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第1部 本

歴史

NEXUS 情報の人類史(ハラリ)

『NEXUS 情報の人類史 上: 人間のネットワーク』2025/3/5
ユヴァル・ノア・ハラリ (著), 柴田 裕之 (翻訳)
『NEXUS 情報の人類史 下: AI革命』
ユヴァル・ノア・ハラリ (著), 柴田 裕之 (翻訳)


(感想)
 私たち「賢いヒト」(ホモ・サピエンス)は、10万年に及ぶ発明や発見、偉業を経て、途方もない力を身につけました。それにもかかわらず、生態系の崩壊や世界戦争など、存亡にかかわる数々の危機に直面しています。サピエンスが真に賢いのなら、なぜこれほど自滅的なことをするのか? その答えは、制御しきれないほどの力を生み出す大規模な協力のネットワーク「情報ネットワーク」の歴史にあることを示してくれる本で、主な内容は次の通りです(上下巻です。)
 なおタイトルの「ネクサス」(NEXUS)とは、「つながり」「結びつき」「絆」「中心」「中枢」などの意です。
(上巻)
プロローグ
第I部 人間のネットワーク
第1章 情報とは何か?
第2章 物語――無限のつながり
第3章 文書――紙というトラの一?み
第4章 誤り――不可謬という幻想
第5章 決定――民主主義と全体主義の概史
原註
索引
(下巻)
第II部 非有機的ネットワーク
第6章 新しいメンバー――コンピューターは印刷機とどう違うのか
第7章 執拗さ――常時オンのネットワーク
第8章 可謬――コンピューターネットワークは間違うことが多い
第III部 コンピューター政治
第9章 民主社会――私たちは依然として話し合いを行なえるのか?
第10章 全体主義――あらゆる権力はアルゴリズムへ?
第11章 シリコンのカーテン――グローバルな帝国か、それともグローバルな分断か?
エピローグ
謝辞
訳者解説
原註
索引
   *
「プロローグ」には次のように書いてありました。
「自分の手に余る力を呼び出す傾向は、個人の心理ではなく、私たちの種に特有の、大勢で協力する方法に由来する。人類は大規模な協力のネットワークを構築することで途方もない力を獲得するものの、そうしたネットワークは、その構築の仕方のせいで力を無分別に使いやすくなってしまっているというのが、本書の核心を成す主張だ。というわけで、私たちの問題はネットワークの問題なのだ。」
 またAIについても……
・「(前略)AIは自ら情報を分析するのに求められる知恵を持っており、したがって意思決定で人間に取って代わることができる。AIはツールではない――行動主体なのだ。」
・「(前略)私たちが賭けているのは人間の命だけではない。AIは、サピエンスの道筋ばかりか、あらゆる生命体の進化の道筋さえも変えかねないのだから。」
   *
「第1章 情報とは何か?」では、情報について……
・「(前略)人々が真実を発見しようとして何かを使えば、それは情報なのだ。」
・「(前略)情報とは、さまざまな点をつなげてネットワークにして、新しい現実を創り出すものだ。」
・「(前略)情報は現実を表示しているときもあれば、そうでないときもある。だが、情報はつねに人や物事を結びつける。これが情報の基本的な特徴だ。」
   *
 また「第2章 物語――無限のつながり」では、虚構の力について……
・「(前略)異なる生活集団が協力できるようになったのは、どうやら進化による脳構造の変化と言語能力のおかげで、サピエンスが虚構の物語を語ったり信じたりし、そうした物語に深く心を動かされる能力を獲得したからのようだ。」
・「(前略)人々を団結させることに関しては、もともと虚構には真実よりも有利な点が二つある。第一に、虚構は好きなだけ単純にできるのに対して、真実はもっと複雑になりがちだ。なぜなら、真実が表しているはずの現実が複雑だからだ。(中略)第二に、真実はしばしば不快で不穏であり、それをもっと快く気分の良いものにしようとしたら、もう真実ではなくなってしまう。それに対して、虚構はいくらでも融通が利く。」
   *
 うーん……虚構の方が真実よりも、人間の心を動かしやすいんですね……。
 しかも「人間の情報ネットワークはどれも、生き延びて栄えるには、真実を発見し、しかも秩序を生み出すという、二つのことを同時にする必要がある」のに、真実と秩序はしばしば矛盾するのです。
