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第1部 本
音楽
はじめてのオーケストラ・スコア(野本由紀夫)
『はじめてのオーケストラ・スコア―スコアの読み方ハンドブック』2003/4/1
野本 由紀夫 (著)
(感想)
スコアを読む上でミニマムかつ最重要の知識を、ビジュアルに分かりやすくまとめて教えてくれるハンドブックで、主な内容は次の通りです。
はじめに
第1章 オーケストラ・スコアのしくみ
第2章 楽譜と音が違う?
第3章 オーケストラの楽器を知ろう
第4章 オーケストラの舞台配置とスコアの関係は?
第5章 実際のスコアを読もう
結び 指揮者の役割について
付録1~3
*
「はじめに」によると、この本は……
「(前略)この本は、筆者の桐朋女子高等学校音楽科における「音楽理論X」、「ベートーヴェンの交響曲」、桐朋学園大学における「音楽史各論」の授業内容を中心に、1999年にいったんまとめました。しかし、その後のオーケストラ演奏事情の変化や、国内版楽譜の出版数の増加もあり、あらたに在京オーケストラにも取材するなどして、手直ししました。」
……ということで、オーケストラ・スコアについてだけでなく、オーケストラに使われる楽器や舞台配置など、オーケストラに関する基礎知識を、総合的に学ぶことができる入門書です。
「第1章 オーケストラ・スコアのしくみ」によると「オーケストラ・スコアの大原則」は……
大原則1:スコア上、同属楽器はまとめる
大原則2:スコアでは、楽器の音域の高い順にならべる(例外がホルン)
……そしてスコア上の楽器配列の大原則としては、上から……
木管楽器(フルート、ピッコロ、オーボエ、イングリッシュホルン、クラリネット、バス・クラリネット、ファゴット、コントラファゴット)
金管楽器(ホルン、トランペット、トロンボーン、チューバ)
打楽器群(ティンパニ、小太鼓、シンバル、大太鼓)
特殊楽器など(ハープ)
弦楽器群(第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)
……の順に並んでいます。
「第2章 楽譜と音が違う?」では、オーケストラ・スコアでは、一般の楽譜のテノール記号だけでなくアルト記号が使われていることや、移調楽器についても解説がありました。ちなみに移調楽器とは……
「(前略)移調楽器とは、楽譜に「書かれた音符」(「記譜音」といいます)と、楽器から実際に出る音(「実音」といいます)の高さが異なる楽器のことをいいます。そのため、あらかじめ「移調」された楽譜を用いて演奏します。」
……移調楽器は、楽譜上「ド」と書かれている音が、B管なら「変ロ音(長2度下)」で鳴るというもので、なぜこんな方法をとらなければならないのかがずっと疑問でしたが、その理由は、「長い音楽歴史において、管楽器奏者が一人で何種類も同属楽器を演奏できなければならなかったから」だそうです。大きさが相似形の楽器は、同じ指使いで違う音が鳴るので、「同じ指使い」の音を、楽譜の上でも「同じ音」で書いておけば、操作が楽だったから……なるほど、そうだったんですか……。
そして続く「第3章 オーケストラの楽器を知ろう」は、オーケストラに使われる楽器ごとに、かなり詳しい解説があって、とても参考になりました。
例えば、オーケストラ・スコアのハープの譜面には、やたら沢山の「フラット」がついていて、げんなりしてしまいましたが(笑)、実は「ハープは基本的にすべての音にフラットをつけた状態に調律されている」そうで、この方が読みやすいようです。そして……
「なお、ハープがオーケストラで使われるときには、舞台の左側に置かれます。これは、奏者が楽器の左側に頭を出して弾くため、奏者の右側の耳で自分のハープの音を聴き、左耳でオーケストラ全体を聴けるようにするためです。ハープが2台以上使われるときには、同じ理由から、2番奏者のほうが1番奏者の右隣に座ります。」
