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第1部 本

脳&心理&人工知能

量子コンピュータが人工知能を加速する(西森秀稔、他))

『量子コンピュータが人工知能を加速する』2016/12/9
西森 秀稔 (著), 大関 真之 (著)


(感想)
 量子コンピュータが、どのように量子力学で計算するのか、そして、どのように人工知能、特に機械学習やディープラーニングに応用できるのかについて、画期的な量子コンピュータの計算原理「量子アニーリング」を発案した西森さんたちが、分かりやすく説明してくれる本です。
 実現は早くても21世紀後半と言われていた「量子コンピュータ」ですが、突然、商用マシンとして販売が開始されたそうです。作ったのはカナダのD-Waveというメーカー。そして2015年12月。NASAの研究センターで、NASA、USRA、グーグルによる歴史的な記者会見が開かれました。なんと「D-Waveの量子コンピュータは、従来のコンピュータに比べて、1億倍高速」なのだそうです!
 えええ! と驚愕しましたが、実は「常に1億倍速い」わけではなく、「組み合わせ最適化問題」を解く場合に1億倍高速だった」そうです(D-Waveの量子コンピュータは、「組み合わせ最適化問題」を解く目的でしか使えないそうです)。
 量子コンピュータというのは、量子力学の特徴を生かし、「0」、「1」の重ね合わせた状態をとる「量子」ビットを使って計算する装置で、従来型のコンピュータに比べて、計算時間を飛躍的に高速化できると言われています。
 1980年代に考案されてから研究が続けられてきた量子コンピュータは「量子ゲート方式」と呼ばれているそうですが、ここ数年で突然商用化された量子コンピュータは「量子アニーリング方式」のもの。「アニーリング」とは「焼きなまし」、すなわち「金属の温度を上げたのちにゆっくりと冷やすことで、内部のひずみを取り除き、均質化させるための処理」のことで、これを数学的なモデルにしたのが「量子アニーリング方式」だそうです。D-Waveの量子コンピュータは、この量子アニーリング(焼きなまし)現象を、実際に発生させてしまうハードウェアなのです。
 さて、従来型コンピュータの場合、詳細に決められたアルゴリズムに従って、ステップごとに演算を繰り返して答えが得られるのですが、量子アニーリング方式では、相互作用を設定し、横磁場をかけて弱めていくだけで答えが見つかるそうで、これは量子力学の世界の現象をそのまま利用しているものなのだそうです。「あえてたとえると、複雑な地形の土地で最も低い場所を探すときに、降った雨が自然と低い盆地に集まることで答えがわかるようなもの」だそうで……さすが発案者の方の説明は、すごく分かりやすいですね(笑)。しかも量子アニーリング方式では、量子トンネル効果がうまく働くので、最適化問題をうまく解くことが可能になるそうです。
 でも実はこの答え、現時点でのD-Waveは、ノイズなどの制約で、「厳密解」ではなく、少しずれた解答を出力してしまうことがあるそうです(汗)(量子アニーリングを忠実に再現できれば、厳密解が得られるはずだそうですが……)。でも、「そこそこの解答」を非常に高速に出せるだけでも、使い道がいろいろあるはずですよね? そこで急激に量子コンピュータに注目が集まるようになりました。
 なかでも人工知能の分野では、機械学習のための「サンプリング」に、この「そこそこの解答」を活かすことが出来ます。うまく使うと、従来の学習方法をしのぐ結果が得られることが分かってきたそうです。
 考えてみると、厳密解ではなくても、「そこそこの解答」が高速に出せるだけで十分という場合は、世の中にはたくさんあります。たとえばある商品を買った人に、「こんな商品はどうですか?」と別の商品を紹介するなんていうケースでも、別に最高にふさわしい商品じゃなくても構わないですよね? むしろ「そこそこの商品」を多数教えてもらった方が、選択の余地が感じられて良いような気がします。
 それでも、「厳密解」を出せないなら、出してきた答えが「そこそこ」であることを、どう検証するのかな? 従来のコンピュータは1億倍も遅いのに……という疑問も感じてしまいましたが、これは「量子コンピュータ2台」で検証すればいいのだ、と思いつきました。答えに「より厳密性の高いもの」が欲しいときには、2台の量子コンピュータが出す答えのうち「同じ」になったものだけを提示すればいいのだと思います。
 正直に言って、この本を読む前までは、量子コンピュータの「正確性」に疑惑を抱いていて、うさんくさいコンピュータだ……と思っていたのですが(汗)、「そこそこの正確性」があれば十分という場合も多いことに気づかされました。この本の中で著者の方が言っているように、「調べなくても良い不正解を取り除くフィルターとしても機能する」ことで、コストの大幅低減が可能になる分野は、とても多いと思います。
 また量子コンピュータは、従来のコンピュータよりもはるかに低いコスト(時間や電力)で問題を解ける可能性もあるそうです。
 この本は、量子コンピュータの持つ可能性について幅広く教えてくれるだけでなく、量子力学の解説、さらには量子コンピュータをめぐるアメリカや日本の動向も紹介してくれるので、とても参考になりました。日本の研究者は、「情報統計力学」、「スーパーアトム(人工的に大きな原子を作る)」、「超伝導体による電子ビット」など、量子コンピュータ開発のキーとなる数々の画期的な研究を行ってきたそうです。
 量子コンピュータや人工知能に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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 西森さんは、他にも『スピングラス理論と情報統計力学【新物理学選書】』、『物理数学II―フーリエ解析とラプラス解析・偏微分方程式・特殊関数』などの本を出しています。また大関さんは、他にも『機械学習入門 ボルツマン機械学習から深層学習まで』などの本を出しています。
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 別の作家の本ですが、『量子コンピュータとは何か (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)』、『量子コンピュータ―超並列計算のからくり』、『ようこそ量子 量子コンピュータはなぜ注目されているのか』、『量子の逆説 (別冊日経サイエンス)』など、量子に関して参考になる本は多数あります。
 なお社会や脳科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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