・「人間の情報ネットワークの歴史は、進歩の大行進ではなく、真実と秩序のバランスを取ろうとする綱渡りだ。」
・「(前略)情報ネットワークは真実を最大化するわけではなく、むしろ真実と秩序のバランスを見つけようとすることは、すでに見たとおりだ。官僚制と神話はともに、秩序を維持するのに不可欠であり、どちらも秩序のためなら喜んで真実を犠牲にする。」
   *
 そしてとても考えさせられたのが「第4章 誤り――不可謬という幻想」。ここでは魔女狩りのような惨劇は、情報が不足していたから起こったのではなく、私たちは「情報が多いほど正しい判断ができるようになる」わけではないことが示されます。
・「魔女をめぐる近世ヨーロッパの狂乱の歴史は、情報の流れの障害物を取り除いても、真実の発見と普及につながるとはかぎらないことを証明している。」
・「印刷と魔女狩りの歴史が示しているように、規制されていない情報市場のおかげで、人々は自らの誤りに気づき、それを正すようになるとは限らない。なぜなら、そのような市場は、おそらく真実よりも、憤慨や憎悪を煽って攻撃的な言動に走らせるようなコンテンツを優先させるからだ。」
  *
 これに対して「科学」には、「不可謬」を前提とした「自己修正メカニズム」があります。
・「(前略)科学の機関は、信頼に値するだけのじつに独創的な資格を持っていたおかげで、影響力を獲得することができた。教会はたいてい、不可謬の聖典という形で絶対的な真実を手にしているから教会を信頼するようにと人々に言った。科学の機関はそれとは対照的に、機関自体の誤りを暴いて正す強力な自己修正メカニズムを持っていたから権威が得られた。」
・「科学の自己修正メカニズムがとりわけ強力なのは、科学の諸機関が組織的な誤りと無知を進んで認めるからだけではなく、それらを積極的に暴こうとするからでもある。科学の機関の奨励構造を見ると、それがよくわかる。」
   *
 そしてこの後は、民主主義と全体主義についての歴史的な経緯解説があります。
・「(前略)独裁社会は強力な自己修正メカニズムを欠いた中央集中型の情報ネットワークだ。それとは対照的に、民主社会は強力な自己修正メカニズムを持つ分散型の情報ネットワークだ。」
・「民主的な政府は、たとえ人々の生活を細かく管理するのに必要なテクノロジーを持っていたとしても、人々が自ら選択する余地をできるかぎり残す。」
・「全体主義政権は秩序を維持するために、現代の情報テクノロジーを使って情報の流れを中央集権化したり、真実を抑え込んだりする。その結果、硬直化の危険と闘う羽目になる。(中略)民主主義政権は現代のテクノロジーを使って情報の流れをより多くの機関や個人の間で分散化し、真実の自由な追求を奨励する。その結果、砕け散る危険と闘う羽目になる。」
・「(前略)スターリン主義は思いやりを完全に欠き、真実に対して冷淡であるのにもかかわらず、あるいはそうであるがゆえに、ずばぬけて効率的に巨大な規模で秩序を維持できた。」
   *
 そして下巻には、コンピューターやAIが登場してきます。
「第6章 新しいメンバー――コンピューターは印刷機とどう違うのか」では、ソーシャルメディアアルゴリズムが、多くの国で憎しみを拡散させ社会の結束を損なうのに強い影響を与えてきた事例の一つとして、ミャンマーでの事例(フェイスブックで拡散する反ロヒンギャのプロパガンダで焚きつけられた人々によって、ロヒンギャの村で暴行や虐待が行われた)が紹介されていました。
 でも、もちろんフェイスブックの経営者は、暴動を誘導しようと考えてはいなかったようです。彼らはただ、自社のアルゴリズムの最優先目標を「ユーザーエンゲージメントを増やす」ことにしただけだったのですが、フェイスブックのアルゴリズムは試行錯誤を繰り返しながら、憤怒や憎悪を煽って攻撃的な言動に走らせるようなコンテンツがユーザーエンゲージメントを生み出すことを学習し、上からの明確な命令なしに、その種のコンテンツを推奨することに決めたようです……。
「(前略)AIアルゴリズムは、人間のエンジニアが誰もプログラムしなかったことを、自力で学習でき、人間の重役が誰も予見しなかった事柄を決定することができる。これがAI革命の真髄だ。」
 ……AIには潜在的な危険性があることを痛感させられますが、怖いことに、「コンピューターとコンピューターの連鎖は、人間の介在がなくても、今では機能することができる」のです……。
