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第1部 本

社会

サイバー覇権戦争(ヘルバーグ)

『サイバー覇権戦争: ソフトとハード、二つの戦線』2025/3/5
ジェイコブ・ヘルバーグ (著), 川村 幸城 (翻訳)


(感想)
 サイバーセキュリティの専門家として2020年までグーグル社で対偽情報・外国介入のポリシー策定を主導し、2025年発足のトランプ政権の国務次官に指名されたヘルバーグさんが呼びかける、新たな「テクノロジー冷戦」への警告。最新技術を用いて世界の勢力圏の再編成を試みるテクノロジー権威主義国の攻撃の実態を明らかにして、加熱するグレー戦争に、民主主義国はいかに対処するべきかについての処方箋を提示してくれる本で、主な内容は次の通りです。
プロローグ
序章 帝国の中心で――セーヌ川の小さな谷
第1章 グレー戦争の起源
第2章 ソフトウェア戦争 端末画面のフロントエンドをめぐる戦い
第3章 ハードウェア戦争 デバイスのバックエンドをめぐる戦い
第4章 国家主権の未来は技術に宿る、軍隊ではない
第5章 丘と谷
第6章 グレー戦争に勝利する
第7章 スプートニク・モメント
エピローグ/謝辞/原注/訳者あとがき
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「訳者あとがき」に本書の概要がまとめてありましたので、ちょっと長いですが、以下にその一部を紹介します。
・「著者は、民主主義と権威主義国家の間で繰り広げられているハイテク民主主義を駆使した、21世紀型のテクノロジー覇権をめぐる闘争を「グレー戦争」と呼んでいます。なかんずく中国は、従来の「熱い戦争」によって相手国の軍隊の破壊、体制の変更、領土の征服を目指すものではなく、サイバースペース(情報インフラからユーザー端末まで)を支配することによって地政学的な勢力圏を拡大しようとしていると著者は指摘しています。
 そこを飛び交うのか「弾丸」や「ミサイル」ではなく「データ」や「コード」であり、その効果は「破壊力」ではなく、「影響力」によって測られます。グレー戦争で用いられる兵器はICT分野の民生技術が中心を占めますが、そうした物理的破壊や人的殺傷を伴わない兵器は違法行為への関与を否定し、相手国から報復を受けるリスクを回避できる「きわめて使いやすい兵器」(17頁)なのです。
 この紛争をグレーにしている特徴は、デュアルユース技術、つまり軍事目的に転用可能な商用製品が利用されていることです(239頁)。このデュアルユースの特徴が、ワシントンとシリコンバレーの間にある亀裂を広げてきた要因になっていると著者は指摘しています。」
・「最も深刻なのはサプライチェーンの優位性に乗じ、バックドアを仕掛けてシステムや機器の完全性を損なわせようとする北京の「隠れた」努力であると著者は指摘しています(143頁)。たとえばバックエンド工作として、サーバーのマザーボードに「灰色で米粒ほどの極小マイクロチップ」が埋め込まれたスーパーマイクロ社の事例が取り上げられています。この一見無害に見えるインプラントを通じて、ハッカーは難なくシステムに侵入できます。この侵害されたサーバーは、その後の調査で、国防総省のデータセンター、CIAや海軍艦艇のネットワーク、そしてアップル社やアマゾン社のクラウドコンピュータをはじめ、30社近くの企業にまで拡散されていたといいます(144頁)このように、ある企業が突然バックエンドをめぐるグレー戦争の「最前線に立たされる」という実例は枚挙にいとまがないのです。」
   *
「第3章 ハードウェア戦争 デバイスのバックエンドをめぐる戦い」では、世界第二位の経済大国へと急速に台頭してきた中国への懸念が、具体的な多数の事例とともに示されていました(背筋が寒くなるような事例もあります)。
・「(前略)大まかに言えば、インターネットを支配するための中国のバックエンド戦略を「生産の支配」「パイプの支配」「プロトコルの支配」「4G以降の未来の支配」という4つの主要な要素に分けることができる。」
・「(前略)中国当局はバックドアからのアクセスや監視技術――スパイ、カメラ、DNA標本、スマートフォン・スキャナ、車両追跡装置、音声分析など――を駆使し、商用データや個人データを大量に蓄積している。」
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 中国はサイバースペースのルールの改正にも積極的で、なんと「インターネットのルールそのものを書き換えようとしている」のだとか。ここで問題なのは、アメリカや欧州のインターネット・ガバナンス・モデルが民主的なのに対して、中国のインターネットはきわめて権威主義的なこと。
「中国の新しい標準規格では、政府は誰がどのようにインターネットを利用するかをはるかにコントロールできるようになる。」
 ……うーん、それはちょっと怖いことですね。
 そして「第6章 グレー戦争に勝利する」では、グレー戦争に勝利するためのアメリカの戦略へのアドバイスが書いてありました。これらは日本にとっても参考になりそうです。
「実際、今日私たちが直面している選択肢は、開かれたインターネットか、閉じられたインターネットかということではない。民主的なインターネットか、権威主義的なインターネットかということである。(中略)欧米諸国の政府は、個人のプライバシー、知的財産、市民的自由を侵害する諜報活動に協力することを、すべての国民に義務付ける中国式の国家情報法のような規制を導入しないという原則を確約すべきである。」
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 また本書では偽情報への対処についても、「正確なより多くの情報をユーザーに提供する」、「真実ではないコンテンツを識別し、それを削除するツールを開発し続ける」などが必要だと指摘しています。ここでとても参考になったのが、次のフィンランドの事例。
「他の国も偽情報に対処するための教育を試みている。おそらく最も成功した例はフィンランドであろう。この国は長い間、隣国ロシアからのプロパガンダに悩まされてきた。2014年以来、フィンランドの学生たちは、偽情報を発見し、その虚偽を暴く方法について徹底した教育を受けている。数学の学生たちは、統計がどのように操作されるかを学ぶ。アートの授業では、画像が人を欺くためにどのように使われるかを学ぶ。歴史の授業では、過去のプロパガンダを学んでいる。」
 ……日本でも、このような教育を行うべきではないでしょうか。
『サイバー覇権戦争: ソフトとハード、二つの戦線』……自由と民主主義を防衛すべく、ソフトとハード両面で戦われるサイバー、経済安保の最前線を詳しく解説してくれる本で、とても勉強になりました。ここで紹介した以外にも、より良い情報の消費者・共有者になるために私たちができること(情報源を確認・比較する、権威ある情報源を読む)など、有益な情報が多数あります。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『サイバー覇権戦争』