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第1部 本

文学(絵本・児童文学・小説)

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時の旅人

『時の旅人』2000/11/17
アリソン・アトリー (著), フェイス・ジェイクス (イラスト), 松野 正子 (翻訳)


(感想)
 16世紀の荘園屋敷にタイムスリップしてしまう少女の物語です。美しい田園風景と貴族の荘園屋敷を舞台に、時をかける少女が不思議な冒険をします。
 物語は、少女ペネロピーが、病気療養のためにロンドンからダービシャーの古い農園に行くことになるところから始まります。現在はペネロピーのおじさん家族が住んでいるその屋敷は、その昔、悲劇のスコットランド女王メアリーの支援者だった貴族のバビントンが所有していたものでした。屋敷の近くには秘密の地下通路があり、バビントンは、それを使って、女王メアリーを自分の屋敷に脱出させようとしたと言われています。その計画は、女王が断頭台に、バビントンが絞首台にのぼることになった大事件の二年前のことでした。
 さてペネロピーは、ひざかけを取るために戻った荘園屋敷の二階の部屋をあけたとたん、その部屋で四人の貴婦人がゲームをしているのを見てしまいます。そしてお盆を持った女中や召使が長い廊下からドアに入っていくのも……。
 ペネロピーがその時に垣間見たのは、この屋敷の16世紀の姿。それは、スコットランド女王メアリーとエリザベス女王が王位継承権をめぐって対立している時代だったのです。こうしてペネロピーの時間の旅が始まりました。
(※ここから先は、物語の核心にふれるネタバレを含みますので、結末を知りたくない方は読み飛ばしてください)
 その後もペネロピーは、この荘園屋敷にいる間、ときどきタイムスリップしてしまいます。自由に時間旅行が出来るわけではなく、ふとした時に、タイムスリップしてしまうのです。そしてそのタイムスリップ先はいつも同じ16世紀の荘園屋敷なのでした。
 しだいにペネロピーは、過去の荘園屋敷の主人たちに愛され、女中たちには仲間と思われるようになります(みんな彼女のことを少し不思議な子だと思っているようですが、300年後の未来人の割には、すごく簡単に受け入れられます(笑))。
 過去の世界ではペネロピーの時計は進みません。過去で何時間過ごしても、現実に戻ると、あっという間だったことが分かります。……時間旅行では、ありがちな設定ですね(笑)。
 ところでペネロピーは、過去の世界で、何の躊躇もなくクリームをすくって食べてしまいます。それを読んで、(ええ? そんなことして大丈夫なの?)と不安になりました。過去の世界に過剰に干渉すると、現実の世界に影響がでそうな気がしたからです。でもこのクリームは気まぐれ妖精のロビン・グッドフェローのために準備してあったものだったので、ああ良かった……と胸をなでおろしました。が、その後、ペネロピーはみんなと一緒に食事したり、ハーブ摘みしたりと、300年前の過去でやりたい放題。なのに、過去の世界で紛失して探していた女王のロケットペンダントを現実世界で見つけ、それを過去に持ち帰ろうとすると不可能だということが分かるとか……時間旅行に関しての、つっこみどころは満載です(汗)。
 それでも、壮麗な過去の荘園屋敷と、現実の廃墟の不思議な重なり方に、すっかり心を奪われ、先へ先へと読み進めてしまいます。
 ……もしかして女王のロケットペンダントのために、ペネロピーが過去の世界に干渉しすぎ、歴史を変えてしまうのかな、と、どきどきすらしてしまいます(過去の歴史が変わるといっても、小説の中だけですが……)。そのことで、女王メアリーとバビントンが死刑にならなくて済むようになるなら、その方がハッピーエンドなのかもしれないけど、イギリスはどうなってしまうのかな、そしてペネロピーの現実世界は……? 過去の「未来」は変えられるの?
 おっと……妄想はいけませんね(汗)。
 女王は生きていて、でも死んでいて、そして女王は不滅……。
 ペネロピーが16世紀の荘園屋敷だけにタイムスリップしてしまうのは、物語の中でペネロピーが考えたように、大きな不幸や悲しみは永遠のもので、時を超えて存在するから、たまたまその記憶と波長のあった彼女の心に入り込んだからなのでしょうか。
 不思議で……ちょっぴり切ない抒情的な物語です。
   *    *    *
 アトリーさんは、他にも『ちゃいろいつつみ紙のはなし』、『グレイ・ラビットのおはなし』、『チム・ラビットのぼうけん』、『チム・ラビットのおともだち』などの本を出しています。

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