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第1部 本
歴史
日本史の謎は地政学で解ける(兵頭二十八)
『日本史の謎は地政学で解ける』2017/10/31
兵頭二十八 (著)
(感想)
軍事史に詳しい兵頭さんが、日本の歴史を、地理的な条件などの地政学的視点から考察している本です。
地政学は地理的な条件から諸国間の関係を考える学問ですが、日本国内の権力闘争の歴史を説明するのにも応用できます。この本は、気象変動や水運(海運)、稲作の普及、諸外国との関係などの観点から、権力者はなぜその時期にそれを行ったのか、そのような事態がなぜ起こったのかを再検証しています。今まで日本史というと、「教科書で習った事実」だとしか考えず、「なぜそうなったのか」を考察することは、あまりしてこなかったのですが、この本を読んで、「なるほど、そう考えることも出来るのか!」と新たな視点をもらえました。
例えば、神話によれば、神武天皇は瀬戸内海を通っていまの大阪湾へ上陸を試みた時に、先住部族によっていったんは撃退されてしまいましたが、紀伊半島の沿岸を南下して、その東側の熊野灘まで回り込んで上陸作戦に成功し、ついにいまの奈良県を占領支配できたそうです。ここで兵頭さんは、「どうして最初から四国の南側に沿って(瀬戸内海を通らずに太平洋を経由して)紀伊半島南部を目指さなかったのか?」と問いかけてきます。その答えは、「九州南部の日向灘からいまの静岡県が面する遠州灘にかけての、日本列島の南岸は、いちど難破したら生還が期しがたい、舟艇にとってすこぶる恐ろしい海域なのだ」そうです。なるほど……だから瀬戸内海(や日本海側)の海運が盛んだったのに対して、太平洋側の海運は、あまり利用されてこなかったんですね。……こういう地理的な特性による考察には、すごく説得力を感じました。
また「気候変動によって東西の力関係は左右された。」そうで、平安後期から温暖期に入ったことで東国の農業経済が活気づき、武士勢力が台頭してきたのだとか。
さらに幕末には、百万都市に膨れ上がった江戸の人々の生活を支えるために、江戸湾には諸国から炭や食料を積んだ船が間断なく入港していたのですが、ペリー艦隊は、偶然にも江戸湾の入り口をふさいでしまったことで、江戸幕府に「内陸での持久戦に訴えてでも撃退しよう」という考えを捨てさせたそうです(物資の補給が追いつかなくなるから)。ペリー艦隊が「蒸気船」だったことも、一因だったようで、敵対的集団が「帆船」だったならば「入り江」に入ってくるのは自殺行為になりますが、蒸気船はいつでも機関を全速後退にして、無風であっても逆風であってもお構いなしに狭水面から悠々と離脱できたから……この考察にも、「なるほどー」と思わされました。
その他にも、「なぜ足利氏は、京都に戻ったのか?」とか、「なぜ秀吉は、朝鮮に兵を送ったのか?」、「なぜ薩摩と長州が、幕末の雄藩になれたのか?」など興味深い考察が満載。
『日本史の謎は「地形」で解ける』と同じように、この本の考察にも「合理的根拠」を感じさせられ、こういう観点から歴史を再検証するのは、すごく面白いと思いました。
軍事や政治にはあまり詳しくないので、兵頭さんの意見をそのまま鵜呑みには出来ないとも感じさせられましたが、歴史的な出来事がなぜ起こったのかを、気象や地理的条件などで考察することで、近い将来に取るべき戦略を構築するのにも役に立つかもしれないと思います。
歴史が好きな方は、ぜひ読んでみてください。きっと知的好奇心をくすぐられると思います☆
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兵頭さんは、他にも『「地政学」は殺傷力のある武器である。』、『東京と神戸に核ミサイルが落ちたとき所沢と大阪はどうなる』、『兵頭二十八の防衛白書2016』、『日本の兵器が世界を救う: 武器輸出より武器援助を!』などの本を出しています。
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別の作家の本ですが、『地政学入門 改版 - 外交戦略の政治学』、『戦略の地政学 ランドパワーVSシーパワー』など、地政学を学べる本は多数あります。
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