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第1部 本

脳&心理&人工知能

「心の不調」の脳科学(加藤忠史)

『「心の不調」の脳科学 脳の中で、何が起きているのか (ブルーバックス B 2317)』2025/12/25
加藤 忠史 (編集)


(感想)
 うつ病、発達障害、摂食症、心身症、睡眠障害、子への虐待、スマホやギャンブル依存、強迫症、愛着障害、PTSD、老年期うつ病、認知症、双極症、統合失調症……全ての症状は「脳の変化」から生じますが、脳内では何が起きているのでしょう?
発症前の予兆を捉える方法から治療法の開発まで、脳科学の視点で挑む16名の研究者たちが、最先端の情報を惜しみなく解説してくれる本で、2023年に刊行されベストセラーになった『「心の病」の脳科学 なぜ生じるのか、どうすれば治るのか』の続編です。
「第2章 ゲノム研究を精神疾患の臨床に役立てる」では、最新のゲノムワイド関連解析(GWAS)によって、精神疾患を含むさまざまな疾患や体質と遺伝情報の関係の解明が大きく進んでいることが紹介されていました。
 ある集団内で1%以上の頻度で現れる1塩基違いのバリアントを「一塩基多型(SNP)」と呼ぶのですが……
・「疾患と関連するSNPでも、特定の遺伝子からタンパク質が作られる発現量がわずかに減るといった小さな影響しか与えないものがほとんどです。(中略)そのような小さな効果のバリアントがたくさん集まり、その影響が日々積み重なり、ストレスなどの環境要因も影響して疾患を発症すると考えられます。」
・「2002年ごろから、GWASによる解析が世界各国で始まり、さまざまな疾患や体質に関連するGWASのデータが「GWASカタログ」というデータベースに蓄積されています。精神疾患のGWASについても2010年前後から数多くの解析結果が発表されるようになり、PGCという国際コンソーシアムにデータが集められています。
 GWASによるSNPを目印にして、統合失調症では300個以上、双極症(双極性障害)でも300個以上、うつ病では約700個の疾患と関連する遺伝子(感受性遺伝子)が見つかっています(2019~2022年のデータ)。ただし、それらの個々のSNPの疾患に対する効果(オッズ比)の平均値は、統合失調症1.06倍、双極症1.03倍、うつ病1.02倍と極めて小さな値となっています。」
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 ……GWASによって、より良い治療ができるようになることを期待したいです。
 また「第4章 子どものうつ病・双極症をどう見極めて治療するか」では、拡散テンソル画像(DTI)というMRIでの計測を利用することで……
「計測の結果、うつ病リスクと双極症リスクのいずれでも、うつ症状が重いほど、左右の大脳半球をつなぐ脳梁と前帯状皮質の微細構造の変化が大きいことがわかりました。一方、双極症のリスクが高い子どもでは症状が重いほど、後帯状皮質と大脳皮質後部の構造的接続性が弱いことがわかりました。それは、うつ病リスクが高い子どもには見られませんでした。
 このような脳構造の違いによっても、うつ病と双極症を見分けることができる可能性があります。」
 ……脳構造を調べることで見極めようとしているんですね。でも「脳構造」は不変ではないそうです。
「(前略)脳の反応や構造は不変ではなく、認知行動療法などによって変化することが、さまざまな研究によって報告されています。(中略)脳の機能には意識的に変えることができる余地がたくさんあるのです。」
 そして「第5章 思春期に現れる統合失調症の予兆を捉える」では……
・「(前略)思春期における脳発達の軌跡の違いから統合失調症の予兆を捉えて、将来、発症するかどうかを発症前の脳画像から高い確率で予測できることがわかりました。」
・「(前略)統合失調症の人たちは、発症前後や発症後に側頭葉の上部にある「上側頭回」の体積が減少したり皮膚の厚さが薄くなったりすることが知られています。この領域は聴覚に関係しており、その機能の不具合によって幻聴が起きると考えられます。」
・「私たち人間も、さまざまなことを経験することにより、ある感覚入力に対して必要な認知・情動が惹起され、必要のない認知・情動は抑制されるように回路が調節されます。しかしこの回路に不具合があると、必要な認知・情動の惹起と不必要な認知・情動の抑制のバランスが崩れて、幻覚や妄想といった統合失調症の陽性症状が現れると考えています。」
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 そして「第6章 ギャンブルやスマホをやめたくてもやめられない脳と心」では……
・「(前略)ギャンブル症や物質依存の人は、報酬に対して報酬系があまり活性化しません。また、健常者では損失などの罰を与えられたときには報酬系の活動が抑制されますが、依存症の人では、抑制のされ方が弱いという報告があります。」
・「依存症の人は報酬系の反応が鈍いために、「報酬の欠乏状態」になっています。そのような報酬系でも活性化するアルコールやギャンブルに依存するようになり、さらに強い刺激を求めてやめられなくなるという「報酬欠乏仮説」が、依存症の原因として考えられています。」
・「このような症状を改善するために、依存症の治療では、スポーツや芸術鑑賞など、依存対象以外の趣味を持つように勧められます。」
・「ギャンブル症を含む依存症の治療は現在、薬物療法が確立されていないため、考え方や行動を改善する認知行動療法などの心理療法が中心です。」
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 なお「思春期は性ホルモンの影響が脳に及んで報酬系や衝動性に関わる脳領域が活性化する一方で、欲望や衝動性を抑制する前頭前野は成熟の過程にある」ので、思春期の人たちも、ネット依存には注意すべきなのだとか。
 この他にも、PET(陽電子放出断層撮影)で中高年期のうつ病や認知症を可視化して予防するとか、精神展開剤(サイケデリックス)でうつ病や不安症、強迫症を治療するとか、「実時間fMRIニューロフィードバック療法」とかの最新治療法の紹介もあって、とても参考になりました。
『「心の不調」の脳科学 脳の中で、何が起きているのか』……16名の研究者たちが、「心の不調」を治療するための最先端の情報を紹介してくれる本です。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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