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第1部 本

脳&心理&人工知能

「人工知能」前夜(杉本舞)

『「人工知能」前夜 ―コンピュータと脳は似ているか―』2018/10/19
杉本舞 (著)


(感想)
 バークリー、ウィーナー、フォン・ノイマン、そしてチューリング……科学者たちは「人間のように思考できる機械」を夢見て、人間の脳を模したモデルを研究してきました。計算機とコンピュータの開発の歴史から、「人工知能」の新たな一面を明らかにしてくれる科学史です。内容は以下の通りです。
第1章 雑誌の記事と「機械の脳」
第2章 バークリーと巨大頭脳
第3章 サイバネティクス研究者たちと機械・神経系・脳
第4章 フォン・ノイマンと計算機・脳・オートマトン
第5章 チューリングと機械の知能
第6章 『オートマトン研究』からダートマス会議へ
   *
『「人工知能」前夜 ―コンピュータと脳は似ているか』というタイトルだったので、「人工知能」が私たちの社会をまさに変えつつあるという「シンギュラリティ前夜」、「人工知能と脳」最前線の話かと勘違いしたのですが、実際には、これまでの「人工知能と計算機」の歩み(歴史)をたどった本でした。
 想像した内容とは違っていましたが、読む価値は大いにあったと思います。「人工知能」については、かなり知っているつもりでしたが、この本は、コンピュータによる「人工知能」ブームが始まるよりさらに昔の、萌芽期ともいえるような昔の話まで紹介されているので、「人工知能」の歴史的な経緯を、とても詳しく知ることが出来たからです。
 第1章では、20世紀初頭(1940年代まで)の一般向け科学雑誌の記事の分析から、コンピュータが登場する以前から、雑誌では、機械を脳に例えることが定番の表現だったことが確認されます。
 第2章では、『巨大頭脳』の著者のバークリーが、コンピュータは「論理的推論ができる」という意味で「頭脳」ととらえることが出来ると考えていたことなどが示されます。
 第3章では、ウィーナーが先導した学際研究運動「サイバネティクス」で、機械と生物体(神経系)の類比が示されたことや、マカロック-ピッツによる記号論理を用いた神経網のモデル化について検討されます。「サイバネティクス」自体は残念ながら尻すぼみで終わってしまいますが、フォン・ノイマンなど、計算機科学の基礎を作っていく科学者たちも参加していて、その後の人工知能研究に影響を与えたようです。
 第4章では、フォン・ノイマンが、マカロック-ピッツのモデルとチューリングによる計算モデル、そして計算機と脳の類比をふまえた上で、自分のオートマトンの理論をどのように構築していったかが紹介されます。
 第5章は、チューリングの「機械の知能研究(1940年代末~1950年代初頭)」についての考察です。
 そして第6章は、「コンピュータと脳の類比」をふまえた研究の方向性が1950年代にどう変わったかについて、ミンスキーとマッカーシーらの『オートマトン研究』から、人工知能研究の端緒と言われる「ダートマス会議」に至る流れを追います。
 さらに1960年代と1980年代の二度のブームを経て、2010年代後半になってから、三度目の人工知能ブームが到来しています。
 この本は、現在、当たり前のように受け止められている「脳とコンピュータの類比」が、歴史的にどのように考えられてきたかを紹介してくれるとともに、人工知能研究の歴史や概要も解説してくれました。
 個人的には、チューリングの「機械の知能」に関する説明に感銘を受けました。ちょっと長いですが、以下に紹介させていただきます。
「自分に与えられた「命令表(プログラム)」を必要に応じて自分自身で書き換えるような計算機を想定する。この計算機が作動しはじめてから一定の時間がたったとき、この計算機がそれまでと変わらずなにか意義ある計算をしていて、しかも計算機のプログラムをみるとその内容がすっかり書き換えられて分からないほどになっている、ということがありうる。このとき、この計算機は自分で「多くのことを付け加える生徒」のようなものである。こういった場合に、チューリングは機械が「知性を示したとみなさざるをえない」と言う。この方向で計算機の実験を試みるのに必要なのは大容量のメモリであり、そういった計算機は「経験から学ぶ」ことができるような機械ということになる。なお、チューリングによれば、ある計算機が知性を示すようなことを期待するのであれば、そういった計算機がいつも正確に計算や処理をおこなうだろうと考えるべきではない。なぜなら、知性ある人間の数学者であってもしばしば間違った結論を導くからである。また、人間の標準的な能力を鑑みて、そういった計算機が際立って優れた業績をあげることも期待すべきではない。」
 ……チューリングさんの先見の明、凄いですね。もっとも個人的には、たとえ「人工知能」であっても、少なくとも「計算」だけは常に正確であって欲しいと願ってしまいますが……。それでも、「画像認識」や「お勧め商品」など「分析や評価」的な部分については、「人間と同じ程度に不正確な可能性がある」ことを許容すべきなのかもしれません。
『「人工知能」前夜』……知られざるAI誕生以前の物語を含め、人工知能研究の歴史的経緯を紹介してくれる本でした。人工知能に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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