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第1部 本
文学(絵本・児童文学・小説)
絵本・児童書(海外)
みどりのゆび
『みどりのゆび』2002/10/18
モーリス ドリュオン (著), ジャクリーヌ・デュエーム (イラスト), & 2 その他
(感想)
不思議な「みどりのゆび」を持った子が、花で世界を変えていく物語です。
物語のはじめの頃には、不思議な文章が書いてあります。
「もしわたしたちが、いつかおとなになることだけのために生まれてきたなら、あたまが大きくなるにつれて、わたしたちのあたまのなかには、古いかんがえが、とてもかんたんに住みつきます。(中略)そのほか、なににでもまにあわせることができるかんがえ、というのもあります。これは、いくらでもとりかえのきくかんがえで、とてもべんりなものです。
しかし、もし、とくべつの役目をおびてこの地球に生まれ、とくべつにやらなければならない仕事があれば、そうかんたんにはいきません……」
もちろん、この物語の主人公のチト少年は、とくべつの役目をおびて生まれてきたのです。
著者のドリュオンさんは、1918年にパリに生まれ、第二次世界大戦中はフランスのために戦った人だそうです。それだけに、戦争をなくしたいという思いが強かったのだと思います。その願いがチトに託されたのでしょう。
とても美しくて、余韻の残る物語です。冒頭の不思議な文章でも推測できるように、この児童向けの物語は、むしろ大人の方がより深く、心を揺さぶられるような気がします。
(※ここから先は、物語の核心にふれるネタバレを含みますので、結末を知りたくない方は読み飛ばしてください)
さて、主人公のチト少年は、イケメンで有能なお父さんと美人で優しいお母さんから裕福な家で生まれた天使のように可愛い子です。
へえー、だから何さ? と言いたくなるほど幸せな子どもなのです(汗)。
ところが学校へ通うことになったチトに、思いがけない不幸なことが、ふりかかりました。やる気はすごくあるのに、なぜか勉強すると、眠くなってしまうのです。
もちろん両親は心配しました。でも、いつも物事をテキパキ決めるお父さんは、それしきのことでは動じません。すぐに、チトには「ものごとは実際に観察して覚えるものだという」新しい教育をやらせることにしたのです。
チトはまず、自分の家の庭師ムスターシュさんの教えを受けることになりました。
そこで……チト少年はとても不思議な「みどりのゆび」を持っていることが分かったのです。それは「花を咲かせることが出来る」という才能でした。
ところで、少年の暮らすミルポワルの町は、大きな兵器工場のある町でした。実はその兵器工場は、イケメンで有能なお父さんが経営していたのです。
チト少年は、その町で、庭師や工場の監督官、病院の先生たちから色々なことを学びます。彼は純粋な瞳で世の中をじっと見つめて、大人たちが口で語る以上のことまで理解していったのでした。
町は、そして世界は、「みどりのゆび」の力で、次第に変わり始めていきます……。
……ああ、こんな風に、世界が変わっていけたなら、本当にいいなあ……。
美しくて、少しせつない物語です。
* * *
別の作家の本ですが、吹雪の森で少女が12の月の妖精たちに出会う『森は生きている』も、美しくて心に残る物語です。
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