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第1部 本

自己啓発・古典&定番

自省録

『自省録 (岩波文庫)』2007/2/16
マルクス・アウレーリウス (著), 神谷 美恵子 (翻訳)


(感想)
 哲学者プラトンが理想としたのは哲学者が政治を行うことでしたが、この本の著者マルクス・アウレーリウスさんは、まさにその通り、哲学的思索を生命として生きながら、大ローマ帝国の皇帝としての公務を忠実に果たした人です。この『自省録』は、多忙な毎日の中で、彼の心に浮かんだ感慨や思想などを書きとめたもので、他人に読ませることを目的としたものではなく、もちろん自己啓発の教材のような読みやすい形式にもなっていないのですが、彼の高潔で真摯な魂が随所に息づいているので、文章の一つ一つが心を打ちます。
 たとえば父から教えられたこととして彼がメモしている言葉には、次のようなものがあります。
 「父からは、温和であることと、熟慮の結果いったん決断したことはゆるぎなく守り通すこと。いわゆる名誉に関して空しい虚栄心をいだかぬこと。労働を愛する心と根気強さ。公益のために忠言を呈する人びとに耳をかすこと。各人にあくまでも公平にその価値相応のものを分け与えること。・・・(後略)」
 これを読むと、在位中には仁政によって万人の敬愛を集め、死後も多くの家で彼が家の守護神の一人として祀られた理由がよく分かります。
 また次のようなことも書きとめています。(一部抜粋)。
 「この連中にこういう欠点があるのは、すべて彼らが善とはなんであり、悪とはなんであるかを知らないところから来るのだ。しかし私は善というものの本性は美しく、悪というものの本性は醜いことを悟り、悪いことをする者自身も天性私と同胞であることを悟ったのだから、彼らのうち誰一人私を損ないうる者はない。というのは誰ひとり私を恥ずべきことにまき込む力はないのである。また私は同胞にたいして怒ることもできず、憎む事もできない。なぜなら私たちは協力するために生まれついたのであって、たとえば両足や、両手や、両眼瞼や上下の歯列の場合と同様である」
 哲学者が政治を行うと、争いを話合いで解決しようとし過ぎるなど過剰な平和主義になり、野蛮な他国に力で征服されて、結局は国民を不幸にしてしまうことがあるのではと余計な懸念をしましたが、この本の後ろの「訳者解説」によると、彼の治世の時代にも他国からの侵入があり、彼は遠征してこれを退けたそうです。平和を愛していた彼は、よくよくのことがない限り戦わない方針をとっていたようですが、戦うことになれば正当防衛のため勇敢に戦ったとか。そしてこの『自省録』の第一巻は、なんと戦いの陣中手記だったのです。本物の哲人王だったのですね。
 この本には、最後に訳者解説として「マルクス・アウレーリウスの生涯」と、「『自省録』の思想内容について(ストア哲学などの解説)」がありますが、これもとても参考になります。『自省録』を読み通した後、訳者解説で、彼の生きざまや、その精神力を支えたストア哲学を知って、再度、『自省録』を読むと、いかに彼が人生を真摯に生き抜いたのかをあらためて実感し、頭が下がる思いがします。
 この『自省録』はおそらく彼が自分に向けて、自分自身の生き方を再確認するために書いた決意表明のようなものだったのでしょう。受験生なら、自分の部屋の壁に「日々精進!」と書いて、毎日それを眺めて、自分の気持ちを引き締めるみたいに……。
 それだけに、これらの文章は、ただ高潔なだけの哲学的・思索的な言葉ではなく、「生きた言葉」として私たちの心に迫ってきます。
 最後に、「想像力を抹殺せよ」から始まるちょっと変わった文章で、心にひっかかった言葉を紹介させていただきます。
 「想像力を抹殺せよ。人形のように糸にあやつられるな。時を現在にかぎれ。君、または他人に起こってくる事柄を認識せよ。君の眼前にあるものを原因と素材とに区別し分析せよ。最期の時を考えよ。人が過ちを犯したら、その過ちは、これを犯した人のもとに留めておくがよい。」
 「想像力」は、人間に最も大切なものの一つだと考えていたのですが、確かに想像力はマイナスに働くと事態を悪化させることもあります。この文章は、自分がストレスの高い状況に置かれた時に、とても役に立ちそうだと思いました。きっとアウレーリウスさんも、すごく嫌なことがあった時にこれを書いて、カッカしてくる自分をクールダウンしたのかもしれないなあ、なんて思ってしまいました。
 心がもやもやした時に、この本をふっと開くと、自分を励ますことが出来る文章を、どこかで見つけられるのではないかと思います。
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 『自省録』には、漫画で読める『自省録 (まんがで読破 MD109)』もあります。
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 別の作家の本ですが、快楽ではなく徳こそが善であり、幸福のための最も重要な条件だと説いたセネカの『生の短さについて 他2篇』、『怒りについて 他二篇』も心に響きます。また、『人生談義』は、セネカやアウレーリウスと並び称されるストア後期の哲人エピクテートスの人間味あふれる哲学書です。さらに、ヒルティの『幸福論』は、神のそば近くあることが永続的な幸福を約束するとする宗教的幸福論です。

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