ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)
第1部 本
脳&心理&人工知能
奇跡の脳(テイラー)
『和書:奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫)』 2012/3/28
ジル・ボルト テイラー (著), Jill Bolte Taylor (原著), 竹内 薫 (翻訳)
(感想)
1996年の12月10日の朝、37歳の脳科学者のテイラーさんの脳の左半球が、きわめて稀な脳卒中を起こしました。幸い一命は取りとめたものの脳の機能は著しく損傷、言語中枢や運動感覚にも大きな影響が……。この本は、それ以後の8年に及ぶリハビリを経て復活を遂げた彼女が、脳科学者の視点から綴った脳に関する驚異と感動のドキュメンタリーです。
特に凄いのがこの本前半部分。脳科学者の目から見た脳卒中の発症と手術の様子が、すごくリアルに描かれています。そして後半は、リハビリを通して彼女が感じたことが、「右脳マインドのすすめ」という感じでまとめられています。
中でもすごく印象的だったのは、テイラーさんが脳卒中に倒れた朝に思ったという次のこと。
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(ああ、なんてこと、のうそっちゅうになっちゃったんだわ! のうそっちゅうがおきてる!)
そして次の瞬間、わたしの心に閃いたのは……
(ああ、なんてスゴイことなの!)(中略)
(そうよ、これまでなんにんのかがくしゃが、脳の機能とそれがうしなわれているさまを、内がわから研究したことがあるっていうの?)
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脳卒中に倒れながらも、こんなことを考えられる精神力に驚かされますが、おそらくこの強靭な精神力が、彼女の脳を奇跡的な回復に導いたに違いありません。
そして彼女は、自分の脳の機能とそれが失われていく様子、そして回復していく様子を、本書の中でリアルに綴ってくれているのです。
脳卒中に倒れた時、彼女は「いつもの現実から切り離されたように感じながら、自分の行動を、実際に行動している本人の視点ではなく、外から目撃しているようでした。行動している自分を、記憶の録画再生を見るように観察している気分」だったそうですが、これ、いわゆる「臨死体験」とすごく近い感じがします。やっぱりいわゆる「臨死体験」は、瀕死の人の「脳の機能障害」によって起こるのかも、と思いました。
そして母親GGの助けを借りて、テイラーさんの辛抱強い「治療と手術の準備」と、「術後の回復」への努力が続けられます。彼女は「手術前」にも、手術に耐えられる体力作りと回復への努力をしています。
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「挑戦して、挑戦して、また挑戦しなくてはなりませんが、かすかな手がかりを得るまでは、1000回やっても何の結果も得られないかもしれません。それでも、挑戦しなかったら何も始まらないんです。GGはベッドと浴室のあいだを、わたしを連れて行ったり来たりしながら歩き方を教え始めました。それはわたしにとって、充分すぎるほどの一日仕事。なにしろ、そのあと、また6時間も寝てしまうんですから!」
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この「睡眠」は、脳の回復には最も重要なものだと思います。
この本を読んで強く感じたことは、「睡眠」は、やはり脳の神経回路を作るのに必要不可欠なものではないかということ。人間の赤ちゃんは一日の大半を眠って過ごしますが、おそらく彼らはただ眠っているのではなく、母親の胎内から急激に刺激の多い外界に出されて、周囲の状況を眺め音を聴きながら、彼らなりに脳の神経回路を構築しているのでしょう。
この本は、脳科学者が自らの脳卒中の体験を綴ってくれているので、脳卒中を患っている方やそのご家族にとっては、すごく参考になると思います。
脳の機能障害がある方には、辛抱強く見守ることが大切なようです。ある時点で、リハビリのための質問への答えが正しく出せないとしても、脳の障害が回復していないから答えられないのではなく、時間が足りないだけなのかもしれません。テイラーさんはこう言っています。「わたしが挑戦していることを信じてください。ただ、あなたの技術レベルやスケジュール通りにいかないだけです。」そして「見よう見まねのやり方で教えてください。」「わたしに何か新しいことを学ぶエネルギーがあるときは、脳を刺激して。ただ、ほんの少しですぐに疲れてしまうことを憶えていて。」とも。
脳について様々なことを考えさせてくれる本でした。脳卒中の方にはもちろんのこと、すべての人にも参考になると思います。ぜひ読んでみてください☆
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『My Stroke of Insight(英語)』は、この本の原著です。
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別の作家の本ですが、脳に障害を負った方が自らの経験を綴った本は他にも『脳が壊れた』、『壊れた脳も学習する』、『壊れた脳 生存する知』など色々あります。
なお脳科学やIT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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