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第1部 本
生物・進化
「生命多元性原理」入門(太田邦史)
『「生命多元性原理」入門』2018/9/12
太田 邦史 (著)
(感想)
「多様性」をキーに、DNA組換えやエピジェネティクス、進化や発生の原理など、最先端の生命科学を解説してくれる本です。目次は次の通りです。
第一章 地球生命史と生命多元性
第二章 DNAから考える
第三章 究極的目的から考える
第四章 「個体」と「発生」から考える
第五章 生命の多元性、人間の多元性
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「第一章 地球生命史から考える」では、生物が地球上の生命史における系統進化の過程で、どのように多元性を利用してきたかを紹介してくれます。生物の多様化には、多細胞化、有性生殖と遺伝的組換えの獲得、Hox遺伝子群など体軸遺伝子の確立、骨格の登場、眼・感覚器の獲得と軍拡競争が重要な役割を果たしてきました。また、実際に生物が多様化するきっかけを与えるものとして、地球大の大規模環境変動や、大量絶滅が大切なはたらきをしてきたようです。
「第二章 DNAから考える」では、ゲノムDNAやエピゲノムの仕組に内在する多元性原理を、メカニズムや物質面から教えてくれます。
「生物は万能ドライバーのように、「変えない部分」と「変える部分」をうまく使い分け、環境変化に適応して変化し続けるDNAメカニズムをもっているのである」のだとか。本当に「生命」はうまい仕組みになっているんだなーと感心させられました。
「第三章 究極的目的から考える」では、「生命の多様化戦略の本質は、ひとことでいうと、環境に適応し、学習・進化することにある。その過程で、生物はカオスの縁という創発に有利な絶妙なレベルでゆらぎを作り、反復可能な強化学習・淘汰システムを用いて、離散的な生成物を獲得していく。この生成物はさらに多様化し、同じ淘汰システムが繰り返され、より環境に適した存在に変化し続けていくのである」ことを教えられました。
また、この章ではAI(ディープ・ラーニング)やロボットに関する次のような考察もあり、とても興味深く感じました。
「今後自己増殖・維持機能をもつロボットなどを開発する場合は、ロボット自体に事前に何らかの老化や自己消滅機構が実装されていたほうが安全であると考えられる。」
「もし人工生命体を構築しようとするなら、(少なくとも一部の)構成パーツには自律複製・変更可能な「情報性」を付与し、さらに個々の人工生命体の間に相互作用をもたせる必要があるだろう。」
「ディープ・ラーニングでは、多様でノイズのある連続的な認識対象を、階層的なネットワークによる試行錯誤的な学習サイクルにより、何度も処理していくことで、対象の特徴情報を抽出・分離していく。生物進化の過程においても、生物ネットワークにおける淘汰(一種の学習)を用いて、多様でゆらぎ(ノイズ)のあるDNA情報が組換えによって「演算」され、結果として生物種が分離していく。」
さらに「第四章 「個体」と「発生」から考える」では、生物が、「基本的で共通のプロセスを用いながら、個々の組織や器官をさまざまな形に作り上げるため、細胞間のネットワークやコミュニケーションをダイナミックに駆使」していることが語られます。
そして最後の「第五章 生命の多元性、人間の多元性」では、生物多元性の原理と、現代思想との関連性についての考察がありました。
「生物においても人間社会においても、変動する外部環境の中で長期間の持続可能性を保持するためには、多元性が根源的に重要な役割を果たすことを述べてきた。多元性原理は変化に対応し、システムを高次レベルに発展させていくために不可欠なのである。短期的視点では無駄に思えるゆらぎや標準外の存在が、世の中を変えていき、環境の変化に適応するための強靭性をもたらしている。このようなことは、現代の効率化を追い求める社会で忘れがちである。また、一部の国で顕在化する情報の国家管理、個人の尊厳や個性に対する抑圧、狭い意味での民族主義の台頭などは、人類社会の多元性を失わせるものである。」
……確かに。この本は、多元性をキーワードとして、地球生命史やDNAなど生物学で重要な概念を、とても分かりやすく解説してくれます。生物学を学んでいる方にはもちろん、生物や人間に興味がある方にとっても参考になることが多いと思います。ぜひ読んでみてください。
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