―人新世の宇宙生物学―』2019/1/25
アダム・フランク (著), 高橋洋 (翻訳)


(感想)
 フェルミのパラドックス、ドレイクの方程式などを駆使して、地球外生命の可能性を考えることによって見えてくる人類滅亡の危機を考察している本です。
 ちなみに、「フェルミのパラドックス」とは、原子科学の研究者のフェルミさんが、「彼ら(宇宙人)はいったいどこにいるのかね?」と口走ったというエピソードで、「先進技術を発達させた地球外文明がありふれているのなら、直接的、もしくは間接的な手段によって、私たちはすでに、その存在の証拠を握っていなければならない」ということ。そして「ドレイクの方程式」とは、「地球上で検出可能な電波を発せられるまで、先進技術を発達させた文明は銀河系にいくつあるのか?」を算出する方程式のことです。
……実を言うと、『地球外生命と人類の未来 ―人新世の宇宙生物学―』というタイトルから、この本はヘンテコな宇宙人を描いたトンデモ科学ではないかと思いながら読み始めたのですが(汗)、残念ながら(?)、地球外生命を探してきた経緯や、科学的な手法を駆使して、地球外の状況と地球の壮大な歴史をたどることで地球の未来を予測するという、ごく「まっとうな」宇宙生物学の本でした。
 ということで「笑える宇宙人話」ではなかったのですが、この本の「地球環境を、宇宙的な観点から考察する」という視点が新鮮だと感じました。
 特に興味深かったのは、「第2章 ロボット大使は惑星について何を語るのか」と、「第3章 地球の仮面」。
「第2章 ロボット大使は惑星について何を語るのか」では、金星と火星の探査の調査結果から惑星の状態と気候の関係を探り、そこから未来の地球変動がどうなっていくのかについて考察しています(金星では二酸化炭素による温室効果について。火星では劇的な気候変動について)。地球の気候の物理は、火星や金星にも適用可能なようで、これら地球外の複数の惑星の調査を通して、それを知ることが出来たのだそうです。
 また「第3章 地球の仮面」では、過去の地球の気候変動について詳しく考察しています。主に気候の側面から描き出される過去の地球の話は、すごく説得力があって興味深いものでした。現在、私たち人間は、地球環境を大きく変えつつありますが、過去の地球では、生物によるさらに大規模な地球環境の激変があったそうで、それが「大酸化イベント(GEO)」。光合成を行う能力を持つ生物が出現することで、大気中の酸素含有率が飛躍的に高まった事件です。地球に比べると、すごくちっぽけに見える生物ですが、実は地球環境に大きな変化を与えるものだったんですね。地球は生物とともに共進化してきたのです。
「宇宙科学」の観点から、未来の地球の環境を考察している「科学的な本」でした。地球環境に関するいろいろな研究の紹介もあり、とても勉強にもなりました。読もうかどうか迷っている方は、「訳者あとがき」で、この本に関する概要を、訳者の方がうまくまとめて紹介してくれているので、書店などで読んで確かめてみてください。
 最後に、「訳者あとがき」からの一文を紹介させていただきます。
「(前略)著者も述べているように気候変動の問題は、ある意味で地球自体が困る問題ではなく、人類(と他の生物)が困る問題である。というのも、人類が地球の気候を滅茶苦茶にしても、地球は、人類や他の生物にとっては滅茶苦茶になってしまった気候や環境を抱えたまま泰然自若として存続いていくだけだからである。そして生命と惑星は相互作用し合っている点に鑑みれば、人間が活動すればそれは必ずや生物圏に、そしてそれを通して、地球が提供するその都度の環境に影響を及ぼさざるを得ない。(中略)宇宙生物学という壮大な観点から気候変動の問題を考察した本書は、決定的な科学的証拠こそまだ得られていなかったとしても、台風やハリケーンの被害の増大を始めとして、二酸化炭素の排出に起因すると思しき気候変動を示すさまざまな徴候が世界各地で目立ち始め、その影響が実感として感じられるようになった今日において、ぜひ読まれるべき本だと言えよう。」
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 フランクさんの他の本『時間と宇宙のすべて』に関する記事もごらんください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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