ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)
第1部 本
脳&心理&人工知能
進化と人間行動 第3版(長谷川寿一)
『進化と人間行動 第3版』2026/3/26
長谷川 寿一 (著), 長谷川 眞理子 (著), 大槻 久 (著), 齋藤 慈子 (著), 香田 啓貴 (著)

(感想)
生物としてのヒトという視点で、行動や心理をとらえたロングセラー・テキストの全面改訂第3版で、発達・言語をはじめとする比較認知や、累積的文化進化などについて補充されている他、読書案内もさらに充実しています(巻末の「引用文献」の他、各章末に「さらに学びたい人のための参考文献」があります)。主な内容は次の通りです。
*第3版まえがき
I 進化とは何か
第1章 人間の本性の探求
第2章 古典的な進化学
第3章 現代の分子進化学
第4章 「種の保存」の誤り
Ⅱ 生物としてのヒト
第5章 霊長類の進化
第6章 人類の進化
第7章 ヒトの生活史戦略
第8章 血縁淘汰と家族
第9章 血縁によらない協力行動の進化
第10章 雄と雌――性淘汰の理論
第11章 ヒトにおける性淘汰
Ⅲ 心と行動の進化
第12章 ヒトの心の進化へのアプローチ
第13章 ヒトにおける文化の重要性
*終 章 ヒトの進化環境と現代社会
*
「第1章 人間の本性の探求」には次のように書いてありました。
「本書は、1.ヒトは生物である、という基本的事実から出発し、だとすれば2.ヒトは進化の産物である、となると、3.ヒトは、他の生物と同様に、主に適応的な進化の過程によって形作られてきた、のであれば、4.生物に共通の進化と適応の原理を考慮することは人間理解に大きく貢献するだろう、という一連の命題を前提にしています。心や行動も生物学的性質の例外ではありません。ゆえに、5.ヒトのこころや行動の成り立ちを説明する上で、進化論が不可欠な基本原理だというのが、本書の中心的なメッセージになります。」
*
そして「第13章 ヒトにおける文化の重要性」によると、ヒトは……
「(前略)他者の優れた行為の因果関係の推論ができ、それを模倣して学び、他者の心を推測および理解して、自分の考えを言語で表現して伝え合う。このことに加え、お互いが協力できれば、累積な文化の発展は可能となり、飛躍的な文明の創発へつながるでしょう。その中で、言語という思考過程とそれを利用したコミュニケーションは、大きな強みです。言語能力の獲得と共創的なコミュニケーションが人類進化の過程で重要なカギと言えそうです。」
……ヒト以外の動物にも「文化」があり、とくにヒトと近縁のサルは食べ物を「洗う」「石で割る」などを行いますが、ヒトには、「広範で精密な模倣学習」、「言語による情報交換」、「教育」、「論理的思考」、「因果関係理解」、「他者の心の類推」、「道具や活用法改良の累積的発展」などの固有の特徴があるのです。
とても興味深かったのが、「第9章 血縁によらない協力行動の進化」の「互恵関係」について。ヒト以外の動物では直接互恵性に見える行動がほとんどないのに対して、ヒトでは互恵行動が多いのですが、ヒトは幼いころから「協力」を覚え、「互恵関係」につながる行動を始めるそうです。
・「ヒトの幼児ではまず無差別な協力のモードが発達し、2歳から3歳半の間にかけて直接互恵性の原理が身につき始めることが示唆されます。子どもは私たちが思うよりも早い時期に、直接互恵性に基づいた行動がとれるようになるのです。」
・「幼児の行動観察に基づく研究では、5~6歳児は他者に親切にしている相手に対してより親切に、そして親密に振る舞うことが知られています。」
……こんな早い時期から「人間らしい優しさ」が生まれているんですね。
ただしフリーライダーを排除する何らかのメカニズムがない限り、このような直接互恵性は絵に描いた餅になってしまうので、私たちの社会には「利益を受ける者は必ずその対価を支払っていなければならない」というルールが横たわっているそうです。
そして「囚人のジレンマゲーム」などの研究から、「長期間のつき合いと、しっぺ返しのような振る舞いことが直接互恵性の鍵である」として……
<しっぺ返し戦略の成功の秘訣>
1)第一ラウンドでは「協力」→いらぬトラブルに巻き込まれることを防ぐ
2)相手の裏切りの直後にこちらも裏切り返す「報復」→相手につけこまれることを防ぐ
3)相手が協力に転じたらこちらもすぐに協力で応じる「寛容」→協力関係を再構築
……この明確なルールに従って行動すれば、他者から見て理解しやすい人物になり、長期的協力関係を築くのに有利なのだとか……確かに(笑)。
また「第12章 ヒトの心の進化へのアプローチ」では、他の霊長類との比較で、ヒトの心の進化に迫る例として……
「ヒトとチンパンジー(ボノボも含む)はまた、繁殖集団の中に複数の雄(男性)が存在し、雄(男性)同士の絆が強いという特徴を有しています。そして隣接する集団の雄(男性)同士には強い敵対関係がみられる点も、小規模伝統社会のヒトとチンパンジーでは共通します(ただし、ボノボでは顕著ではありません)。一つのシナリオとしては、雄(男性)の連合と狩猟・肉食と攻撃性が、相互に関係しながらセットとして進化した可能性もあります。今後、ボノボとチンパンジーの生態環境も含めた種間比較が進むと、どのような淘汰圧が雄(男性)同士の絆、狩猟・肉食、そして男性集団間の攻撃性に影響したかをより深く考察できるでしょう。」
……ヒトに最も近縁だと言われているチンパンジーでも、その行動は、ヒトとは大幅に違っているので、比較に本当に意味があるのかなーと実は少し疑問に感じながら読んでいたのですが、このように他の霊長類との行動を比較することで、より深い考察が出来るのかもしれません。
最後の「終 章 ヒトの進化環境と現代社会」では、少子化の原因についても、生物としてのヒトという視点からの考察がありました。
「少子化の原因を分析するには、得られるエネルギーその他の資源は、まずは「自己維持のための投資」に当てられ、余剰があるときに「成長」や「繁殖」に当てられるという、動物の生活史戦略の基本を押さえておく必要があるでしょう。動物一般では、「成長」とはからだの成長のことであり、余剰が成長に当てられるのは子ども期だけです。しかし、現代の人間社会では、基本的な生活レベルが毎年のように向上していくので、「自己維持」のレベルがどんどん上がっていきます。(中略)そこで現代人は、「自己維持」と「自己の成長」のために多くのエネルギー投資を振り向けることになり、「繁殖」に向ける余剰がどんどん少なくなっているのでしょう。」
……なるほど……説得力がありますね……。
『進化と人間行動 第3版』……生物としてのヒトという視点で、心・からだ・行動の適応を読み解いている本で、とても参考になりました。ここで紹介した以外にも、母親と胎児の駆け引き(一般に父親由来で発現する遺伝子は胎児の成長を促進し、逆に母親由来で発現する遺伝子は胎児の成長を抑制することが知られている)など、興味深い話題がたくさんあります。興味がある方は、ぜひ読んでみてください。
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『進化と人間行動 第3版』