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第1部 本
文学(絵本・児童文学・小説)
絵本・児童書(海外)
幸福な王子
『幸福な王子―ワイルド童話全集』1968/1/17
オスカー ワイルド (著)
(感想)
『幸福な王子』は、広場に立てられた王子の像が、宝石でできた自分の目や体の金箔を、燕に頼んで貧しい人々に分け与えてしまうという無償の愛を描いた物語。1888年に発行されたとても古い童話ですが、名作として広く知られているので、子供の頃に読んだことがある方も多いのではないでしょうか。
(※ここから先は、物語の核心にふれるネタバレを含みますので、結末を知りたくない方は読み飛ばしてください)
私も子供の頃に読んだのですが、『幸福な王子』というロマンチックなタイトルとは裏腹に(?)、自分の飾りを分け与えたために貧相になってしまった王子の像は引き下ろされて溶かされ、分け与える役を引き受けた燕は寒さで死んでしまうという悲しい結末に、良い人たちがひどい目にあうなんて……とすごく理不尽に感じたことを思い出しました。
そして大人になって読み返したら、子どもの頃とは違って、やはり理不尽ではあるものの王子も燕も最後には救われていた……というか、ある意味、「幸福な」生き方だったのかも、と思うようになりました。なぜなら、王子の方は、生きていた頃はお城で本当に幸福に暮らしていたし、死後に像となって高い所に置かれてからは、自分の町の貧しい人々の悲惨な生活がよく見えるようになり悲しんでいたところ、燕のおかげで自分の富を分け与えられることが出来て最終的には悲しみを癒してもらったのだし、燕の方だって、美しい葦に恋をしたことで、カイロへ向かった仲間より六週間も長くこの町に滞在してしまっていたので、たとえ王子の頼みを断って一羽でカイロに向かったとしても、途中で力尽きてしまったのではないのかな、と考えたからです。それに比べれば、天使と神様に「町中でいちばん貴いもの二つ」と認められ、「天国の神様の庭で小鳥は永遠に歌い続け、黄金の神様の町で幸福な王子は神をほめたたえる」ようにしてもらったのは、彼らにとって幸福だったのではないかと思います(この措置が、王子と小鳥にとって本当に幸福だったら、の話ではありますが……汗)。
うん、これで良かったんだ……よし、感想もきれいに終ることができた、と思って、いったん安心したのですが、(でも王子は町の貧しい人全員を救えたわけじゃないよな)とふと思いつき、さらに(宝石や金箔を貰った人は、本当に救われたのか?)と疑問に思ったところ……よく考えると、彼らは幸福にならなかったのでは?と思わざるを得ませんでした。
王子の目のサファイアやルビーをもらっても、それをお金と交換するなどする時に、疑われないはずがありません。町の高い円柱の上の幸福の王子の像から宝石や金箔が消えたことは一目瞭然、そして貧しい彼らが宝石をお金に換えようとしている……状況から考えて、これが現代ならば、もちろん窃盗の疑いで逮捕されるのは間違いありません(涙)。もっとも防犯カメラのおかげで、それが燕のイタズラだということも判明すると思うので、罪には問われないとは思いますが……。それでも単純に「救われる」ことはなかったと思います。
子供の頃はそこまで考えずに、(貧しい人々は救われて良かったけど、幸福の王子と燕は可哀想で理不尽だ)と思っただけでしたが、よく考えると、思っていた以上に悲惨なお話だったのかもしれません(汗)。子どもの頃、そこまで想像力がなくて良かったなあと思いました。
それでも、世の中には実際に「良い人や良い行いが報われない」こともたくさんあるので、子どもの頃に『幸福な王子』を読み、理不尽なことがあるのを知って悲しみ、心にわだかまりが残ったことは、むしろ精神の成長に有益だったと思います。
さてと。これでようやく、うまくまとめられて良かった、と思いつつも、さらに考えてみると……宝石を貰った貧しい人は、そもそもお金に換えたのでしょうか? 突然、目の前にルビーがあるのを見つけたら、「ガラス玉」だろうと思うのでは?(実際、作中で小さな女の子は「きれいなガラス玉」と叫んでいます)。まあ、お金に換えなくても、美しいものを見るだけで気持ちが癒されて、人生が好転したかもしれませんが……。
いや……待てよ、そもそも野外に置かれた王子の像に、本物の宝石が使われていたはずがなかったのでは? 薄い金箔は本物かもしれませんが、宝石の方はガラス玉の方が自然な気がします。幸福な王子は、「幸福な」勘違いをしていたのかも……。
えーと、それでも少なくとも、幸福な王子と燕は、善い行いをしたと信じて、この世を去ることが出来たので、精神的に救われたことは間違いないでしょう。
この童話はすごく短いのに、最も気持ちの良い解釈=「貧しい人々は金銭的に(または美しいものを見て精神的に)救われ、幸福な王子と燕は神に認められて精神的に報われた」から、最も悲しい解釈=「貧しい人々は全員が救われたわけではなく、宝石などを貰って一時的に救われたように見えた人々も実は糠喜びしただけで救われず、幸福な王子は壊され、燕は凍死した」まで、幅広い解釈ができるようです(汗)。
考えれば考えるほど、複雑な思いが増していく不思議な童話です。……いろいろな意味で、やっぱり凄い名作(迷作)なのかもしれません(汗)。
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『幸福な王子』は安価な文庫本の他、子どもが読みやすい絵本の『幸福の王子』もあります。
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