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第1部 本
生物・進化
フィールドサイエンティスト(佐藤哲)
『フィールドサイエンティスト: 地域環境学という発想 』2016/1/29
佐藤 哲 (著)
(感想)
アフリカのマラウィ湖、石垣島白保のサンゴ礁、アメリカのコロンビア川流域など、さまざまな地域をフィールドにしてきた佐藤さんが、多様なステークホルダーと協働して「地域環境学」という問題解決指向の新しい学問を立ち上げていく知的探求の物語です。
佐藤さんは、魚類生態学者として、アフリカのタンガニイカ湖でナマズの生態などを研究していたのですが、しだいに彼の関心は、魚類の生態だけではなく、そのフィールド(地域)に暮らす人たちを含む社会や生態系へと広がっていったそうです。研究対象が野生のナマズである以上、その生息域の環境に関心が広がっていくことは当然のことですが、佐藤さんはそれだけでなく、もっと広い視野で自然環境と人間社会との関わりを深く考え始めることになりました。
そして、アフリカから帰国後、WWFJの自然保護室長として、石垣島白保にあるWWFサンゴ礁保護研究センターにおいて、地域の社会や生態系に密着した課題駆動型で問題解決指向の科学に取り組み、「地域環境学」という新しい発想の環境学を立ち上げました。それから国内のさまざまなフィールドはもとより、世界のフィールドを駆けめぐり、地域環境学のネットワークをつくりあげていきます。この本は、そんな佐藤さんの活動経緯と、考え方をまとめたものです。
個人的には、環境問題というのは、すごく難しいと感じていました。もちろん自然環境を守るというのはすごく大切なのですが、人間の営みだってある意味で「自然」の一部だと考えていたので……。だから「人間が汚さなければ、地球環境は守られるはず」というのはちょっと違うかな、と思う一方で、街を散歩していて汚れた川を見ると、「ゴミを捨てないで欲しい」と悲しく感じたりもする……という矛盾するような複雑な思いがありました(汗)。この本を読んでいる時も、何かもやもやした思いが胸にわだかまっていたのですが、「第3章 里山を活かす」の中の「コウノトリが生息できる環境を再生するというビジョンは、多くのステークホルダーの間で緩やかに共有されてはいるが、それぞれの利害や価値観の相違は維持されており、意見の衝突や利害の対立はしばしば発生している。(中略)考えてみると、ひとつの価値の実現にすべての人々が賛同し、一丸となって活動するという状態は社会の硬直化を意味するのかもしれない」という文章に、はっとさせられました。また「第4章 アメリカのコロンビア川」の中の「だれも満足していない。けれども動いていく」という状態が、現実の社会が動いていくために重要なのである」という文章にも共感を覚えました。自然保護と生物(人間を含む)の生活の、両方のバランスが大事なのだと思います。すべての人に読んで欲しい本だと思いました。
さて、佐藤さんたちは、2007からの「長野大学恵みの森再生プロジェクト」を通して、「里山再生ツールキット」を作りだしたそうです。これは、里山生態系の多様な生態系サービスのなかで、基本的な生態系機能を失わないかたちで、供給サービスや文化的サービスを利用した地域社会の持続可能な開発を促すポテンシャルを持つツールを、可能な限りたくさん創出し、さまざまな地域社会の状況や背景に応じて、地域のステークホルダーがそのどれかを選んで活用できる選択肢を提供しようというアイデアだそうですが、とても素晴らしいアイデアだと思いました。今後の活動にも期待したいと思います☆
最後に、「シマフクロウの森づくり100年事業」の「虹別コロカムイの会」の舘定宣会長の言葉を紹介させていただきます。この言葉は、佐藤さんもご自身の活動に迷ったときに思い出すそうです。
「シマフクロウをシンボルに、地域の基幹産業である酪農、漁業を未来永劫にわたって存続させたい。自分の目では見られなくても、きっと100年後にはその基礎ができている」
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