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第1部 本

防犯防災&アウトドア

防災

エンデュアランス号漂流(ランシング)

『エンデュアランス号漂流』2001/6
アルフレッド ランシング (著), Alfred Lansing (原著), & 1 その他


(感想)
 1914年12月に英国人探検家シャクルトンさん率いる28人の隊員たちが、エンデュアランス号で南極大陸横断へ出かけました。しかし船は途中で遭難し、絶望的な漂流、極限の旅の果て、17ケ月後に、全員が奇跡的な生還を果たしたという歴史的事実を、迫真の筆致で描き出したノンフィクションです。
 正直言って、これが「歴史的事実」であることが信じられないほど、彼らは厳しい試練に次々襲われます。冒険小説のヒーローだって、これほどの過酷な冒険を生き抜けないのではないかと思うほどです(涙)。
 南極海の航海のために特別に頑丈に建造されたエンデュアランス(不屈の精神)号でしたが、船は凍りつく海に閉じ込められて沈没し、彼らは氷の海に取り残されてしまいます。
 寒さ、食料不足、疲労そして病気……さまざまな危機が、これでもかとばかりに絶え間なく押し寄せます。
 そして1914年という年は、第一次世界大戦の始まった年。南極で利用できる無線機もなく、ヘリコプターや雪上車、救助艇もない時代でした。救援も期待できない状況で、彼らは厳しい南極の冬を乗り切ることになったのです。
 ようやく長い南極の冬が終わると、漂流キャンプのある氷が解けて割れ始め、彼らは最も近い陸地をめざしてボートを漕ぎ出し、多大な苦難の果てに凍てついた無人島にたどり着きます。
 が、その荒れ果てた島では、次の冬をとても乗り切れそうにありません。そこでシャクルトンさんとその他の乗員5名だけが、一番良いボートを選び、最もたどり着けけそうな島、サウスジョージア島に助けを求めに行く決死の旅をすることになります。
 こうして、結局、彼らの苦闘は、17ヶ月にも及ぶことになりました。島に残された仲間たちの食糧がつきかけ、絶望的な状況の中、ついにシャクルトンさんの乗った救助船が、彼らの待つ無人島に……。
 ……読んでいて、心が激しく揺さぶられました。
 彼ら全員が奇跡の生還をはたせたのは、もちろんシャクルトンさんの卓越した統率力・不屈の精神があってのことですが、実は、シャクルトンさんは必ずしも「常に正しい」決断をしたわけではありません。せっかく捕獲したアザラシを必要ないと判断したことで、隊員の不満が募ったこともあります。
 それでも彼らが最終的にはシャクルトンさんを信頼できたのは、彼が一番大変なことを自ら引き受ける形で実行してきたこと、そして「全員の生還」をいつも考え続けていることを知っていたからでしょう。だからこそ、彼らは希望を捨てず、絶望的な状況のなかでも、一人一人が、最後まで死に物狂いの力をふり絞ることが出来たのだと思います。
 この本は、人間の不屈の精神の尊さへの感動を与えてくれるだけでなく、リーダーのあり方をも考えさせてくれます。
 また、小説を書きたいと考えている方には、南極の凄まじい環境の迫力のある描写力が、すごく参考になると思います。凍った氷上でアザラシを撃つ姿、凍てつく海で必死にボートを漕ぐ姿、凍傷に苦しむ姿……彼らの息遣いまで感じられる迫真の文章です。
 いろいろな点で、とても読み応えのある本です。
 なお、シャクルトンさん本人が書いた『エンデュアランス号漂流記』もありますが、どちらか一冊だけを読みたい場合は、このランシングさんの『エンデュアランス号漂流』をお勧めします(汗)。ランシングさんはこの漂流の体験者ではありませんが、大勢の隊員の方の日記やインタビューをもとにしていて、苦闘の様子を、よりリアルに詳細に描き出しています。またシャクルトンさんは弱音を吐かないし、隊員の悪口もあまり言わない人柄のようで、最後に自分と共に救助を求めにいった六名の人選には、無人島に残すと禍根を残しそうな人を含めていた、というような赤裸々なことをあまり書いていませんし、重大な決断に至った経緯なども、意外にあっさり書いているので、迫力という面でも、冒険小説家のランシングさんの方が上手なようです(汗)。
 人間の底力を感じさせてくれる素晴らしいドキュメンタリーです。ぜひ一度、読んでみてください。
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 シャクルトンさん本人が書いた『エンデュアランス号漂流記』に関する記事もごらんください。
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 ランシングさんの『エンデュアランス ──史上最強のリーダーシャクルトンとその仲間はいかにして生還したか』は、この『エンデュアランス号漂流』(新潮社)の新装改訂版です。

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