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第1部 本
医学&薬学
事例で読み解く 環境汚染と健康リスク(東賢一)
『事例で読み解く 環境汚染と健康リスク: 大気汚染から気候変動,マイクロプラスチックまで』2025/9/8
東 賢一 (編集), 水越 厚史 (編集)

(感想)
環境による健康への影響について、基礎知識から歴史、実際の事例、リスク評価法、予防までを総合的に解説してくれる本で、主な内容は次の通りです。
第1章 環境汚染と健康影響の基礎
公衆衛生と環境保健/日本の環境汚染の歴史/世界における環境起因の疾病/環境保健の実践
第2章 日本の公害
産業公害と環境問題/公害と法規制/環境対策の現状
(取り上げている公害の例)足尾銅山鉱毒事件,別子銅山煙害事件,日立鉱山事件,荒田川廃水事件,四日市喘息,水俣病,第二水俣病,イタイイタイ病,慢性砒素中毒症,カネミ油症,内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン),シックハウス症候群,多種化学物質過敏症,石綿(アスベスト)事件,PM2.5 など
第3章 各種環境汚染による健康影響
微小粒子状物質等による大気汚染/放射線による環境汚染/アスベスト(石綿)による環境汚染/室内環境汚染/気候変動/食品と容器包装/新型コロナウイルス感染症/マイクロプラスチックによる環境汚染/工業ナノ材料による環境汚染/PFAS(有機フッ素化合物)
(各事例で「原因とその特徴」「健康影響」「施策」を共通見出しとし,必要なところだけ・調べたいところだけ拾い読みできる)
第4章 環境汚染の評価と対策
環境汚染物質の有害性/健康リスク評価/リスク管理と法規制/リスク認知とリスクコミュニケーション
第5章 科学的エビデンス
EBMとエビデンスの評価/EBMの実践法
第6章 予防原則
基本理念/対応の遅れで健康被害が拡大した事例/早期に対応ができた事例
索引,巻末資料
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「第1章 環境汚染と健康影響の基礎」によると、環境に起因する死亡率は意外に高いようです。
「WHOの報告では2016年の世界の全死亡の24.3%、疾病負荷の23.1%と、約4分の1が環境に起因すると算出されており、環境を改善することの重要性が明らかとなっている。環境要因が疾病負荷に占める割合が高い疾病は、心疾患、下痢症、下気道感染症であり(いずれも2012年のデータ)、室内空気汚染と環境大気汚染および水と衛生がこれらの主な環境要因と考えられている。」
……約4分の1も、環境に原因があるんですね。でもそのリスクへの対応は簡単ではありません。
「環境汚染は往々にしてリスクトレードオフの状態になっている。(中略)たとえば、水系感染症リスクを減らすための水道水の塩素消毒によって、消毒副生成物が生じて健康リスクが上昇することなどである。あるリスクの低減対策を考えるとき、別のリスクが生じないかを考慮することが重要となる。解決するためには、技術的に両リスクを減ずる方法を考え、難しい場合は相互のリスクを比較してリスクが最小化される最適点を探ることを考える。」
……環境を浄化するにはかなりの費用がかかるだけでなく、リスクトレードオフについても考えなければいけないようです。
「第2章 日本の公害」では、足尾銅山鉱毒事件や水俣病、イタイイタイ病、慢性砒素中毒症やシックハウス症候群、石綿(アスベスト)事件など、これまでの産業公害や環境問題についての概要を知ることが出来ました。
ちなみに「公害」とは、「事業活動その他の人の活動に伴って生ずる、相当範囲にわたる、大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下及び悪臭によって、人の健康又は生活環境に係る被害が生ずること」だそうです。
そして水俣病など、対応の遅れによって健康被害が拡大してしまったことに関して、次のように書いてありました。
「時代背景を考慮すると、水俣病の被害が拡大した理由の一つは、行政の「因果関係のはっきりしないものは規制できない」という食品衛生法の解釈にあった。原因物質がわからなくても、排出源はわかったはずであり、もしこのとき現在のような「予防原則」の考え方があれば、排出を規制できた可能性があった。(中略)我々には、歴史から学び、未来へつなぐ義務がある。」
……過去はもう変えられませんが、今後の問題に関しては、過去の被害や経緯を知ることで、より良い対処法をとれるようになるのではないでしょうか。
そして日本の環境基本法の基本政策は次の通りです。
1)環境基本計画
2)公害防止計画
3)環境基準(大気汚染、水質汚濁、騒音、土壌汚染)
4)環境影響評価
また、第6次環境基本計画の6つの重点戦略(2024年5月閣議決定)は、次の通りです。
1)「新たな成長」を導く持続可能な生産と消費を実現するグリーンな経済システムの構築
2)自然資本を基盤とした国土のストックとしての価値の向上
3)環境・経済・社会の統合的向上の実践・実装の場としての地域づくり
4)「ウェルビーイング/高い生活の質」を実感できる安全・安心、かつ、健康で心豊かな暮らしの実現
5)「新たな成長」を支える科学技術・イノベーションの開発・実証と社会実装
6)環境を軸とした戦略的な国際協調の推進による国益と人類の福祉への貢献)
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「第3章 各種環境汚染による健康影響」には、新しい環境リスクとして、マイクロプラスチックや工業ナノ材料による環境汚染についても紹介されていました。
マイクロプラスチックは、水中・大気中・生体中とも繊維状のものが多く……
「マイクロプラスチックによる生物への有害影響のメカニズムとしては、食物の摂取阻害・栄養価の低下、体内の物理的損傷、生物表面の物理的損傷の3つが挙げられる。」
……なのだとか。
また「ナノ材料」は……
「空気中の粒子は、鼻や口から吸入されて気管を通り肺胞に達するまでの過程で、鼻腔・口腔・気管・気管支・肺胞のそれぞれの部位に一定の割合ずつ沈着する。」
……ようですが、現在のところ、深刻な環境被害は出ていないようでした。
「製品からの曝露における影響の有無に関しては、EUナノ材料観測所(EUON)が、ナノ材料を含む消費者製品や成形品からのナノ粒子の放出を分析し、消費者および環境への潜在的な曝露に焦点を当てたレビューを2024年に発表した。これによると、ナノ材料の含まれた繊維をヒトが着衣しても明らかな経皮曝露はみられず、繊維から放出された金属酸化物ナノ粒子の有害性も低いとされている。」
……このような新しい環境リスクについても、今後も調査・研究を続けて欲しいと思います。
『事例で読み解く 環境汚染と健康リスク』……環境汚染と健康リスクに関して、事例も含めて総合的に解説してくれる本で、とても参考になりました。特定のトピックが読み切り形式で紹介されているし、索引も充実しているので、参考書としても利用できると思います。環境汚染や健康に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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『事例で読み解く 環境汚染と健康リスク』