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第1部 本

社会

エネルギーの地政学(橋本道雄)

『エネルギーの地政学: エネルギートランジションと日本の戦略』2026/7/2
橋本 道雄 (編集), 中井 遼 (編集), 信岡 洋子 (著), ジェーン・ナカノ (著), 小泉 悠 (著), 池内 恵 (著), & 4 その他


(感想)
 現在のエネルギー供給は化石燃料に頼っていますが、再生可能エネルギーを利用するエネルギートランジションが、いま急速に進んでいます。経済安全保障が重要になるなかで、化石燃料の偏在を前提とした地政学はどう変わるのか、水素エネルギーはどれほど有望なのか、日本の戦略はどうあるべきかを考察している本で、主な内容は次の通りです。
序章 エネルギートランジションと地政学[橋本道雄・中井遼]
第1章 エネルギートランジションとは何か?[橋本道雄]
第2章 エネルギートランジションに必要な鉱物とは――サプライチェーンの地政学リスク[信岡洋子]
第3章 変動するアメリカのエネルギー安全保障戦略――クリーンエネルギーをめぐる中国との攻防[ジェーン・ナカノ]
第4章 エネルギーと「大国」ロシア――地政学的緊張とエネルギートランジションの相互作用[小泉悠]
第5章 中東におけるエネルギートランジションと地政学――湾岸アラブ産油国の政治的メカニズム[池内恵・豊田耕平]
第6章 日本・ヨーロッパの再エネ受容と反発――資源輸入国のエネルギーをめぐる政治[中井遼]
第7章 水素をエネルギーに変える技術[河野龍興]
第8章 「水素地政学」の可能性――水素サプライチェーンの経済性分析[石本祐樹]
第9章 新しい水素ビジネスと地政学[木村達三郎]
終章 日本はどう生き残るのか――あとがきに代えて[橋本道雄・中井遼]
   *
 日本は国内の化石燃料資源に乏しく、原油供給の99.7%、天然ガスの97%を海外に頼っています。そして現在は、2022年から始まったロシアによるウクライナ侵攻や、2026年のアメリカとイスラエルによるイランの首都テヘランに向けての空爆によって、エネルギーの安定供給が再び脅かされています。
 ヨーロッパ諸国と韓国も日本と同じような状況にあるようで……
「西側自由民主主義国の?栄は長い間、ロシアと中東から安定的に供給される安価な化石燃料に依存してきた。G7諸国のうち、アメリカとカナダは豊富な化石燃料埋蔵量によってエネルギー自給率が一〇〇%超であるのに対し、ヨーロッパと日本は構造的に輸入に依存している。そしてこの自由と繁栄の基盤は、二〇二〇年代に入り揺らいでいる。脱化石燃料という長期的な変化と、ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエルと中東諸国の戦争といった短期的かつ劇的な変動の増加だ。」
 ……これに対してヨーロッパと日本は、短期的には化石燃料の供給源の多様化、長期的には国内のエネルギー源のグリーン転換で対応しようとしているようです。
 太陽光発電、風力発電、水力発電、地熱発電、バイオマス発電、海洋エネルギー発電などの再生可能エネルギーへの期待が高まっていますが、これらの発電は天候に左右されやすくエネルギーの安定供給の面で不安があります。実際に2025年4月、スペインでは再生可能エネルギーの急激な出力変動が原因と推測される大規模停電が発生しました。
 これに対処するため、蓄電池や水素などの大規模エネルギー貯蔵技術が求められています。
「水素エネルギーの最大の利点は、その多様性と柔軟性にある。再生可能エネルギーによって生成されたグリーン水素は、太陽光や風力といった変動性の高い電源の余剰電力を貯蔵する手段であり、また変動電源の調整力として機能することが可能となっている。電力を水素に変換することにより、長期間のエネルギー貯蔵とエネルギーシフトが可能となり、需要と供給の時間的・量的バランスを調整することができる。さらに、水素は輸送、産業プロセス、発電、建物の暖房など、多岐にわたる分野で利用可能な汎用性の高いエネルギーキャリアであることから、エネルギーシステム全体の脱炭素化を推進する鍵となる。特に、電化が困難である重工業や長距離輸送といった分野において、化石燃料に変わる実用的な選択肢を将来提供することができるとして期待されている。
 日本においては、エネルギー自給率の著しい低さという構造的課題を抱える中で、水素は戦略的に重要な位置を占めている。」
 ……水素は蓄電池よりも長期貯蔵が可能なので、各国とも今後のエネルギー源として大いに期待しているようです。
 ただし現在のところは、日本国内で水素製造を行うよりも、海外から輸入する方が現実的なようで……
「日本はエネルギー供給のおよそ九割を海外に依存しており、現在の産業構造を大きく変えない前提において二〇五〇年のネットゼロ達成を実現するためには、年間九〇〇万トンから一三〇〇万トンの水素が必要となり(バックキャスティング分析のシナリオによっては幅が異なる)、水素製造のための電力開発と水素生産コストを勘案すると、そのほとんどの供給を海外に依存する必要がある。」
 ……そんなにうまく輸入できるのかなー……やっぱり当面は、化石燃料への依存を少しずつ減らしていく(減少分を少しずつ再生可能エネルギーや水素で補っていく)ことになるのでしょう。
 そしてこのようなエネルギートランジションへの動きで、もう一つ重要になるのが、希少金属の供給。クリーンエネルギー技術で重要な鉱物は、銅、レアアース、シリコン、リチウム、コバルト、天然黒鉛、ニッケル、プラチナ、イリジウムなどで……
・「多くの場合、重要鉱物の材料の採掘は少数の国に集中し、次の製錬の段階では中国が圧倒的なシェアを占めている。」
・「(前略)安定供給を確保するためには、備蓄の整備、国内外の供給源の多様化、使用量低減や代替材料の開発、さらには国際連携によるサプライチェーンの強化といった包括的な施策の推進が求められる。」
 ……地球温暖化対策だけでなく、エネルギーの安定供給や安全保障面にも寄与することが期待できるエネルギートランジションには、サプライチェーンやインフラの整備、法整備など経済・社会的で大規模な変革が必要ですが、さらに重要鉱物の安定的確保も必要なんですね……。
 そして「終章 日本はどう生き残るのか」では……
「(前略)世界各地の再生可能エネルギー資源を水素に変換し、石油やLNGのようにタンカーで輸送することで、日本にとって安定的で信頼できるエネルギー供給を拡大することができる。中東やロシアなどに資源が偏っている化石燃料と違って、再生可能エネルギーは世界中に広く賦存していることから、とくにアジア太平洋地域の友好国との間で水素貿易を拡大していくことによって、日本は安定的なエネルギー供給パートナーを確保することができる。また、ホルムズ海峡のようなチョークポイントについても、依存度を大きく減らすことが可能になる。エネルギートランジションは、脱炭素化を進めるのみならず、エネルギー安全保障を抜本的に強化する上でも必要な対策なのである。」
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『エネルギーの地政学: エネルギートランジションと日本の戦略』……加速するエネルギー転換と新たな地政学を考え、日本が生き残るための戦略を導き出している本でした。
「(前略)水素貿易の拡大に伴いエネルギー輸出国の顔ぶれが変わってくることが考えられる。太陽光や風力等の再生可能エネルギー資源が豊かな国が新しい輸出国として台頭してくる。」
 ……エネルギートランジションが進むにつれて、エネルギー輸出国の顔ぶれも変わってくる……エネルギーの地政学を考えることは、今後の日本の戦略を考える上で重要なことだと思います。とても参考になる本なので、みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『エネルギーの地政学』