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第1部 本

 IT

IT全史 情報技術の250年を読む(中野明)

『IT全史 情報技術の250年を読む』2017/7/2
中野明 (著)


(感想)
 腕木通信、電信、電話、ラジオ、テレビ、そしてインターネット、AI ……情報技術の250年の歴史をまとめて紹介してくれる本です。
 産業革命のあと、フランスで腕木通信と呼ばれる技術が誕生したのが1794年。そして、レイ・カーツワイルが主張する「シンギュラリティ」、すなわちコンピュータ(AI)の能力が人間を超えて、これまでとまったく異なる世界が現れるのが2045年。この本は、その間の250年の物語で、情報化時代の歴史や必須知識を、まとめて知ることができます。
 さて、情報技術(IT)にはかなり詳しいつもりでしたが、最初に登場する「腕木通信」のことは知りませんでした(汗)。腕木通信というのは、18世紀末から19世紀半ばにかけて主にフランスで使用されていた「視覚による通信機を用いた通信網」のことだそうです。腕木通信機と呼ぶ3本の腕木から成る装置を建物の屋上に設置して、腕木にいろんな形をさせることで文字コードや制御コードを作り、望遠鏡でそれを読み取って、バケツリレー式に情報を伝達したのだとか。
 ……かなり原始的な仕組みのようですが、この本で、これを「最初に誕生した近代的な情報技術」として位置づけたのは、「メッセージが符号化されていること」、「送信手段として手にもてない媒体を利用していること(視覚的な信号)」など、後の電信やインターネットで使われることになる枠組みを使っているからだそうです。なるほど。
 この腕木通信の総距離は、1846年にピークの4081キロに達していたそうです。ところが電信の普及が始まると腕木通信は急速に廃れて、ピークからたった9年後の1855年、腕木通信は全廃となったのだとか……この経過も、この後のさまざまな情報技術と同じ道筋のような……。
 しかも腕木通信では、すでにネットワーク犯罪(史上初のネットワーク犯罪)が発生していたそうで、腕木通信の素早い通信能力に目をつけたブラン兄弟が、腕木通信の技師を仲間に誘って、通常は5日遅れになるパリ株式市場情報を、いちはやくボルドーに送信することで、ボルドーの株式市場で大儲けしたのだとか。
 この本では、さらに、電信、電話、ラジオ、テレビ、インターネット、AIと、情報技術の辿ってきた道筋を辿ることが出来ます。
 なかでも興味深かったのは、アメリカの科学研究開発庁長官のブッシュさんが構想したという装置(メメックス)。第二次世界大戦の終結(1945年)間近の頃、ブッシュさんは、戦後の科学者が取り組むべき課題(軍事用途以外の研究テーマ)として、人の知能を増幅する装置の開発を提唱しました。それがメメックス(一種の機械化された私的なファイルと蔵書のシステム)で、ほとんど現在のパーソナル・コンピュータのようなもの! 額につけたカメラで写真を撮る仕組みまであって……これも、まるでウェアラブル端末みたい。アメリカにはすでに1945年に、こんな構想があったんですね……アメリカがIT産業のトップを走り続けてきたのは、やっぱり、それだけの歴史(知的蓄積)があったからなんだなーと思わされました。
 そして人工知能(AI)。人間の代わりに、さまざまな選択をしてくれるほど賢く成長してきたAIですが、AIにすべての選択を任せてしまうほど過度に依存してしまうと、人間は自由意志を喪失してしまうかもしれません。今後、情報技術をどう使っていくかは、私たち一人一人に委ねられているのです。著者の中野さんは、次のように言っています。
「情報技術が家族や組織、地域社会、国家、地球とのシナジーを高めるのか否かを問う態度、いわば「ハイ・シナジーの可否」を基準にして活動を取捨選択すれば、情報技術の未来はきっと明るいものになろう。」
(※シナジーとは、「利己主義と利他主義の二分法の超越」。すなわち個人や組織の利己主義が他人や社会を助けることにつながり、また他人を助けようとする利他主義が個人や組織に利益をもたらす状況のこと。)
 情報技術の歴史を辿る本です。ぜひ読んでみてください。
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 中野さんは、他にも『図解入門業界研究 最新通信業界の動向とカラクリがよくわかる本[第4版]』、『超図解「デザイン思考」でゼロから1をつくり出す』などの本を出しています。
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 別の作家の本ですが、『ITロードマップ 2017年版』、『インターネット白書2017 IoTが生み出す新たなリアル市場』、『【図解】コレ1枚でわかる最新ITトレンド [増強改訂版]』など、ITの今後を考える上で参考になる本は多数あります。
 なお社会や脳科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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