ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)
第1部 本
社会
ルポ・シリコンバレー(五十嵐大介)
『ルポ・シリコンバレー AIブームと米国社会の断層を歩く (朝日新書)』2026/6/12
五十嵐 大介 (著)

(感想)
世界の政治、経済、社会そのものを書き換える「巨大な震源地」となりつつあるシリコンバレーを、朝日新聞・元サンフランシスコ支局長である五十嵐さんが現地で徹底取材。テック企業の神々たち、巨大テック企業の現場担当者、そこで働く労働者、AI研究者、政策担当者らへの取材を通して、AI時代の「光」と「影」を徹底的に描き出している本で、主な内容は次の通りです。
第1章 生成AIブームの作り手たち
第2章 広がる生成AI
第3章 身構える労働者たち
第4章 シリコンバレーと政治
第5章 岐路のSNS 人々は繋がれたのか
第6章 国家を超えるビッグテック
第7章 恩恵をどう広げるか
*
驚かされたのが「第2章 広がる生成AI」のフェニックス近郊の話。
「フェニックス近郊は、全米でも有数の巨大テック企業の建設ラッシュが進む「データセンター銀座」となっている。半日ほど車で走ると、グーグルやメタのデータセンター建設地のほか、すでに稼働済みのアップルのデータセンターを回ることができた。」
五十嵐さんが訪れたときは気温42度。地平線に砂漠が広がる乾いた土地に、強い日差しが照りつけていたようです。データセンターは巨大な施設になるので砂漠のような土地になってしまうのかもしれませんが……冷却用の莫大な電力が必要なはずなのに、そんな暑い場所なんですか……実際に、データセンターのために電力需要が急増しているようです、それも世界全体で。
「世界レベルでも急増が見込まれる。国際エネルギー機関(IEA)が25年4月に公表した報告書では、世界のデータセンターの電力需要は2030年までに現状の2倍の945テラワット時にのぼると予測した。日本の1年分の電力需要を上回る規模だ。」
……このためアメリカではスリーマイル島原発の再稼働、さらには核融合の活用まで検討が進んでいるようです。
またAIで最も安定的に稼いでいる企業、エヌビディアの情報もありました。
「エヌビディアのGPUは、AI向けの膨大な計算を並列処理で高速にできることが特徴だ。ハードウェアだけでなく、GPUを動かすためのソフトウェアの開発環境「CUDA(クーダ)」は多くの開発者に使われており、顧客の「囲い込み」に成功している。
ファン氏は、AIの産業構造を「5層のケーキ」と表現する。
下から順に、1.AIを動かす電力、2.計算処理を手がける半導体、3.アマゾンやマイクロソフト(MS)などIT大手が提供するクラウドサービス、4.オープンAIなどが提供する基盤モデル、5.AI技術を活用したアプリケーション、という仕分けだ。エヌビディアは下から2番目の層で圧倒的な強さを誇り、AIデータセンター向けの半導体で世界シェアの約8割を持つとされる。」
*
さらに驚かされたのが、軍事産業としてのAIで……
「2003年創業のパランティアは、衛星画像などのデータをAIで解析するシステムを、米国防総省や米中央情報局(CIA)のほか同盟国の軍や情報機関に提供する。」
……ここで紹介されていた、ウクライナ東部の地図を使ったデモの様子に圧倒されました。地図上に敵の戦車想定位置などが表示されていて、衛星画像、軍の機密情報、地対空ミサイルの熱に反応する赤外線警戒システムなど、膨大なデータをAIが解析。担当者が重視したい要素を選ぶと、希望に最も合う順番で戦闘機のアイコンが並ぶ……まるで戦争ゲームをしているみたいですね(怖い……)。
AIは「アシンメトリック(非対称)な技術」。膨大なデータをAIを使って瞬時に分析し、敵より圧倒的に有利な状況を生み出すのです。今後の戦争は、間違いなくこの方向に進むのでしょう……。
またAIドローンについても……
・「シールドAIのV-BATは、カメラやセンサーで周囲の情報を収集し、機体に積んだエヌビディア製の画像処理装置(GPU)上でAIが情報を処理する。機体の状態や周囲の地形などを認識し、「建物の安全確認」「戦闘機との戦闘」など与えられた使命に合わせて、自律的に動く。重さ10キロの兵器などを搭載でき、最大10時間飛行できる。」
・「安価なAIドローンで1兆円規模の製作費がかかる空母に対抗するという考え方は、戦争のあり方を大きく変えるとされる。」
・「米国が無人ドローンの導入を急ぐ背景には、中国が無人AI兵器の開発を急速に進めているという危機感がある。」
*
AIの軍事的な重要性が増すなか、新たな「軍産融合」の動きが強まっているそうです。
また高度に発達しているAIは、人間の感情も強く動かしているようで、世界的人気となったAIチャットボット「レプリカ」の事例で明らかなように、初期の原始的なAI技術でさえ、人々は恋愛感情を抱いてしまうそうです。
「想像力、ユーモア、共感力など、AIは人間だけが持っていた領域に広がり始めている。」
