ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)
第1部 本
脳&心理&人工知能
「こころ」はいかにして生まれるのか(櫻井武)
『「こころ」はいかにして生まれるのか 最新脳科学で解き明かす「情動」』2018/10/17
櫻井 武 (著)
(感想)
「こころ」はいかにして生まれるのか……脳神経科学者の櫻井さんが、「こころ」の生成プロセスと作動原理を解き明かしてくれる本です。
実は、『「こころ」はいかにして生まれるのか』というタイトルから、生物として最高次に知的な働きを行う私たち人間の「心」のことを言っているのだと考えてしまいましたが、ここで言っている「こころ」は、「理性」というよりも、「情動」を表すものとして使われていました。論理的思考をする脳の働きを解き明かすというよりも、危機に際して素早い意思決定を行うことが出来る「情動」に関わる「こころ」の動きに特に着目したものです。高度に理性的な働きも行える人間の「脳」の、より根源的、本能な働きを、生理学・脳神経学的に解説してくれている本だと思います。
「第2章 「こころ」と情動」には次のような記述がありました。
「感情を客観的に評価して記載するための概念が「情動」である。」
「情動は、自律神経系および内分泌系を介して、全身の機能に大きな影響を与える。むしろ、全身の応答を含めたものが「情動」という概念であると考えたほうがいい。こうした生理的な変化は正確に測定可能な情報であり、行動の変化とともに、これらの変化をとらえることにより、客観的に動物やヒトの情動をとらえて科学的に記述することが可能になる。情動とは、行動の変化と全身の生理的な変化から、対象となる動物やヒトの感情を客観的かつ科学的に推定したものであるともいえる。」
また「第4章 情動を見る・測る」の「まとめ」には次の記述がありました。
1)情動の高まりは表情をふくむ行動、交感神経の興奮、副腎皮質ホルモンの上昇に表れる
2)情動は行動、自律神経系、内分泌系の測定によって観察できる
3)脳機能画像解析により偏桃体の興奮を測定することも情動を測定する一手段である。
4)動物を用いて偏桃体や視床下部室傍核の活動を調べることにより、情動を推し量ることができる。
*
なるほど。「こころ(情動)」は科学的に測定できるんですね……。
「第7章 「こころ」を動かす物質とホルモン」には、「情動」と作用しあう化学物質として、次のようなものが紹介されていました。
・「気分」に作用するモノアミン類:ノルアドレナリン、アドレナリン、ドーパミン、セロトニン、ヒスタミンなど、
・認知と注意にかかわるアセチルコリン
・神経ペプチドの多彩な作用(オキシトシン、バソプレッシン、エンドルフィン、オレキシンなど)
・脳に作用するホルモン
*
このように、「こころ」には、脳内物質やホルモンなどが大きく影響を及ぼしているようです。「終 章 「こころ」とは何か」には、次のように書いてありました。
「実際にはさまざまな環境因子が、さまざまな割合で大脳辺縁系や報酬系の活動に影響しているものだ。その割合によっても「こころ」のあり方は大きく影響を受ける。」
「「こころ」は脳深部のシステムの活動、いくつかの脳内物質のバランス、そして大脳辺縁系がもととなる自律神経系と内分泌系の動きがもたらす全身の変化が核となってつくられている。また、他者の精神状態は表情を含むコミュニケーションによって共感され、自らの内的状態に影響する。そして最終的には、前頭前野を含む大脳皮質がそれらを認知することによって、主観的な「こころ」というものが生まれるのである。」
……「こころ」について、脳神経の生化学的側面に着目して総合的に解説してくれる本でした。でも、「こころ」を生むものって、「脳内物質やホルモンの働き」とか、そんな単純なものだけじゃないよなーと、ぼんやり考えながら読んでいたら、終わり近くに次の文章が。
「「こころ」は脳深部のシステムの活動、いくつかの脳内物質のバランス、そして大脳辺縁系がもととなる自律神経系と内分泌系の動きがもたらす全身の変化が核となってつくられている。また、他者の精神状態は表情を含むコミュニケーションによって共感され、自らの内的状態に影響する。そして最終的には、前頭前野を含む大脳皮質がそれらを認知することによって、主観的な「こころ」というものが生まれるのである。」
「「こころ」とは、行動選択のためのメカニズムである。そして「こころ」には、学習機能が備わっている。それゆえに「こころ」は、社会の変化にともないこれからも変化していくのだ。」
……全体として、心理学とは違う、生理・神経科学的なアプローチで、「こころ」の働きを総合的・科学的に解説してくれる本でした。この本で、「こころ」がどのように生まれるのかのすべてを解明できるとは思いませんでしたが、人間の「こころ」も、ホルモンや脳内物質の化学反応がもとになっている(相互作用している)ことは間違いないでしょう。そういう意味で、とても勉強になりました。脳の働きや人間の心理について、知りたいと思っている方は、ぜひ読んでみてください。
* * *
なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
Amazon商品リンク
興味のある方は、ここをクリックしてAmazonで実際の商品をご覧ください。(クリックすると商品ページが新しいウィンドウで開くので、Amazonの商品を検索・購入できます。)