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第1部 本
絵本づくり
本作り500年の歴史(スミス)
『本作り500年の歴史: 本の印刷からZINEカルチャーまで』2026/4/24
アダム・スミス (著), 村上 彩 (翻訳)
(感想)
グーテンベルクからZINEまでの出版、製紙技術、製本やタイポグラフィ……「本作り」の長い歴史を、印刷・出版の発展に貢献した18名の人物を通して掘り下げながら紹介してくれる本で、希少図版75点も収録されています。主な内容は次の通りです。
序
第一章 本を印刷する
ウィンキン・デ・ワード Wynkyn de Worde (?~一五三四)
第二章 製本する
ウィリアム・ワイルドグース William Wildgoose(活動期一六一七~二六)
第三章 本を切り貼りする
メアリー・コレット Mary Collett(一六〇三~一六八〇)
アンナ・コレット Anna Collett(一六〇五~一六三九)
第四章 本の活字を作る
ジョン・バスカヴィル John Baskerville(一七〇七~一七七五)
サラ・イーヴス Sarah Eaves(一七〇八~一七八八)
第五章 本ではないものを印刷する
ベンジャミン・フランクリン Benjamin Franklin(一七〇六~一七九〇)
第六章 本のための紙を作る
ニコラ=ルイ・ロベール Nicolas Louis Robert(一七六一?一八二八)
第七章 本に絵を追加する
シャーロット Charlotte(一七八二?一八五二)
アレクサンダー・サザーランド Alexander Sutherland(一七五三?一八二〇)
第八章 本を貸す
チャールズ・エドワード・ミューディ Charles Edward Mudie(一八一八? 九〇)
第九章 本を時代に逆行して作る
トーマス・コブデン=サンダーソン Thomas Cobden-Sanderson(一八四〇~一九二二)
第一〇章 本を小規模印刷所で作る
ナンシー・キュナード Nancy Cunard(一八九六?一九六五)
第一一章 本をさまざまな形態で作る
ローラ・グレイス・フォード Laura Grace Ford(一九七三生)
クレイグ・アトキンソン Craig Atkinson(一九七七生)
フィリス・ジョンソン Phyllis Johnson(一九二六~二〇〇一)
ジョージ・マチューナス George Maciunas(一九三一~七八)
ユスフ・ハッサン Yusuf Hassan(一九八七生)
エピローグ
出典、参考文献
邦訳文献
図版と引用のクレジット
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実を言うとこの本、読んでいる途中で考えてしまったのは、「この本は、サイトでの紹介は見送ろう」でした。『本作り500年の歴史』というタイトルだったので、当然「本作りの歴史の本」だと思っていたのに、系統だった「本の歴史」を教えてくれる本ではなく(歴史の記述がないわけでなありませんが、ほぼイギリスを中心としたヨーロッパの中世から近世の時代の本の歴史しかありません)、言い回しにも分かりにくいところがあり、過去の出来事がリアルに描かれている一方で、「歴史」としては整理されていない感じだし、無駄に冗長な部分も多かったうえに、価格が4800円+税と高価な本だからです。
それでも最終的にはサイトで紹介する気持ちに変わったのは、過去の本の制作者の仕事を通じて、「本とは何か」を深く考えさせられたから……本について、新しい視点をもらえたような気がしたからです。
目次を見ても分かるように、この本は「印刷、出版の歴史に貢献した知られざる人々(あまり有名ではない人々)」が、いかに本を作ってきたかに関する内容で、「モノとしての本」がどのように作られてきたか、当時の生活も分かるような感じにリアルに描かれています。
例えば「第一章 本を印刷する」では、当時の印刷所について……
「(前略)十六世紀から十七世紀にかけての小さな印刷所は、どれも似たような構造だった。印刷所は作業場であると同時に住居でもあった。一つの部屋に三台か四台の印刷機が置いてあり、おそらくは大柄な男であろう引き手(プラー)が、バーを引っ張ってねじを回し、「ドウェル」と呼ばれる最大の圧力がかかる数秒間に、金属活字を組んだ版「フォーム」に紙を押し当てて印刷する。次に叩き手(ビーター)が、動物の皮で作られたインキボールを使ってインクを活字に塗り、印刷機が上がると印刷された紙のシートを検査する。印刷工房ザ・サン(The Sun)の建物は、印刷所として設計されたものではないため、機械や作業する人々が狭い空間に押し込まれていたことは間違いない。建具の転用や、行き当たりばったりの間仕切りが行われていただろう。室内は狭苦しく、おそらく暗かったに違いなく、夏場は暑苦しかっただろう。」
……本の日焼けを防ぐために窓はガラスではなく紙で覆われていて、職人たちの体臭やアルカリ性の灰汁の匂い、インクの匂いなどが混然となったひどい匂いもしていたそうです。
「第二章 製本する」では……
・「(前略)多くの製本所は、かつて徒弟として技術を習得した自由市民の親方が、数名の熟練工と一人か二人の徒弟を雇用して経営する独立事業だった。」
