ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)
第1部 本
生物・進化
知られざる地下微生物の世界(オンストット)
『知られざる地下微生物の世界 ―極限環境に生命の起源と地球外生命を探る』2017/8/25
タリス・オンストット (著)、松浦俊輔 (翻訳)
(感想)
放射能を利用する微生物、地下三千メートルに棲む線虫……地質学者のオンストットさんたちが、地下生命の謎を解き明かすために行った様々な命がけの調査を紹介してくれるサイエンス・ノンフィクションです。
地下深くに棲む生物というと、鍾乳洞に生きている、なにやら謎めいた白っぽい生物(目がない)なんかが思い浮かび、そんな環境は、「暗いけど気温はやや涼しくて快適なところ」のような感じがしていましたが、この本に出てくる「地下深く」は想像以上の深さ! 実は「地下深く」はマグマのせいですごく暑かったり、ガスが豊富で高気圧だったり、酸素が少なかったりと、生物にとっては超・苛酷な環境なのだとか。……確かに。すごい「極限環境」のようです。
この本では、そんな「極限環境」の微生物の研究をしている地質学者の生活を、すごくリアルに知ることが出来ます。
「地下深く」まで行って、研究のためのコア採取をするためには、膨大な資材(費用)が必要になってしまうので、「地下鉱山」会社の協力を得て、その鉱山と機材・技術者を利用させてもらうことが多いようです。オンストットさんは、極限環境の微生物を求めて、南アフリカの金鉱の地下深くに潜り、また北極圏の鉱山で氷を削り……世界中の過酷な環境でコアを採取・研究していて、そのための研究費の申請や、研究基地の設営、学会での発表、各国の社会情勢など、研究をする上での苦労話が満載。海外での生物研究に興味のある方には、すごく参考になるのではないでしょうか。
また、鉱山での掘削に関しては、実際に現地で地下に潜って仕事をしているので、地下深くのいろいろな状況を、すごく具体的・現実的に紹介してくれます(鉱山に入る前には健康診断を受けるなど、細かいことまで書いてあります)。
そして、そんな大変な努力をして掘削して獲得する「コア」が、地下環境以外のもので「汚染」されて無駄になってしまわないように、また、万が一「汚染」されてしまったら、それが分かるようにコアを掘削するための工夫をこらした採取方法も、イラストなどで具体的に紹介されています。(……が、日本語訳が少し分かりにくいところがあるので、学術的に内容の詳細を知りたい研究者の方は、原文の方も読んだ方がいいかもしれません)。
これらの「極限環境(鉱山)」での仕事っぷりは、「地下生命体」などを題材としたSFを書きたい方にとって、すごく参考になる資料としても役に立つのではないかと思いました(笑)。
実を言うと、この本を読もうと思った動機は、そもそもSF的興味(ゴジラやエイリアンなどの怪獣やSF映画に抱くのと同じ興味)だったのですが、「極限環境にいる地下微生物」の研究は、まさに「SF的にも」役に立つようです。地下深部(ベアトリクス金鉱の地下1600m)で発見された線虫に関して、オンストットさんは、次のように書いています。
「線虫のような多細胞生物がこれほど酸素の少ないところで生き延びられるということには、火星や、とくにエウロパの地下生物にとってとてつもない意味がある。宇宙生物学者が、光分解、放射性分解でできる酸素濃度が低すぎて複雑な生物は無理ではないかと言っているところだ。地下生態系の生物の複雑さはSSPの当時に私たちが信じていたよりもはるかに複雑らしい。カルスト帯水層の場合は、そうした複雑な生態系やもっと大型の住民の余地は、微生物が生産する硫化水素によって生まれ、その硫化水素は、他の微生物によって酸化されるのだ。」
「地下微生物」は、火星にいるかもしれない生物(地球外生命)や、地球の生命の起源(酸素や有機物のない環境で生きられる生物)を考える上で、すごく重要な役割を果たすようです。
さて、この本では、「極限環境」を「汚染」せずにコアを掘削して試料を得ることに大変な努力を払っているようでしたが、逆に「汚染されてしまった環境」を利用して、「そこに何が生きている(生きられる)か」を研究することにも意義があるんじゃないかな、とも考えさせられました。実は「地下深部で発見された線虫」の近くには、ゴキブリやクマムシなども生きていて、それらは鉱山が掘削された後に、人間とともに入り込んだのかもしれませんが、そこから出ることなく地下深くでも生きていけるなら、その「極限環境」に適応していると言えるのでしょうし、それらの「外来生物」を研究することにも価値がありそうな気がします。もっともそのゴキブリなどが「なにか人間による残留物(食べこぼしなど)」に依存しているなら、あまり価値はないかもしれませんが……。
430ページ以上もの分量のあるサイエンス・ノンフィクションで、すごく読み応えがありました。その他、多数のコラム的な内容を含む大量の「注」や、年表(地下生命探査年表など)、索引も充実しているので、生物研究をしている方には、特に参考になると思います。読んでみてください。
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