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第1部 本

脳&心理&人工知能

ヒトは変なサル(中村克樹)

『ヒトは変なサル: わたしたちは進化の頂点なのか』2026/3/10
中村 克樹 (著)


(感想)
「ヒトって、いったいなんだろう」という人類学の本質的な課題について、他のサル類と比べながら、「変なサル=ヒト」の特徴や変な点を、「体」「家族」「生活」「コミュニケーション」「知能」の5章立て各章10話、全50話で考察している本です。
 著者の中村さんは、「ヒトとは何か」を明らかにしようと霊長類を総合的に研究している京都大学ヒト行動進化研究センターのセンター長で、情動、記憶や知覚、コミュニケーションなどの脳機能の仕組みを解明しようと、サルとヒトをテーマに研究を続けているそうです。そのなかで気づいたのは、「ヒトは、変なサルだ」ということ……この本は心理学の本ではありませんが、対象が「ヒト」なので生物学のジャンルにも入れにくく、人間行動進化学に近い内容だと思ったので、ここでは心理学のジャンルで紹介させていただいています(笑)。
「第1章 体」では、「ヒトはXXな変なサル」として、「脚が長い」「二本足で移動する」「土踏まずがある」「脳が大きい」「体毛が少ない」「犬歯が小さい」「全身から汗をかく」「顎が小さい」「手が2つしかない」「「おとがい」がある」などの、サルとは違う変な(XXな)特徴について教えてもらえました。
 この中で、「手が2つしかない」というのは意外でしたが、サルは樹上生活をしているので、足も枝を掴めるように進化し、まるで「4本の手」があるような体になっているという意味でした。このことは、ヒトがサルと違って「脚が長い」のとも関係していて、樹上生活に適応していったサルは系統的にヒトに近づくほど次第に腕が長くなってきたのに、ヒトだけが急にその傾向から外れて脚が長くなった……やっぱりヒトは、地面に下りて生活を始めた「変な」サルなんですね……。
 続く「第2章 家族」では、サルの仲間のうちヒトだけが「孫の面倒を見る」というのが意外でした。サルの仲間はふつう「母親」だけが子育てするそうです。ただしヒトだけが孫の面倒を見るわけではなく、クジラ、シャチ、ゾウも孫の面倒を見ることがあるそうです。これらは、ヒトを含めて、どれも脳の大きな動物という特徴があるそうですが……。
「第3章 生活」では、「ヒトだけが象徴遊び(ごっこ遊び)をする」というのは意外ではありませんでしたが、ヒトだけが「利他行動を行う」というのは少し意外でした。サルの仲間はめったに利他行動を行わず、食べ物を分けるのは相手から強く要求されたときや、子どもや手下、交尾相手など限られた相手だけなのだとか。ヒトだけが、助けてあげたいという気持ちから自発的に、知らない相手に対しても利他行動を起こす……ヒトは優しいサルなんですね……(野生ではなくなって、生活に余裕があるからかもしれませんが……)。
 また驚いたのが「第4章 コミュニケーション」の「指差し」。なんとチンパンジーなどの類人猿を含めて、ヒトのような指差しができるサルの仲間はいないそうです(指差しではなく、指でボタンを押すなどのことはできますが)。それに対してヒトの赤ちゃんは……
「(前略)赤ちゃんは話し始めるより先に、指差しを使ってコミュニケーションをとるようになります。(中略)欲しいものや興味・関心の対象に対して、自分の要求を示す指差しを始めます。
 その後、自分が興味をもったものを養育者に知らせるために指差しを使うようになります。」
 ……赤ちゃんはさらに視線や表情などで、非言語コミュニケーションをとるようになりますが、これがその後の言葉の発達に重要なのだとか。……そうだったんだ。
 しかも「声が出せる」のも、ヒトに固有な特徴のようで……
「(前略)ヒトは喉の奥にある声帯を震わせることによって、さまざまな音をつくり出すことができます。(中略)喉の構造がちがっているので、チンパンジーやほかのサルの仲間をいくら訓練しても、ヒトのようにさまざまな音をつくり出すことは絶対にできません。」
 ……えー、そうだったんだ! ただし喉の構造から、ヒトでは誤嚥が起こりやすくなったのに対して、チンパンジーやほかのサルの仲間では誤嚥はほとんど起こらないそうです。
 また「第5章 知能」で驚いたのが、サルの仲間は「たくわえる」、「将来を考える」ことを行わないということ。なんとサルは「将来に備えて食料を蓄える」ことをしないそうです。果実がどこにあるかを記憶するために脳が大きくなったと考えられているサルですが、貯蔵はしなかったんですね! トウブキツネリスなどのリスは、木の実の種類ごとに隠し場所を変えて覚えるのですが、一年中暖かい場所に住んでいることが多いサルの仲間は貯食行動を示さないそうで、雪の中で生活することもあるニホンザルでさえ、樹皮や虫など、ふだん食べないものを食べて冬を越しているのだとか……意外でした……もしかしたら体も頭も小さいリスの方が賢いのかも?
 文字や文法、火や道具の使用や製作など、ヒトとサルの仲間に大きな違いがあることは知っていましたが、それ以外にも色んな面で違いがあるんですね。
 現存する動物でヒトに最も近縁なのはボノボとチンパンジーで、たった数%しか遺伝子が違わないはずなのに、だいぶ違うんだなーと思いながら読んでいたら、本書の「おわりに」には次の記述がありました。
「ほかのヒト属が絶滅したので、チンパンジーやボノボが進化の隣人になりましたが、じつはかなり離れた隣人なのです。」
 ……私たちには、彼らよりもっと近縁のホモ・ネアンデルタレンシス(ネアンデルタール人)やホモ・エレクトスなどがいたはずなのに……絶滅してしまったんですね(私たちホモ・サピエンスが絶滅させてしまったとも言われています)。
『ヒトは変なサル: わたしたちは進化の頂点なのか』……私たちに最も近縁なサル類との比較で、ヒトの特徴や変な点を、科学的知見をまじえながら深く考察している本で、とても興味深かったです。興味がある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『ヒトは変なサル』