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第1部 本
文学(絵本・児童文学・小説)
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怪物はささやく
『怪物はささやく』2011/11/7
パトリック・ネス (著), ジム・ケイ (イラスト), シヴォーン・ダウド (原著), & 1 その他
(感想)
母親の死と向き合う孤独な少年コナーの苦悩と葛藤を描いた小説です。癌で亡くなった原案者のシヴォーンさんのアイデアを、著者のパトリックさんが大きくふくらませて、この悲しくて美しい小説に書き上げました。一見ホラー小説のようですが、恐怖というよりは癒しの方が強いと思います。複雑な精神を扱った内容なので、中学生以上の方にお勧めします。
(※ここから先は、物語の核心にふれるネタバレを含みますので、結末を知りたくない方は読み飛ばしてください)
ある夜、イチイの木の姿をした不気味な怪物が、母親と一緒にくらす少年の前に現われました。月に雲がかかり、窓の外はたちまち闇一色になります。
冒頭からミステリー小説のようなホラーな展開に胸がドキドキしますが、コナーは恐ろしい怪物に意外な反応を示しました。
*
「せっかく来たんだしさ、連れていくなり何なりすれば?」コナーは言った。
*
実は、コナーは、怪物よりも「ずっと怖い」悪夢にとりつかれていたのでした。
イチイの怪物はコナーに言います。「わたしが三つの物語を語り終えたら、今度はおまえが四つめの物語をわたしに話すのだ。おまえはかならず話す…そのためにこのわたしを呼んだのだから」
怪物が来るのは、コナーに物語を聞かせようとする目的は、何なのでしょうか。
怪物は言います。「物語とは油断のならない生き物だ。物語を野に放してみろ。どこでどんなふうに暴れ回るか、わかったものではない。」
読み進むにつれ、コナーの母親が死に向かっていること、父親は離婚して新しい家庭を持って外国にいること、学校では疎外感(遠巻きの同情といじめ)を味わい、家では厳格なおばあさんに反発していることなど、コナーの孤独と苦悩が明かされていき……、そして怪物は、何か得るところ(教訓など)があるどうかも分からないような、不思議な三つの物語をします(得るものがあるどころではなく、逆に困った立場に追い込んでいるようにすら思えますが……)。
そして第四の話(真実の話)をせまる怪物に、コナーは「話せない」と繰り返しますが、怪物は容赦してくれません。コナーはいつも見る悪夢――崖から落ちていく母親の手をかろうじてつかまえている話――をして、ついに最後には……その続きの真実を話したのでした。
疲れ切ったコナーに、怪物はいままでの三つの話を解き明かします。そして、
*
「人間の心は、毎日、矛盾したことを幾度となく考えるものだ」
*
という怪物の言葉が胸にしみます……。
……とても重い小説です。いま、まさに親の死と向き合っている人には、もしかしたら、この本は辛すぎるかもしれません。だからこそ、まだそれを実感するに至っていない幸福な若者にこそ、この本を読んでいて欲しいと思います。
人間は誰でも、いつか必ず死ぬものです。両親や兄弟の死と向き合う日を避けることは出来ません(自分が早死にしない限り)。だとしたら、その時に起こるであろう感情にどう向き合うかについて、この本を通じて仮想体験し、考え、感じておくことにはとても意義があると思います。
物語の終わりに、コナーがとった行動に、胸がいっぱいになりました……。
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