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第1部 本
歴史
MORAL 善悪と道徳の人類史(ザウアー)
『MORAL 善悪と道徳の人類史』2024/11/22
ハンノ・ザウアー (著), 長谷川 圭 (翻訳)

(感想)
500万年前、ひ弱な人類が協力して生き延びるために「集団の知恵」として生まれたモラルは、時を経てどのように進化し、変化し、「行き過ぎた正義」として暴走を始めたのか? 「人類の善と悪の変遷」を追う壮大なモラルの歴史書です。
「はじめに」に「本書の構成」として要約が書いてありました。その冒頭は……
「モラルの発展で人類は協調できるようになったが、道徳心を向ける相手は「自分たち」の集団に属する者のみだった(第1章 「五〇〇万年」。)
環境の極端な変化をきっかけに協調する理由が増え、それを満たすためにグループを拡大させなければならなくなった。拡大のために必要な自己統率と社会融和を実現する手段として、懲罰の仕組みが導入される。」
……この懲罰の仕組みは、フリーライダーを防ぐために必要不可欠なものだそうです。
太古の時代の人間社会は「平等」でしたが、最初の文明や都市が出現したころから階層社会が始まります。そして……
「協調的で、懲罰的で、学習能力を身に付けた存在として、人類はますます大きな社会を形成していったが、次第にその構成員の数の圧力によって崩壊の危機にさらされはじめた。」
……それまで支配的だった平等主義が、社会経済的なエリートと物質的にも恵まれない大衆に二分する階層構造(支配層は軍事力で支配するように)へと変わっていき、社会的不平等が大きくなっていきますが、社会が複雑になると必要になるリソースが増えるので、次第に停滞が始まってフラストレーションがたまるようになり、帝国の衰退へとつながっていくのです。そして……
「社会の構造基盤が、それまでの親族関係や階層関係から、個人の自律的な協調関係へと変化した。この社会変化により、かつてない規模での経済成長、科学的進歩、そして政治的解放が可能となり、今の私たちが生きる社会へとつながった(第5章 「五〇〇年」)。
同時に、社会的不平等に対する心理的な反感と、個人の自由にもとづく社会が実現する経済的利点とのあいだの緊張も強まった。物質的な豊かさが高まるにつれて、人間の平等という約束を果たせという要求も強くなった。つまり、恵まれない少数派の社会的・政治的状況が、道徳的に最優先とみなされるようになった(第6章 「五〇年」)。
しかし、この問題が期待どおりの迅速さで解決されなかったという事実が、今の社会ではモラルの歴史の主要素が混ざりあって、有害物質を形成していることを証明している。モラルではち切れんばかりの集団心理により、人間社会は分断しやすくなった。」
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それでも私たちの社会は、モラルの面では、次第に良くなってきたとも言えるようです。第6章には次のように書いてありました。
・「過去数十年をひとことで言い表すと、「二〇世紀はモラルが進歩した時代だった」と言えるかもしれない。この時代から私たちは、弱者に責任を感じ、支配的な多数派による介入から彼らを保護することを、道徳的基本方針とみなすようになった。」
・「戦争は国際紛争を解決するための「第一手段」から「最終手段」へとランクを落とした。(中略)現代社会は、身体的暴力に対する不寛容な態度が広がり、(中略)あらゆる暴力を拒絶するようになった。もちろん、そうした行為自体は今も存在する。だが、ここでもまた現代的な協調関係が家畜化効果を発揮し、暴力行為も、名誉や復讐といった武力的な倫理観も、次第に荒々しさの少ない行動パターンで置き換えられつつある。」
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そして「現代のモラルが抱える危機は分裂の危機」で、集団の内側には友好的・協調的で、外側には懐疑的・敵対的になる二つのグループが対立しています。
差別や憎しみや混沌は私たちの社会に依然としてありますが、それでも明るい未来を信じることも出来そうな気がします。本書の中で、ザウアーさんも次のように言っています。
(私たちには、)「全人類が共有する普遍的な道徳的価値観が潜んでいて、それをもとに新たな相互理解が可能なはずだからだ。」
「(前略)私たちの道徳的価値観は、私たちが想像するほど表面的でも流動的でもない。実際には極めて安定していて、万人に共通している。」
……人間は他の動物に比べて非常に協調的で、もしかしたら生まれながらに「道徳的」なのかもしれないのです。
「(前略)人間の早い段階で道徳心の萌芽が見られることは、すでに確かに証明されている。「見つめる時間の研究」を通じて、生後一二カ月未満の乳児が協力的な態度を示す人物像や形を眺める時間は、他人をじゃましたり害したりする人物像を見つめる時間よりも長いことがわかった。不公正な行いにも、小児は拒絶的な反応を見せる。悪者を罰することは自発的な反応であって、学習の必要はない。」
……ただしこれは、太古の「平等社会」で、集団を支配しようとする暴君が現れると、平等のバランスを回復するために暴君は殺害されたので、そのような極端に攻撃的・暴力的なメンバーの殺害を通して、私たち人類が自らを家畜化してきた結果なのかもしれませんが……。
『MORAL 善悪と道徳の人類史』……500万年前から50万年、5万年、5000年、500年、50年、5年と「時代ごとの正しさの歴史」を、哲学、進化生物学、統計学などのエビデンスを交えて深く考察している本で、とても参考になりました。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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『MORAL 善悪と道徳の人類史』