ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)

第1部 本

描画技術

水彩画プロの裏ワザ(奥津国道)

『水彩画プロの裏ワザ (The New Fifties)』2002/5/24
奥津 国道 (著)


(感想)
 水彩画プロの奥津さんが、裏ワザを惜しげもなく教えてくれる美術技法書です。
 表紙の絵もとても素敵ですが、本の中身の絵の方は、さすがプロだと溜息が出そうなほどの細かい描きこみで、こんな風に描けたら本当にいいのに……と打ちのめされるほど素晴らしい絵ばかりです。
 まず「Part1 広がりのある風景の描き方」では、風景画を描くプロセス全体が紹介されます。鉛筆デッサンを始めるときには、タテ・ヨコの基準線を決めてから始めると良いとか(もちろんデッサン終了後には、余分な線はデッサン用の練消しゴムで消すのです)。そしてまず空から着彩し、次に遠景、さらに前景の主題部分はグリザイユ画法などを使って立体的に描く……という順番になるようです。なお、奥津さんは1枚あたり3時間ぐらいかかるそうですが、そのうち2時間は鉛筆デッサンにあてるのだとか。(なるほど……って、こんな緻密な絵がたったの3時間で描けるの?)
 そして「Part3素材別のテクニック(空を描く/樹木を描く/建物を描く/街角を描く/山を描く/川や海を描く)」もすごく参考になりました。ただ……どれもすごく高度すぎて、こんなにうまく描けるようには到底なれない気もしましたが……(汗)。透明水彩だけでなく、花や柵など一部に不透明水彩を使うこともあるそうです。確かに、素敵なアクセントになっています。また、桜の花びらを描くときに使うタンポン画法(スポンジを小さくちぎって丸め、絵の具をつけてスタンプのように押しつける)などのプロの裏技も役に立ちそう。
 さらに「Part4基本テクニック(混色を使いこなす/にじみをいかす/ぼかしの効果/グラデーション画法/グリザイユ画法/パステルやガッシュを併用する)」も、描いている先生の手や筆、パレットの写真つきで紹介されるので、とても分かりやすかったです。特に「青空に浮かぶ雲の輪郭をガーゼでぼかす(湿らせたガーゼを指先に巻いて輪郭をこすってぼかす)」技法はぜひやってみたいと思いました。
 巻末近くには、プロの裏技として「風景に動きを与える人物/風景を活かす点景たち」の実例が紹介されていて、風景画に動きをつけたり、のどかな雰囲気を与えたりするために、実際にはその場にいない人物を、記憶を頼りに描きこんでもいいそうです……なるほど。
 その他、鉛筆デッサンのテクニックや、画材についても勉強になることがいっぱい☆
 なかでも参考になったのが、奥津さんの風景画の特徴だという「グリザイユ画法(色を着彩する前にグレーやセピアなどで陰を描きこんでしまう画法)」。これ、目からウロコって感じでした。
 子供の頃、工作が得意で、工作ほどではなかったのですが絵も得意な方でした(エッヘン)。屋外スケッチの授業でも、鉛筆でデッサンしていると友人に「わあ、すごい」なんて褒められ、自分でも(もしかして傑作になるかも)とドキドキしながら描いていた記憶があります。でも……残念なことに、いつも「デッサン」まででした(涙)。色を付け始めると、なぜだか、とたんに魔法はどんどん消え失せ……いつの間にかのっぺりとして、何を描いたのか形もわからないような、つまらない絵になってしまうのです。いつしか、屋外スケッチが苦手になってしまっていました。
 でもこの本を見ていたら、もしかしたら、あのころ使っていたのは「不透明水彩」だったのでは?と気がつきました(鈍いよ……)。色を付けると、せっかく上手く描けていた下書きデッサンが消えてしまっていたし、陰をつけるときは、いつも同じ色の濃い色を使っていた記憶があるからです。
 そうか風景スケッチの場合は、にじみなどを活用して複雑なニュアンスを表現しやすい透明絵具を使えば良かったんだ! そして「グリザイユ画法」で陰をあらかじめ入れておくと、描きやすいだけでなく、出来上がった作品にも統一感が出るんだ、と感じました。陰の部分を濃い色で描くと、陰のはずなのになんだか自己主張が強くて変な感じがあったのです。下手だったからかもしれませんが……。(ちなみに、透明水彩の場合は、鉛筆で陰影をつけると仕上がりが汚くなるので、グリザイユの方が美しく仕上がるそうです。グリザイユ画法では、明るい陰から始めてしだいに濃い陰に描き進めていくのもコツだとか。)
 奥津さんの素晴らしい絵を見ていると、ここまで素敵に描けなくても、もしかしたら以前よりはずっとマシに描けるかも……とわくわくさせられました。そして、もしかしたら私と同じように(デッサンまではうまく描けていたのに……)と悔しい思いをしていた子どもも大勢いるのではないかと思うので、そういう方はぜひこの本を手に取ってください。「透明水彩絵の具+グリザイユ画法」は、あなたのデッサン力をきっと活かすことが出来ると思います(笑)。
 なんだか久しぶりに風景スケッチを始めたくなるような素敵な本でした。
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 この本には『水彩画プロの裏ワザPART2』もあります。また奥津さんは、他にも、『奥津国道 日本を描く 水辺の風景』、『奥津国道日本を描く 山のある風景』、『ドリル版 水彩画プロの裏ワザ』、『フランスを描く モンサンミッシェル編 ドリル版 水彩画プロの裏ワザ』、『奥津国道作品集 フランス水彩風景画紀行』などの本を出しています。
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 別の作家の本ですが、『くらべてわかる水彩 風景の描き方 写真・現場スケッチ・作品制作』、『いちばんていねいな、自然の風景の水彩レッスン』など、水彩で風景を描く方法を教えてくれる本は多数あります。

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