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第1部 本
天文・宇宙・時空
時空のさざなみ 重力波天文学の夜明け(Govert)
『時空のさざなみ 重力波天文学の夜明け』2018/1/10
Schilling Govert (著), 斉藤 隆央 (翻訳)
(感想)
宇宙の構造や起源を解明するため、「重力波天文学」の時代を切り拓く国際的な努力とその意義を教えてくれる本です。
2017年のノーベル物理学賞に、「重力波」を世界で初めて捉えることに大きな貢献をしたアメリカの研究者3人が選ばれたことを覚えている方は多いと思います。
2015年9月14日、アメリカ・ワシントン州ハンフォードとルイジアナ州リビングストンに設置されているレーザー干渉計型重力波検出器「LIGO」によって、ついに重力波が世界で初めて検出されました。検出された重力波は、約13億年前に太陽の29倍の質量と36倍の質量を持つブラックホール同士が合体して1つのブラックホールが作られた際、太陽3個分の質量がエネルギーに変換され放出されたものだと言われています。この「重力波の検出」は、アインシュタインがほぼ100年前にその存在を予言していて、宇宙を形作る激動の出来事と同時に、一般相対性理論の裏づけを提供することになりました。
この本は、「重力波」を考えるための基礎知識となる情報を分かりやすく解説してくれるだけでなく、研究をめぐる研究者たちの長年の努力や、世界最大級の科学プロジェクトの継続をおびやかした多くの個人的・学術的な争いまで紹介してくれます。
「重力波の検出」は、巨額の資金を必要とする大規模な装置が必要になる巨大なプロジェクトなのに、「そもそも検出できるのか?」が疑われるようなものだったので、その研究者たちには本当に大変な苦労があったのでしょう。この本は、そういう重力波研究の歴史と背景について、多くの当事者へのインタビューを通して、生き生きと描いているので、「かなり難しい内容を含む科学の本」でありながら、小説を読むような感覚でわりと気楽に(?)読み進められるという凄い本です☆
それでいて、LIGOによる重力波検出はどのように行われるのかの他、重力波研究の学問的な意義や、パルサーを使った研究、インフレーションが作る背景重力波、重力波研究をめぐる国際的協力体制、さらには将来の宇宙空間での重力波観測など、重力波の研究に関することを総合的に知ることが出来ます。
たとえば「はじめに」では次のような文章で、アインシュタインの重力に対する考えや、重力波検出の基礎知識を、分かりやすく紹介してくれています。
「アインシュタインは、重力を空間の「歪み」と考えた。重力をもつ物体が形を変えると、空間そのものにさざなみを生み出す。そうしたさざなみが地球を通り抜けると、われわれのいる空間が「震える」。重力波の通過にともない、空間が伸び縮みするのだ。しかしその効果はとても小さい。重力がとても弱い力だからだ。身のまわりにある物体のあいだに働く重力は、きわめて小さい。」
「ふたつのブラックホールが連星系になると、次第にらせん状の軌道を描きながら一体化する。両者が互いに近づくにつれ、周囲の空間の歪みが増し、ついには合体してひとつの回転するブラックホールになるのだ。そのブラックホールは激しく暴れて「鳴り響き」さらに波を生み出して、やがてひとつの静かなブラックホールとなって落ち着く。この「チャープ(さえずり)」をLIGOが検出できる。」
LIGOによって実際に重力波が検出されたことで、天文学は新たな観測手段を手に入れることが出来ただけでなく、国際的な協力の輪も広がっているようで、今後の成果にもますます期待がもてそうです。
「宇宙を理解しようとする人類の探究は、終りのない取り組みだ。これは科学のすばらしい点を言える。どの答えもまた新たな疑問を生み、広く深い知識の追求は完結することがない。重力波の探索は、最初の理論的予測から初の直接検出までまる100年に及ぶ、科学的探究の典型とも言える例だ。」
……本当にそうですね。
この本の巻末には、「付録」として、2017年に検出された「中性子星の衝突による時空のさざなみ」に関する紹介もあります。日本の検出器KAGRAも稼働を始めるそうですが、今後も新たな発見や解明が進むことを期待したいと思います。
とても興味深くて勉強にもなる素晴らしい本でした。ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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