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第1部 本
地質・地理・気象・地球環境
人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか(中川毅)
『人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか (ブルーバックス) 』2017/2/15
中川 毅 (著)
(感想)
人類は誕生してから20万年、そのほとんどを現代とはまるで似ていない気候激変の時代を生き延びてきました。この本は、福井県の「水月湖」に刻まれた過去の精密な記録(年縞)から気候変動のメカニズムに迫り、人類史のスケールで現代を見つめ直しています。
「年縞」とは、堆積物が地層のように積み重なり縞模様を成しているもので、樹木の年輪に相当しているそうです。2012年、福井県にある風光明媚な三方五湖のひとつ「水月湖」の年縞が、世界の年代測定の基準=「標準時計」になりました。世界中の研究が、その年代特定で福井県水月湖の「年縞」を参照するようになったのです。この快挙を実現したプロジェクトを率いたのが著者の中川さんなのだとか。プロローグには、次の文章がありました。
「水月湖では、地質時代に「何が」起きたかだけではなく、それが「いつ」だったのかを世界最高の精度で知ることができる。タイミングが正確に分かるということは、変化のスピードや伝播の経路が正確に分かるということでもある。(中略)水月湖の年縞堆積物から気候変動を読み解くプロジェクトはまだ進行中であり、今も続々と新しい知見が得られつつある。本書ではそれらの新しい発見のうち、とくに私たち自身の未来と関連の深いものについて、なるべく分かりやすく紹介してみようと思う。」
さて、「第1章 気候の歴史をさかのぼる」によると、現代は「大きな傾向の中ではむしろ寒冷な時代」にあるそうです。「およそ300万年前頃から、地球上では徐々に寒冷化が進行している。」「寒冷化と連動して、不安定性も同時に増してきているように見える。」という記述を読むと、あれ? 現代は「危険なほど温暖化傾向」にあるんじゃなかったの? と疑問に思ってしまいました。
実は、現代は、短期的に見ると温暖化が急速に進んでいますが、もっと長期的に見ると、「寒冷な時代」にあたるようです。「グリーンランドの氷床」の研究でも、「水月湖」の研究でも、長期的には、そのような気候変動があったと推定されています。
この本は、そういう気候変動のメカニズムの考察を通して、人類史を再考させてくれると同時に、「水月湖の年縞」が「世界標準の時計」となった経緯を詳しく教えてくれます。
「水月湖」には流れ込む川がなく、湖底に酸素がなくて堆積物をかきまぜるほど大きな生物がいないために、古い時代から今までの土が「静かに」「連続的」にたまっていて、その年縞を丹念に調べることで各層のできた時期を推定可能なことが分かり、なんと過去5万年までを対象とする地質学の「世界標準時計」として採用されたのだそうです。
そして水月湖周辺の環境を推定するのに使われているものの一つは、「花粉」なのだとか。花粉がどの樹種のものであるか、どの種類が多いかを調べると植生景観が分かるそうで、このようにして過去の植生景観を復元(推定)できれば、過去の気候が分かることになるようです。凄いですね。
でも「花粉分析」はなかなか時間と手間がかかるようで大変そうです。この分析に、最近めきめき賢くなっているAI(人工知能)の画像解析を適用できれば、もっとスピードアップできるのでは? と思わされました。花粉分析が簡単にできるようになれば、世界各地の湖底・海底を調べることで、昔の気候の研究をさらに進められるのではないかと期待してしまいます。
さて、「エピローグ──次に来る時代」には、次のような記述がありました。
「氷期が終って気候が安定してから、今まですでに1万1600年もの年月が流れている。古気候学の知見によれば、過去3回の温暖な時代はいずれも、長くても数千年しか持続せずに終わりを迎えた。つまり今の温暖期は、すでに例外的に長く続いているのである。(中略)地球は本来ならすでに氷期に突入しているはずなのだが、人間が温室効果ガスを放出することで、次の氷期を先延ばしにしていると考える研究者もいる。」
……もしかしたら、すでに氷期に入っているのに、「地球温暖化」のせいで気温が底上げされているのかもしれません。だとしたら「地球温暖化」は、むしろ私たちを救っているのでしょうか?
「氷期は、安定とはほど遠い時代だったことが分かる。基本的に寒冷であることは確かなのだが、その中に急速に温暖化する時代を何度も含んでいる。」
「水月湖の堆積環境は、おそらくある1年を境にとつぜん変化した可能性が高い。つまり氷期は、まるでスイッチをパチンと切ったかのように、本当に急激に終わったらしいのである。(中略)ちなみにグリーンランドの氷床の研究からも、氷期の終りが本当に急激な変化だったことは示唆されている。」
という記述を読むと、長期的な気候変動から見ると、今後、「急激に気候が変化する」可能性もありそうです。
温暖化しているのか、寒冷化しているのか、よく分からなくなってしまいましたが(汗)、少なくとも「短期的に見ると温暖化」していることは確かだと思います。今後がどうなるのかを予測し、うまく変化に対応していくためにも、「水月湖」などの古気候学の研究を今後も進めていって欲しいと思います。
とても興味深くて、読み応えのある本でした。ぜひ読んでみてください。
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中川さんは、他にも『時を刻む湖――7万枚の地層に挑んだ科学者たち』などの本を出しています。
なお社会や脳科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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