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第1部 本
歴史
文明が衰亡するとき(高坂正堯)
『文明が衰亡するとき』2012/5
高坂 正堯 (著)
(感想)
なぜ文明は衰亡してしまうのか? 繁栄の中に隠された失敗の本質とは? という疑問を切り口に、古代の巨大帝国ローマ、中世の通商国家ヴェネツィア、そして現代の超大国アメリカの三カ国について、栄華を極めた強国が衰退する過程を詳しく検証し、考察した本です。
衰亡の原因を探究していくと、成功の中に衰亡の種子があることに気づくそうです。
ディビット・ヒュームは、芸術や科学について、それらは完成すれば衰退に向かうと論じたとか。一旦完成されれば、次の世代はより優れたものを作りうるという自信を失い、公衆も新しいものに関心を示さなくなるからだそうです。
だとしたら……幸いなことに、芸術や科学はいまだ完成していないようです(笑)。少なくとも私は、まだまだ新しいものに興味津々です。
それはともかく、本の内容に戻りましょう。
第1部は「巨大帝国ローマ」。ローマは、視野の広い現実的外交(打ち負かしたイタリア諸国家を属国にせず、同盟国とした)や巧みな戦術で、長い間繁栄を誇りましたが、巨大化しすぎて財政的に破綻し、衰亡していきました。
この中で印象に残ったのは、カルタゴの名将ハンニバルに対するローマの戦い方。ローマ軍の司令官ファビアスは決戦を挑むことを避け、カルタゴ軍につきまとってその弱い部分をたたくという遊撃戦を行ったそうです。このゲリラ戦は成功し、彼の名前はフェビアン協会の語源になったとか。フェビアン協会の創始者たちは、資本主義に対して正面からこれを打倒しようという決戦を挑むことは馬鹿げていると考え、少しずつ相手を傷つけ、最後には勝利を収めようと考えたそうです。かっこよくはないですが合理的で現実的な戦法のような気がしました(汗)。
そして、第2部「通商国家ヴェネツィアの栄光と挫折」。
とても狭い潟に作られた国のヴェネツィアが、十三世紀末以降の約二百年、地中海随一の強国として君臨した後、しだいに海軍力が低下し、通商面でもイギリスやオランダに敗れていった衰亡の経緯が描かれます。ヴァスコ・ダ・ガマが喜望峰を回ってカリカットに到着したことから東インドへの新航路が開設され、ヴェネツィアにとって利潤の大きかった香料の貿易が激減するという打撃など、衰亡にはいくつかの原因が指摘されています。
それでもヴェネツィアは、有限会社の仕組みや複式簿記・銀行など、近代の商業文明の基礎となったほとんどすべての制度を自ら生み出し、商業演劇を始め高い文化を誇り、巧みな外交、強力な政治体制など、すばらしい業績を残しました。
この「通商国家ヴェネツィアの栄光と挫折」は、島国の日本にとって、参考になることがたくさんあると思います。ただ、ヴェネツィアの場合は……賢かったせいで思いがけないほど成功してしまっただけで、「衰亡」というよりは、「身の丈にもどった」という感じもしましたが(汗)。
この章で印象に残ったのは、ヴェネツィアのカーニバルの話。ヴェネツィア人は、実は勤勉でよく働き、倹約的な生活を送っていたそうです。その謹厳な日々の生活で蓄積するストレス解消の手段が、カーニバルだったとか。また公共の建築にもお金をかけていたようです。働いたお金は何かに使わなければ経済はうまくいかないけれど、倹約的に日常を過ごすことも大事……となると祭や公共物にお金をかけるのが最も妥当だったのだろうと高坂さんは考察しています。なるほど、と考えさせられました。
続いて、第3部「現代アメリカの苦悩」。そして、終章「通商国家日本の運命」。
長くなってしまったので、これらへのコメントは省略します(汗)が、前述した感想でも分かるように、この本には「文明の衰亡の過程」だけでなく、繁栄していた時の仕組みなど、参考になる記述がたくさんあり、とても考えさせられました。
すごく一般的な感想で恐縮ですが(汗)、やはり強国の衰亡の過程という過去の歴史を考察することで、私たちはより謙虚に、現在の社会の繁栄を長引かせる方法について考えることが出来るのではないでしょうか。
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高坂さんは、他にも『外交感覚 ― 時代の終わりと長い始まり』、『世界地図の中で考える』などの本を出しています。
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