ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)

第1部 本

脳&心理&人工知能

予測マシンの世紀(アグラワル)

『予測マシンの世紀: AIが駆動する新たな経済』2019/2/6
アジェイ アグラワル (著), ジョシュア ガンズ (著), & 2 その他


(感想)
 製造、流通、マーケティング、人事、金融、医療、翻訳、司法、戦争……あらゆるビジネス領域にAI(人工知能)が組み込まれ、経済の地殻変動が起きています。この激変期を勝ち抜くための競争戦略について、三人の経済学者が、AI(=予測マシン)の真のインパクトを解明している本です。
 ここで言う「予測」とは、「情報の欠落部分を埋め合わせていくプロセス」を意味しています。
「予測においては、しばしば「データ」と呼ばれる既存の情報を利用して、まだ持っていない情報を生み出していく。しかも未来についての情報だけでなく、現在や過去についての情報も生み出す。」
 だから通常の意味での「予測」だけでなく、「英語にマッチする日本語の単語やフレーズを予想する」という意味で「翻訳」も予測に含まれ、「この状況で人間ならどうするかを予想する」という意味で「自動運転」も予測に含まれています。……かなり広範囲な意味として使用されているようです。
 機械学習によるAI(人工知能)の進歩が重視されているのには、次の3つの理由があるそうです。
1)この技術に立脚するシステムは学習し、時間とともに改善していく。
2)特定の状況において、こうしたシステムはほかのアプローチよりも著しく正確な予測を行う。
3)こうしたシステムは予測の精度が向上した結果、翻訳や車の運転など、かつては人間の知能の独占領域と考えられていた分野のタスクをこなせるようになった。
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 データを学習することで、どんどん賢くなる(予測精度を上げる)AIは、人間の仕事を奪ってしまうと懸念されていますが、必ずしもそうではなく、人間とAI(予測マシン)は、互いの得意分野で分業していくことになるのでしょう。
 ……というか、今後、人間は、AIへの「教育支援」や「不得意分野のカバー」としての役割が期待されているような気がします。この本には、次のような記述がありました。
「予測に関しては、機械にも人間にもどちらにも長所と短所がある。予測マシンの性能が改善するに伴い、企業は人間と機械による分業体制を調整していかなければならない。様々に異なる指標のなかから複雑な相互作用を見つけ出す作業に関しては、人間よりも機械のほうが優れており、データが豊富なときは特に素晴らしい結果を残す。(中略)データが生成されるプロセスについて理解することが予測にとって有利になる状況では、人間の方が機械よりも優れている。データが少ない状況では、特にその傾向が強い。」
「予測マシンはスケールする。予測の頻度が増えれば、予測当たりの単位コストは下がっていく。人間の予測は同じようにスケールすることができない。しかし人間は、世の中の仕組みを理解するために役立つ認知モデルを創り出し、少量のデータに基づいて予測を立てることができる。したがって、これからは人間が例外予測を行う事例が増えると予想される。」
「決断を各構成要素に分解すれば、予測マシンが人間やほかの資産におよぼす影響を理解できるようになる。予測マシンが進歩すると、それまで代わりを務めていた存在、すなわち人間による予測の価値は減少する。しかしその反面、データ収集や判断や行動に関わる人間のスキルは、補完材としての価値が高くなる。」
 ……AI(予測マシン)が活躍する未来は、今よりも便利で快適になることを期待していますが、彼ら(AI)が私たち人間に期待することは、「自分たちの手足となってのデータ収集や行動」、「自分には判断が難しいレアな状況での判断」などになるのでしょう。「手足」の方はともかく、「頭」の仕事は、人間にとってもすごく困難そうですね……(汗)。
 また、AIのリスクとしては、次のようなものが考えられるそうです。
1)AIによる予測は差別につながりかねない。
2)データが少ないとAIは効果を発揮せず、質の低下がリスクとして発生する。
3)不正確な入力データに予測マシンがだまされると、ユーザーはハッカーからの攻撃の影響を受けやすくなってしまう。
4)生物多様性と同じく、予測マシンの多様性には個人レベルの結果とシステムレベルの結果のトレードオフが関わっている。多様性が少ないほうが個人レベルの性能は向上するが、大規模な障害が発生するリスクが拡大する。
5)第三者が予測マシンを情報源として利用することは可能で、そうなると知的財産が盗まれ、弱点を突いた攻撃を受けやすくなる。
6)フィードバックを操作されると、予測マシンは破壊的な行動を学習してしまう。
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 AI(予測マシン)は今現在も、どんどん賢さを増しているので、今後、私たちの社会のいたるところで使われていくことが予想されます。彼らとどう付き合っていく(分業・協働していく)のかを考える上で参考になる本でした。経済学者の視点で書かれているのでIT技術が苦手な一般の方にも分かりやすいと思います。ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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