ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)
第1部 本
生物・進化
冬眠の生命科学(山口良文)
『冬眠の生命科学』2026/3/24
山口良文 (著)

(感想)
冬眠はただ眠っているだけではなく、驚異的な能力を持つ動物による命がけの生存戦略です。科学の進歩により、わかっていないことだらけだった冬眠という現象は、徐々にその謎が解明されつつあります……フシギの世界を冬眠研究者の山口が紹介してくれる本で、主な内容は次の通りです。冒頭には冬眠中のヨーロッパオオヤマネや休眠中のハチドリなど、普段は見られないような生物の姿のカラー写真もあります(8ページ)。
口絵カラー 神秘的な冬眠の世界
0章 冬眠とは何か
1章 いろいろな冬眠 変温動物と恒温動物、それぞれの越冬戦略
2章 冬眠を可能にする哺乳類の不思議
3章 冬眠研究の最前線と未来
4章 ほぼ冬眠知らずの研究人生
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「0章 冬眠とは何か」によると、冬眠する生き物は特に珍しいわけではなく、哺乳類だけでも100種以上、全体の5~20%近くが冬眠(もしくは冬眠に近い行動)をすると考えられているそうです。ところが……
「(前略)実は、動物が冬眠する「メカニズム」はまだほとんどわかっていないのです。」
……そうだったんだ。
そして小動物の「本格的冬眠」の例として……
「(前略)シシリアンハムスターと呼ばれるハムスターは、温度が五度の部屋で飼育してやると数ヶ月にわたって冬眠します。このあいだ、体温は三七度の状態と、体温が五度付近まで落ちた、「深冬眠(ディープ・トーパー)」と呼ばれる動かない状態とを、何度も行ったり来たりしています。こういった、数ヶ月にわたる冬眠期間のあいだ、「深冬眠」を何度も繰り返すのが、コウモリやハムスターなど小型動物の冬眠の特徴です。」
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これに対してクマの場合は、なんと冬眠中に出産や子育てをするそうです!
「(前略)クマの場合、越冬時の体温が三〇度程度までしか下がりません。もちろん、それでも人間なら低体温症という命にかかわる危険な状態ですが、コウモリやハムスターほどの体温の低下ではないので、「本格的な冬眠」とはいいにくい。(中略)ふだんより反応は鈍いものの、他の動物の気配を感じたり、つつかれたりすれば目を覚ますことができます。敵が入ってくれば遅いかかることもあるので、冬眠中のコウモリを相手にするときと違って、まったく油断はできません。
また、クマのメスは冬眠中に出産や子育てをします。」
……冬眠中に子育てとは驚きですね! 交尾するのは冬眠前(発情期は五~七月)のようですが、着床遅延という仕組で受精卵は一一月頃まで休止状態になって成長しないようです。そして冬眠中だと基本的に雪に閉ざされた安全な巣穴で子育てできるので、外敵に襲われる心配がないなどの利点があるのだとか……こんな感じなので、果たしてクマは冬眠しているのか? と議論になったそうですが、バイオロギング(野生で自由に暮らす動物の行動記録から体温や心拍数までさまざまなデータを取得する方法)での調査で、「冬眠している」ことが明らかになったようでした。
「冬眠」にはこんなにもバリエーションがあるので、その定義も困難なようでした。
「(前略)いろいろな生き物に完全に当てはまるように定義するのは難しくても、ある状態を「冬眠」と呼ぶために欠かせない最低限の特徴はあります。
それは、「低代謝」がコントロールされた形で長時間続くこと、です。クマの場合も、データロガーによる調査でこの点が明らかになったことで、「冬眠」と見なされるようになりました。」
また恒温動物と変温動物では、冬眠にも大きな違いがあるようです。変温動物は外気温の変化に応じて体温が変動するので、気温が下がると代謝が落ちて冬眠へ入っていくのですが、恒温動物は外気が下がっても体温を一定に保つ仕組みがあります。そのためにエネルギーが必要なので、エサが不足する時期にエネルギー需要を落とす戦略として冬眠に入るのだとか(なお地球上のほとんどの動物は変温動物(全動物種の8割以上)。
驚いたことに鳥類はほとんど冬眠しないそうです。プアウィールヨタカという鳥だけが冬眠するのだとか(ただし「休眠する」鳥は複数種いるようですが)。鳥類は「渡り鳥」として場所を移動できるので、冬眠しないのかもしれない……確かに、そうですね。
そしてコウモリには冬眠するものと、渡りを行うものがいるそうです(ただし渡りをするものの方が少数派)。
「3章 冬眠研究の最前線と未来」によると、最近の冬眠研究では、遺伝的スクリーニングや遺伝子ターゲッティング法なども利用されるようになって、その謎の解明が進むことが期待されているようでした。
冬眠動物は、冬眠という低代謝・低体温でも「止まらない心臓」や「傷まない臓器」を持っているだけでなく、エサを食べずに生きるための効率よく利用できる「燃やせる脂肪」、長く冬眠しても「衰えない筋肉」など不思議なシステムを持っているので、医療などへの活用も期待されているようでした。
「(前略)ヒトやマウスの細胞は低温にすると死んでしまうのに、冬眠動物の細胞は冷やしても死なないのです。だから冬眠動物は、低体温でも心臓が止まらなかったり、臓器が傷まなかったりするのでしょう。」
……移植の際の臓器の低温保存期間の延長や、その後のダメージの軽減、高齢者の低体温症などで、冬眠研究で分かってきたメカニズムが使えると良いですね☆
『冬眠の生命科学』……冬眠について分かってきたことを紹介してくれる本で、とても参考になりました。
最終章では、レゴ好きだった少年がいかにして冬眠の研究者へと成長していったのか、その経緯についても詳しく語ってくれています。科学者になりたい方に参考になるのはもちろん、今まさに、なかなか思ったようなデータを得られずに悩んでいる研究者の方にも、解決へのヒントがあるかもしれません。ぜひ読んでみてください☆
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『冬眠の生命科学』