……若者からお年寄り約20人の男女に、レプリカなどのチャットボットを使ってもらって影響を調べた結果、AIとの会話に懐疑的だった人や、ITに精通した人でさえ、AIが友人関係に値すると感じるようになった……とてもよく分かる気がします……。
この他にも映画産業ではAIを使った映画制作の取り組みが進んでいる(エキストラ俳優(主演俳優も?)はAIで生成されるようになるかもしれない)ことや、著作権侵害問題、さらには労働問題(AIによる効率化で若年層の雇用減少など)などについても……
・「国際通貨基金(IMF)が24年に公開した報告書では、先進国の約6割の仕事がAIによって影響を受けると指摘している。その約半分は生産性の向上などの恩恵につながる一方、残りの半分は賃金や雇用が減る可能性があるとした。」
・「AIの職場への浸透は、労働者の常時監視やプライバシー侵害、人種のバイアスなどにつながる可能性も指摘される。」
*
また「第6章 国家を超えるビッグテック」では、五十嵐さんが自分のデータを調べてみた結果が紹介されていました。
「そもそも私たちのデータはどう集められ、どう使われているのか。
2022年に朝日新聞で始めた企画「ビックテック 膨張する権力」で、わたしはそのしくみを探ることにした。
グーグル、FBのサイトから、自分に関するすべてのデータをダウンロードする申請を出し、データを入手してみた。」
……そのなかの「検索」のデータを見たら、自分の記憶の中のすべてを見ているような感覚になったそうです。位置データも詳細に把握されていたし、どの通知を見て、どの通知を見ていないかまで記録されていたようです。
デジタル広告市場の調査を行った調査会社イーマーケターの報告書によると……
「企業は一方通行の鏡を作った。あなたからはアプリや広告しか見えないが、ガラスの向こうの陰から、追跡者はあなたがやることのほぼすべてを人知れず記録している。」
……うーん……。
これに対して国家は……
「巨大IT企業への規制で先行したのは欧州連合(EU)だ。
人権の意識が強い欧州は2010年代から、18年に施行したEUの個人情報保護規制「一般データ保護規則(GDPR)」などデジタル分野の規制を強化した。(中略)
規制に違反したグーグルなどのIT大手に巨額の制裁金を課したほか、違法コンテンツなどを取り締まるデジタルサービス法(DSA)、競争確保のためのデジタル市場法(DMA)などを世界に先駆けて打ち出してきた。こうした欧州での動きは、日本のデジタル分野での規制にも影響を与えた。
ビッグテックのおひざ元の米国も、IT大手の取り締まりを強めていく。」
……少し安心しかけましたが、最近はまた別の動きが出ているようです。
・「欧州は2010年代からデータ保護などデジタル分野での規制を強化し、米国のビッグテックと対峙してきた。域内4億5000万人の巨大市場をてこに、ルール作りで世界を主導する「ブリュッセル効果」は、他国の法規制にも影響を与えてきた。
EUでは24年、世界初の包括的AI規制となる「AI法」が成立。25年2月から段階的な施行を始めた。(中略)
そんな規制一辺倒の姿勢が変わりつつある。」
・「AIなどのテクノロジーの分野では米中が圧倒的に強く、欧州は米IT大手のサービスに頼る状況が続いてきた。
だが、北大西洋条約機構(NATO)を軽視し、同盟国にも関税をかけるトランプ政権の再来で、「米国には頼れない」という警戒感が強まった。ロシアによるウクライナ侵攻が続くなか、軍事や安全保障の優位性をも左右するAIの競争力強化は喫緊の課題だ。」
・「民間企業が主導する強力なAIを、国家がいかに制御できるのか。技術の急速な進化が続くなか、模索が続いている。」
……AIはすでに「国家の安全保障」にも重大な影響を与えているので、ブレーキをかけかねない「規制」よりも、「開発スピード」が重視されるようになるのかもしれません。
『ルポ・シリコンバレー AIブームと米国社会の断層を歩く』……AIによって変わり始める労働現場、SNSが加速させる偽情報と社会の分断、国家を超える影響力を持つビッグテック。揺らぐ民主主義、強まる米中対立、そして集中する富と権力……その中心地・シリコンバレーでの取材を通して、テクノロジーは世界をどこへ連れていくのか、その恩恵は誰のものになるのかを深く考えさせてくれる本で、とても参考になりました。ここで紹介したのは、そのごく一部で、シリコンバレーとトランプ政権の関係や、オンラインニュース法案、SNSの中毒性など、本当にさまざまな問題をリアルに知ることができます。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
* * *
なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
Amazon商品リンク
興味のある方は、ここをクリックしてAmazonで実際の商品をご覧ください。(クリックすると商品ページが開くので、Amazonの商品を検索・購入できます。)
『ルポ・シリコンバレー』