・「(前略)本作りの作業は、「前工程」(製本)と「仕上げ」(装飾)の二段階に分かれていた。製本は段階的な作業であり、歴史家の推定によると、一冊の本に対して、製本師は約八〇工程の作業を施した。急ぐことのできない、緻密な制度と忍耐と労苦を必要とする作業であるが、芸術を花開かせる余地もある手仕事であった。」
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この時代、本作りは、かなり劣悪な環境で行われていたようです。
その一方で、読者(?)はかなり自由に本を改造していたようで、「第三章 本を切り貼りする」では、女性たちが「ハーモニー」を行って、印刷本の聖書をナイフやハサミで切り刻み、混ぜ合わせ、順序を変え、内容を増補し、新たな聖書物語を世に送り出していたことが紹介されていました(これが「コラージュ」につながっていったようです)。
さらに時代が進んだ「第七章 本に絵を追加する」では、「グランジャライザー」という過激な本の改変(主に肖像画などの図版その他の視覚資料をまとめて、それを印刷本に挿入する)が行われるようにもなったようで……これは内容とは関係ない肖像画などを、本に入れた(本は「容器」扱いだった)ものだったようです(ページの文章は、絵の背景模様に使われるだけ?)。
そして「第九章 本を時代に逆行して作る」では、すでに機械印刷が進んだ時代に、敢えて伝統的な印刷技術と製本技術を用いるケルムスコットという「プライベート・プレス」(ウィリアム・モリス設立)が紹介されていました。このプライベート・プレスが重視したのは、高度な職人技、芸術作品としての本、そして本の制作を尊厳ある技術労働と認知することだったそうです。
そして「第一〇章 本を小規模印刷所で作る」では……
「(前略)スモール・プレスの活動の中核となったのは、手動印刷機に回帰する姿勢、本を工業生産することの拒否、出版を市場の制約から(不十分ながらも)切り離そうとする試みだった。また、通常は出版を望めないような急進的文学を刊行することに意義があると信じる姿勢も、スモール・プレスの特徴だった。レタープレス(letterpress)、すなわち活字を用いる活版印刷によって、タイポグラフィに関するさまざまな実験を行えるようになった。」
……「本作り」は歴史的に、さまざまな道をたどってきたんですね……。
そして最終章の「第一一章 本をさまざまな形態で作る」では、現代の製本について、主に非商業的な「モノ」としての本が紹介されていました。
例えば「ジン(ZINE)」は、「自費出版・自費配布による非商業的小冊子」で、コピー機などで制作され、非公式に手渡し配布されるものなどを言うそうです。
・「(前略)多くのジンは、著作家で保護された画像を無断で転載・コラージュして、出版物としての体裁をふざけた態度で弄び、伝統的な手法で作られた本を常に嘲笑する。」
・「ジンはDIY的につくられたモノであるという認識、つまりオフィスではなく個人のプライベートな部屋で作られたモノであるという認識は、極めて重要である。(中略)すなわちジンは、「異なる要素を切り貼りし、ときに衝突しかねない事物を並置して、予期せぬ結果を生み出すことができる」。」
……これは日本でいう「同人誌」みたいな感じでしょうか?
またとても面白かったのが「本や雑誌を箱として想像する」というもので……
「(前略)製本せずにバラバラのまま箱に入れたものを本と称する歴史は、細々としたものではあるが存在する。」
……「小説を章ごとに綴じただけで、全体的な製本をせずに箱におさめた」ものは、章を並べ替えて何度も読める(読むたびに異なる展開となる)楽しみ方が出来るようです。
「箱は、ある程度の統一性、つまりテーマ別特集号を可能にしつつ、その内部では流動的な雑多さを許容する。箱を振れば、中身はガラガラと音を立てる。箱を開ければ、パーツはバラバラの順序で落ちてくる。ひとつ取り出して、それを別にしておくことができる。弁当を詰めるように、一つずつ元に戻すこともできる。自前のパーツを一つ加えてもいいだろう。いったん蓋を閉じれば、中身はそのまま、そこにいてくれる。次に蓋を開ける時を待っていてくれる。」
……なるほど。「本」には、こんな形態のものもあるんですね。
さらに、「古くて貴重だが流通しておらず見つけるのも困難で読まれてもいない」原著の「流通しない本」を「流通するコピー製ジン」へ作り直したものとして、『ナイジェリアの陶器』という古い本の大部分をコピーで複製した本も紹介されていました。……「ジン」や「流通するコピー製ジン」は著作権問題が発生しそうですが……「コラージュ」や「グランジャライザー」も含めて、本には、いろんな楽しみ方が出来るんだなーと痛感させられました。
『本作り500年の歴史: 本の印刷からZINEカルチャーまで』……歴史の本ではないことに戸惑ってしまいましたが、実は、原題は「THE BOOK-MAKERS」で、まさに「これは本についての本であり、本を作った人々についての本である。」でした。美しいハードカバーで、希少図版75点も収録されていますので、ちょっと高価ではありますが、本マニアの方は、ぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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『本作り500年の歴史』