ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)
第1部 本
社会
低欲望社会 「大志なき時代」の新・国富論
『低欲望社会 「大志なき時代」の新・国富論』2015/4/23
大前 研一 (著)
(感想)
現在の日本の現状が、高齢化と人口減少が加速する中で「欲のない(低欲望の)」若者が増え続けている状態にあると分析し、「皆が等しく貧乏になる国」で本当にいいのかと、経営コンサルタントの大前研一さんが問いかけてくる本です。
この本の中で大前さんは、「中央集権的なバラ撒き政策」と安倍首相主導のアベノミクスを批判し、現在の政策では日本は良くなっていかないと憂えるだけでなく、都心再開発、移民政策、教育改革、道州制と国民DBの導入など、具体的な施策も提案しています。
例えば「都心再開発」では、「大都市の都心部については容積率や建蔽率の制限を他国並みに大幅に緩和するとともに、日照権を大都市の中心部では今後30~40年は棚上げにする」ことで増えたスペースを賃貸に出し、キャッシュフローを生み出すと提案されています。
が……このようにして大都市に人々を集中(都心回帰)させるということは、その周辺から人が減るということで……、これと、少し前のご自身のアベノミクス批判記事の中にある「日本の全国平均の空き家率が13.5%に達している」という状況と合わせて考えると、大都市近郊の空き家率が、さらに上昇することになるのでは?と懸念してしまいました(汗)。
この点については、大前さんも認めているようで、地方の活性化のために、「土日や休日には、都心脱出するという発想を広げていく」と提案されていますが、果たしてそんなにうまくいくのでしょうか? 平日には都市に集中している(住んでいる)人が、土日には地方にいっせいに移動する? あるいは暇な高齢者が頻繁に平日に地方でレジャーを楽しむ? 残念ながら、あまりイメージできませんでした(汗)。
えーと……こんな感じ、大前さんの意見に全面的に賛成とは、言い難いものを感じながら読みましたが、とても参考になる意見も多かったのも事実です。
たとえば「低欲望社会」。
まさしく私自身も「低欲望人間」の一人です。見栄えの良い高級品など必要ない、必要な機能が充実していさえすれば、それで良い。むしろ安価なものの方が、使う時に気をつかわないから、むしろ良いとさえ考えています(汗)。
これは実は、「日本の豊かさ」の表れなのかもしれません。ガツガツしたハングリー精神などなくても、そこそこのモノならすぐに手軽に手に入るので、「高欲望」を持つ必要がないという意味で。それとも、まったく逆に、「希望のなさ」の表れなのかもしれません。将来への不安が、「贅沢をしないで節約して生きる」ことを選ばせているのかも(汗)。
確かに「低欲望」は日本の社会(経済)の発展の妨げになるのかもしれませんが、その一方で、「身の丈にあった生活」をする人が増えれば、経済的に破たんする人も減りますし、地球環境的にもゴミが減るなどのメリットがありそうな気がするので、悪いことばかりではないような……。
でも大前さんは、「低欲望社会」が、「内向き・下向き・後ろ向き」な若者を増やし、社会や国家を弱体化させてしまうことを懸念しています。そして「低欲望社会(大志なき時代)」を「高欲望社会(大志ある時代?)」に変革する方法として、「移民社会」への移行を提案しています。異能の人材が集まる社会は、刺激に満ちて、向上心が個人のモチベーションを支えるようになると言います。そして、例えば、フィリピン人家政婦が日常にいることがあたりまえになれば、日本でもバイリンガルの子供がどんどん増えていくだろう、と。
そして、移民に加えて、この国を大きく変えるもう一つの鍵は教育だ、とも言っています。「18歳成人」を育てるための義務教育を行うこと……これは本当に大切なことだな、と思いました。教育は社会の柱を作るものだからです。
それと関連して、この本の中で特に印象に残ったのは、ドイツの職業訓練専門学校の話。ドイツでは、職業訓練専門学校の多くが「デュアルシステム」という、1週間のうち2日間は学校で理論を学び、3日間は会社で実習をするシステムがあるそうです。また会社の中にも、各職種で腕を磨いていくとグレードがあがっていく「マイスター制」があり、最高ランクの「マイスター」になったら他の会社に移って教えることも出来るし、独立開業しても良いとのこと。日本でも、同じような制度を設ける学校や会社が増えると良いかもしれない、と感じました。
どうしたら、より住みよい社会を作ることが出来るのかを、大きな視点で考えさせてくれる本だと思います。私自身は低欲望ですが……大志は抱きたいな、と思いました(汗)。
* * *
大前研一さんは、他にも『大前研一 日本の論点2016~17』、『大前研一 日本の論点 2015~16』などの本を出しています。
Amazon商品リンク
興味のある方は、ここをクリックしてAmazonで実際の商品をご覧ください。(クリックすると商品ページが新しいウィンドウで開くので、Amazonの商品を検索・購入できます。)