 そして「情報は真実ではなく、情報革命は真実を明らかにしない」けれど、「情報革命は新しい政治構造と経済モデルと文化規範を創出」します。
「第7章 執拗さ――常時オンのネットワーク」では……
・「情報の収集・分析が難しかったため、二〇世紀にはどれほど極端な全体主義国家でさえ、全国民を効果的に監視することはできなかった。」
・「(前略)データの大海でパターンを見つけ出す能力では、アルゴリズムは人間をはるかに凌いでいる。」
・未来の独裁者たちは、たんに人々の目を監視させるだけでなく、心臓や脳の内部プロセスを監視できる。
・ネットワークは執拗で、あらゆる場所に進出している一方で、可謬でもある
   *
 そして「第III部 コンピューター政治」では……
「二〇世紀末までには、帝国主義と全体主義と軍国主義は工業社会を建設する手段としては理想的でないことが明らかになっていた。自由民主主義は多くの欠陥を抱えているものの、もっと優れた手段を提供した。自由民主主義の大きな強みは、強力な自己修正メカニズムを備えていることだ。このメカニズムのおかげで、極端な行動に走ることが抑えられ、自らの誤りに気づいて他のさまざまな方法を試す能力が維持される。新しいコンピューターネットワークがどう発展するかを予測する私たちの能力の欠如を踏まえると、今世紀中に大惨事に見舞われるのを避けるためには、これから歩んでいく道々、間違いを突き止めて正すことのできる民主的な自己修正メカニズムを維持するにかぎる。」
 ……私たちにとっては、自己修正メカニズムがある自由民主主義が望ましいようですが、情報技術の進展によって、むしろ全体主義が復活する可能性もあるようです。
「あらゆる情報と権力を一カ所に集中させる試みは、二〇世紀の全体主義政権の泣き所だったが、AI時代には決定的な強みになるかもしれない。同時に、以前の章で指摘したように、AIのおかげで全体主義政権は完全な監視システムを打ち立て、抵抗をほぼ不可能にできるかもしれない。」
 ……AIの監視システムが、全体主義に貢献するかもしれないのです。
 さらに「第11章 シリコンのカーテン――グローバルな帝国か、それともグローバルな分断か?」では、コンピューターのおかげで情報と権力を中央の拠点に集中しやすくなるので、人類は新しい帝国主義の時代に入る可能性があることも指摘されていました。またライバルのデジタル帝国同士が対立する可能性もあり、さらに……
「(前略)AIと自動化は貧しい開発途上国にとりわけ大きな難題を突きつける。AI主導の経済では、デジタル分野のリーダーたちが利益の大半を懐にし、自分の富を使って労働力を維持し、さらに利益をあげることができるだろう。一方、取り残された国々の単純労働者は価値が下がり、それらの国々は彼らを再訓練するだけの資源がないだろうから、いっそう後れを取る。」
   *
 そして「エピローグ」には……
「(前略)より賢いネットワークを創り出すには、むしろ、情報についての素朴な見方とポピュリズムの見方の両方を捨て、不可謬という幻想を脇に押しやり、強力な自己修正メカニズムを持つ制度や機関を構築するという、困難でかなり平凡な仕事に熱心に取り組まなければならない。それがおそらく、本書が提供できる最も重要な教訓だろう。」
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 私たちは今、激動する時代に生きていますが、より良い社会へ進めていくためには、常に「自己修正」を働かせていくべきなのでしょう。本書でも、次のように言っています。
「(前略)予見できない大量の問題に備えるには、脅威が生じるたびにそれを見つけて対応できる、活発な制度や機関を創設するのが最善策だ。」
   *
『NEXUS 情報の人類史』……私たちの社会と情報ネットワークやAIについて歴史的経緯も含めて深く考察している本で、とても勉強になり、また考えさせられました。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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『NEXUS 情報の人類史 上』

『NEXUS 情報の人類史 下』