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第1部 本
地質・地理・気象・地球環境
南極の氷から探る地球大変動(菅沼悠介)
『南極の氷から探る地球大変動 氷床融解の連鎖はいつ、どのように起こるのか (ブルーバックス B 2336)』2026/7/23
菅沼 悠介 (著)

(感想)
世界最大の淡水の貯蔵庫・南極氷床。これがすべて融ければ、世界の海面は約58m上昇するようです。しかも近未来、温暖化の進行によって「氷床融解の連鎖」が始まりうることが、最新研究で明らかになっています……過去の氷床変動を紐解き、急激な氷床融解のメカニズム、そして今後の海面上昇の実態に迫っている本で、講談社科学出版賞受賞の南極研究者、菅沼さんによる至高の科学ノンフィクションです。主な内容は、次の通りです。
第1章 融解する南極氷床 ――動き出した氷の大陸
第2章 世界の果てには何があるのか ――未知の南方大陸と極点到達レース
第3章 氷床の下には何があるのか ――近代サイエンスの幕開けと南極氷床の姿
第4章 南極地域観測隊 ――岩と氷から解き明かす南極氷床の歴史
第5章 地層と氷が語る南極氷床の歴史
第6章 南極氷床はどのように変化してきたのか ――極限のフィールドワークから探る
第7章 未知の南極氷床融解メカニズムとティッピングカスケード
第8章 南極氷床の不安定化メカニズム
第9章 南極と地球の今と未来
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冒頭には口絵カラーページ(8ページ)があり、本書の記述と関係している地図や写真、図表とともに、次のような簡単な解説もありました
「セール・ロンダーネ山地に残されたテイル:露岩域に分布するテイル。長く地表に露出した礫は酸化して赤みを帯び、風によって削られて丸くなる(上)。一方、露出期間が短い礫は、あまり風化を受けず「新鮮」な状態で残る(右)。氷床がいつ後退したのかを知る手がかりとなる(写真:筆者)」
……これを見ながら本文を読むと、現地や研究の状況がよりリアルに感じられます。
さて、「第1章 融解する南極氷床 ――動き出した氷の大陸」は、2002年、ラーセンB棚氷が崩壊し、わずか3週間で、東京都の1.5倍という面積の氷が消えてしまったという衝撃的な出来事から始まります。
「氷床とは、広大な陸地をすっぽり覆う巨大な氷の塊のことを指す。現在、地球上に存在する氷床は、2つだけである。南極大陸を覆う南極氷床と、北極圏の巨大な島グリーンランドを覆うグリーンランド氷床だ。この2つの氷床は、じつに地球上の淡水の約7割を氷として陸上に蓄えている。」
そして現在、南極氷床の変動を調べるために使われている手法には……
1)見る:合成開口レーダー(SAR)で電波で見た写真を撮る
2)高さを測る:衛星からレーダーやレーザー光を地表に向けて発射し、反射して戻ってくるまでの時間を測って調べる
3)重力を観測する:重力観測衛星で測る
……などがあり、これらの観測を通して、氷床は太陽の熱で表面から融けているのではなく、海の下から忍び寄る「暖かい水(南極深層水)」によって、根元から融かされていることが分かってきたようです。
この本は、南極についての科学的知識だけでなく、歴史的な経緯も詳しく解説してくれます。
「第2章 世界の果てには何があるのか」では、1700年、最初の地球物理学者のエドモンド・ハレーさんが科学調査を主目的とした航海で南緯52度近くまで達したことから始まる、南極圏探検の歴史が紹介されていました。
1911年、人類で初めて南極点に到達したアムンゼン隊に敗れ、南極で死亡してしまったスコット隊は、遺体の傍に16キロ余りの岩石サンプル(中には「グロッソプテリス」と呼ばれる植物の化石もあった)を残していたそうです。
「この発見は、南極がかつて他の大陸と地続きであったこと――すなわち「ゴンドワナ超大陸」の存在を示す重要な証拠となり、のちの大陸移動説を支える科学の礎となった。」
……彼らが命を賭して得た知見は、その後の南極研究を大きく飛躍させる原動力となったそうです……とても偉大なことですね……。
続く「第3章 氷床の下には何があるのか」では、海洋観測などの科学的な大規模調査が始まったことが詳しく紹介されていました。
1920~30年代、イギリスの「ディスカバリー調査」は、南太平洋全域で体系的な海洋観測を行い、南大洋の3層構造(「南極表面水」「周極深層水(少し暖かい)」「南極低層水(地球で最も冷たく重い)」)が明らかになったそうです。
ここでは、「ナンセン式転倒採水器」、「地震波探査チームによる氷床の厚さの実測(ダイナマイト爆発で人工地震を起こし、その振動が氷床を伝わり、基盤から反射してくる時間を観測することで、氷床の厚さや氷床下の地形を探査する)」、「音波による海底探査(船底から海中に向けて強い音波を発射し、返ってくる信号を捉えることで、海底の地形やその下に重なった地層の構造を知ることができる。)」などとともに、次のことが書いてありました。
「(前略)南大洋の観測からは、南極沿岸で生まれた冷たく重い水が深海へ沈み込み、南極低層水として地球規模の海洋大循環に関わることが見えてきた。また、地震波探査によって、南極氷床は平均で約2000メートルもの厚さをもち、その下には山や谷をもつ大陸が隠されていることが明らかになった。さらに海底の音波探査は、南極氷床がかつて大陸棚まで広がり、その周囲の改定に拡大と後退の痕跡を残してきたことを示した。南極は、もはや単なる未知の辺境ではなく、地球全体の気候システムを左右する重要な構成要素として認識されるようになったのである。」
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そしてこの後も、南極の氷床のボーリング調査(アイスコア=氷のタイムカプセルの研究)などが紹介されていきます。
2000年ごろまでに見えてきた南極大陸と氷床の歴史としては……
1)南極はかつて「緑の大陸」だった
2)その植生は他の大陸のものと類似していた→南極はかつて他の大陸とつながっていた(プレートテクトニクス説支持の強い証拠に)
3)南極大陸が他の大陸から徐々に離れる過程で、地理的にも気候的にも孤立していった
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そして最終章の「第9章 南極と地球の今と未来」では、「近い将来に自然な氷期が始まる可能性は極めて低い」ことや、「海面が上昇する量は分からないが、上昇するという傾向そのものには疑いの余地がない」ことが書いてありました。
その理由は、氷期が始まるための重要な条件(北半球の高緯度で、冬に降った雪が夏を越えて残ること)が、起こりにくくなっているからだそうです。
また、ジェット気流蛇行が大きくなってきたので、今後の北半球の冬の天気予報(長期予報)は、困難になる可能性があるのだとか……。
『南極の氷から探る地球大変動 氷床融解の連鎖はいつ、どのように起こるのか』……南極について、総合的に詳しく解説してくれる本で、とても勉強になりました。
巻末には「南極調査 バックストーリー」があり、南極調査の実態を詳しく知ることが出来ます(南極探検気分をちょっぴり味わえます)。
みなさんも、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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『南極の氷から探る地球大変動』