ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)
第1部 本
生物・進化
星屑から生まれた世界(McFarland)
『星屑から生まれた世界 進化と元素をめぐる生命38億年史』2017/12/4
Benjamin McFarland (著), 渡辺 正 (翻訳)
(感想)
「化学で読み解く、地球の誕生と生命進化の歴史物語」です。
『ワンダフル・ライフ』著者のグールドさんは、進化における「偶然性」を重視しましたが、この本の著者のMcFarlandさんは、生物が使える元素は地球の地質史が決め、進化の方向性には一定の法則があると考えているようです。多様な分野の視点と先人の研究を踏まえれば、地球に生命が生まれ、体内のしくみを洗練してきた道筋の理解には、化学の原理つまり元素(エレメント)と周期表がカギなのだとか。
「化学・生物・地学・物理」のすべてが関係する壮大な進化の物語が、科学(化学)的な証拠に裏付けられたミステリーの謎解きのような面白さで描かれる素晴らしい本です☆
……とは言うものの……すごく面白くてわくわくさせられる物語であることは確かですが、少し長いだけでなく知識量がハンパないので、読み進めるのにはちょっと苦労してしまいました(汗)。
でも幸いなことに、「訳者まえがき」で訳者の渡辺さんが、この本は「周期表が教える元素の性質をもとに、生命誕生の舞台を整えた時代を振り返りながら、38億年間の生命史を科学者の目で解剖している」とした上で、要点を簡潔にまとめてくれていたので、読む前にだいたいの概要を知ることができて読み進める助けになりました。ここでも、まず、それを紹介させていただきます。
1)万物は原子からでき、安定な原子の種類(元素)は数十ある
2)物質をつくる元素は、岩(さかのぼれば星屑)の成分だった
3)物質の性質も変化も、明確な化学の法則に従う
4)生命が体づくりとエネルギー発生につかう物質(元素)は、天然に量が十分あって、性質が適切なものでなければいけなかった
5)生命の進化を促したのは、偶然(遺伝子の変化)と必然(化学環境への適応)のからみ合いだった
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さて、「生命のおもな必須元素」は以下の三つに分類できるそうです。
1)体の素材(炭素C、水素H、酸素O、窒素NとリンP、硫黄Sの6元素(+微量のセレンSe、ヨウ素I)、エキストラとしてカルシウムCa
2)電荷バランス(各種のイオン)
3)触媒作用
「ともあれ、生命の必須元素になるか毒性元素になるかは、周期表の教える化学的性質が決める」
……地球の岩はそのときの環境に応じて「化学反応」で生成され、生物も、おなじように生成・進化してきたと言うのです。
たとえば地球上に生命が爆発的に増えた「カンブリア爆発」には、「酸素」という元素が大きく関わっているそうです。
「生命が爆発したカンブリア紀も石炭紀も、酸素が激増した時期にあたる。」
「光合成生物の出す酸素はエネルギー発生量を上げ、ものづくりの選択肢を増やしたほか、岩を化学風化させてリンや金属イオンも海水中に増やし、生物の進化を促した。溶け出た大量のカルシウムイオンは、細胞内に入れば毒だけれど、体外の殻や体内の骨をつくる素材になる。エネルギー効率のよい頑丈な体を得た生物が、藻類マットを掘り進んで新しい棲みかにした。やがて生物は古来のアミノ酸などに酸素原子をつけ、細胞どうし、生物どうし、器官どうしの交信に使うシグナル分子を発明する。そうやって酸素は、多細胞生物を進化させる素材になり、動力にもなった。」
この本は、科学(とりわけ化学)の視点から、地球の生命38億年史をひろく考察していて、こういう視点から地球史や生物史を考察したことがなかった私にとって、すごく新鮮でした☆
以下の3つの科学現象が地球を変えていったのだそうです。
1)物理学:熱の循環が地球内部を冷やした
2)地質学:プレート運動と降雨が地球の表層をかき混ぜた
3)生物学:海中の光合成生物が大気に酸素を増やした
……なるほど……科学知識を総動員して地球や生命の歴史を眺めると、こんな風に考察できるんだなーと、ちょっと衝撃的なくらい、わくわくさせられました。
そして「わくわく」はさせられたものの……なぜかロマンの方はどんどん失われていきました(汗)。この本のタイトル『星屑から生まれた世界』の「星屑」っていうフレーズ。「私たちは、星のかけらなんだよ」という言葉からは、無数の星が静かにきらめく宇宙、永遠のように続く時間のなかで、一瞬きらりと輝く小さな命……みたいなロマンを感じていたのですが、この本を読み進めるうちに、うーん、そうかー、私たちって「化学反応しているもの」で、そこらに転がっている石とも、あまり変わらない素材で出来ているんだなー。それが「星屑」ってことか。……ところで、さっき食べたもので、私の体内のマグネシウムとかカリウム・イオンのバランスは取れているのだろうか、ミネラル摂取には気をつけないといけないなー、なんていう現実的(化学的)な心配ばかりが先行していきました。『星屑から生まれた世界』……ロマンチックなタイトル(邦題)なのに、化学屋ってヤツは、ロマンのかけらもないんだなー、なんて考えていたのです(汗)(ちなみに原題は『A World from Dust』なので、もともとロマンを期待させるものではありませんが)。
ところが……最終章の終り、「日暮れごろ、ひとりで散歩しようと浜に出た。浜辺に立ってあたりを見回す。下半分が砂に埋もれた緑の蛇紋岩は、太古の地球で水素づくりを仲立ちし、生命の誕生を助けたのかもしれない。」から始まる情景は、とても美しくて感動的でした……。この本は、本当に、次の文章の通りの物語だったと思います。
「端正な周期表に始まって「美しい複雑さ」に終わる、みごとな物語だろう。話の筋を追った人なら、心を世界としっかり結び、世界を真の故郷だと感じるにちがいない。」
いろんな科学が総動員されていて、すごく勉強になり、新しい視点からの「進化論」にわくわくさせられる素晴らしい本でした。「周期表」って本当に凄い☆ かなり難しい本ですが、科学の力や面白さを実感できるので、学生の方にもぜひ読んで欲しいと思います。だんぜん、お勧めです☆
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