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第1部 本
IT
インセイン・モード(マッケンジー)
『INSANE MODE インセイン・モード イーロン・マスクが起こした100年に一度のゲームチェンジ』2019/5/21
ヘイミッシュ マッケンジー (著), 松本 剛史 (翻訳)
(感想)
100年ものあいだ大手自動車メーカーが独占していた自動車産業は、テスラの参入によって革命がもたらされ、コネクティビティ(C)、自動運転(A)、シェアリング(S)、電気化(E)が収斂する全く新しい市場が誕生しました。この本は、テスラに勤務したことがあるジャーナリストのマッケンジーさんが、徹底した取材に基づいて、テスラなどの新興自動車企業の実態を紹介するとともに、自動車産業の未来を考察するもので、次のような内容です。
「これは、決意に燃えたあるシリコンバレーのスタートアップ企業がどうやって自動車産業全体を変え、カリフォルニアから中国に至る資金豊富な後発企業を続々と生み出させたかという話だ」
さて、タイトルの『インセイン(狂気)・モード』は、2014年10月にテスラのマスクさんが行ったモデルSの紹介イベントでの次のエピソードに由来しています。
「それからマスクは、ジェット戦闘機のような挙動をするクルマを売るということ、そこに内在するいろいろな可能性を楽しげに語った。「ああ、イカれた話だ」と彼は続け、えくぼのある笑みを浮かべた。「オプションとして、三つのモードから選ぶことができる。ノーマル、スポーツ、それからインセイン(狂気)」。笑いが少しずつ波のように、聴衆のあいだに広がっていった。」
マスクさんと言うと、金融のペイパルや民間ロケットのスペースX、そして電気自動車のテスラなど華々しい活躍を続けている超人というイメージがありましたが、この本では、テスラが切り開いてきた新な地平ともに、直面してきた様々な現実的な難題との戦い(有名な炎上事故の影響から自分たちの安全記録を守ろうとする戦い、自動車ディーラーに対抗して自社の販売モデルを守ろうとする戦い、根深い航続距離への不安との戦い等々)を知ることができました。
マスクさんは、「これまでの慣例を破って、テスラの特許を誰でも自由に使えるようにした」そうですが、その行動の背景には、「もしいま持続可能なエネルギーに切り替えずにいたら、地球上に住む人々の未来はどうなるのか?」という倫理的な使命感があるそうです。
テスラなどのシリコンバレーの企業が牽引する形で、電気自動車(自動運転車)が、未来のクルマの主流となることは間違いないでしょう。
考えてみれば、1913年にライン生産方式で生み出されたフォードのモデルTが生み出された頃、ガソリンスタンド網は整備されていませんでした。それなのに現在は、世界中で自動車が走り、容易に給油することが出来るようになっています。このモデルT時代の厳しい状況に比べれば、電気自動車の「充電スタンド不足」問題など、さほど困難な問題ではないような気がします。すでに電線の方は、張り巡らされているのですから。
さて、この本はアメリカのテスラの電気自動車の紹介がメインではありますが、今後の電気自動車業界を牽引していくのは、もしかしたら中国になるのかもしれません。「世界の製造工場」と言われる中国には、すでに高いIT技術があり、広い国土から必要な各資源を調達でき、太陽電池や充電池の製造にも秀でています。そして巨大市場(人口)があり、さらに深刻な大気汚染問題を抱えています。これらの状況を背景に、中国には、すでに多くの電気自動車関連企業が続々と生まれているようです。
この本で、テスラをはじめとする新興の電気自動車産業の苦闘の実情(経緯)を知ることが出来ただけでなく、今後の自動車産業を考察する上でも役立つ情報をたくさん知ることが出来ました。これら新興の自動車産業が、既存の自動車産業と協働して、私たちの未来を、より安全で快適な社会環境に変えていってくれることを願わずにはいられません。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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