……こんな感じに、各楽器について、かなり詳しい解説がありました。
「第4章 オーケストラの舞台配置とスコアの関係は?」では、舞台配置の原理などが、次のように書いてありました。
大原則A:大きい音のする楽器ほど舞台の「奥」へ、小さい音の楽器ほど「手前」へ
大原則B:舞台の向かって左側(下手)が「高音」、右側(上手)が「低音」
大原則C:管楽器の首席は、中央寄りに集める
大原則D:弦楽器の首席は、中央の客席側に座らせる
大原則E:管・打楽器のリーダーは、オーボエの首席
大原則F:弦楽器のリーダーかつ、オーケストラ全体の演奏責任者はコンサートマスター
*
ところがホルンだけは例外で……
スコア上の大原則3:ホルンの楽器は、金管楽器のいちばん上(もっとも木管楽器に近い位置)に置かれる
・舞台上の大原則G:ホルン奏者は、金管楽器群のなかにではなく、木管楽器の隣に配置される
……ホルンは金管楽器でありながら、木管楽器として使用されるので、このような扱いになっているようです。
そして、とても面白かったのが、「第5章 実際のスコアを読もう」。
モーツアルトの交響曲第40番やベートーヴェンの交響曲第3、5、9番などの実際のスコアの1ページ分が左側に表示され、右側にその解説が書いてあります。
例えば、ベートーヴェンの交響曲第3番のトランペット部分は、当時は長管トランペットを使っていたので今とは音色が違っているとか、当時のトランペットは旋律音が出せなかったので旋律が中断されてしまっているが、現在は楽器の改善で自由に旋律を吹けるようになったので、旋律部分を吹くように変えることもある、などの興味深い解説を読むことができました(ただしその後は、再び楽譜通りに吹く方が主流となっているようですが……)
またオーケストラ・スコアと楽器の配置は大いに関係しているようで、例えば、「マーラー:交響曲5番(改訂版)第3部第4楽章(アダージェット)冒頭」では……
「(前略)主旋律は、この冒頭部では第1ヴァイオリンから始まりますが、あとで再現されたときには第2ヴァイオリンで奏されます。両翼配置だったら、最初は舞台の「左」から旋律、再現部では「右」から旋律が聞こえるように考えてあるのです。最近は、このようなマーラーの意図を生かして、当時と同じ両翼配置で演奏する機会が増え、このような「空間芸術」としての交響曲を実体験できるようになってきたのは、喜ばしいかぎりです。」
……またベートーヴェンの交響曲第9番も、当時の弦楽器配置を前提とした「空間的作曲」になっているそうです。こんな感じで、オーケストラ・スコアから、こんなことまで理解できるんだ……と驚かされる解説をたくさん読むことができました。
そして最後の「結び 指揮者の役割について」によると、演奏会で棒を振るのは、指揮者の仕事のほんの数パーセントだそうです。残りの90パーセントは……
「(前略)オーケストラ・リハーサル(練習)に至るまでに、スコアの書かれ方、舞台上の楽器の配置、楽器の特徴、弦楽器のボウイング(弓づかい)や管楽器の息つぎ、作曲家ごとの実際の鳴り響きの違い(様式)など、ありとあらゆることを勉強して準備しておかなければならないのです。
もっとも重要なのは「音楽性」です。(中略)
指揮者のほとんどのエネルギーは、リハーサルに注がれます。演奏現場では、音楽の基礎能力が要求されます。すなわち、「ソルフェージュ能力」です。リハーサルで音の聴き分けができなければお話になりません。それ以前に、スコアを読みながら頭のなかに「音」がなるようでなければ、指揮者にはなれないのです。頭のなかの音と、演奏現場の音のズレを修正していくことが、リハーサルの第一歩なのですから。そのイメージに近づけるために演奏のしかたを変更することは、演奏現場では日常茶飯事です(さらには、演奏会場の音響特性や、当日の湿度などにもかなり左右されます)。音符そのものを変更することさえありますが、そうしないまでも、各楽器の音の強さ、長さ、音量バランスを手に入れなければ、理想の響きは得られないのです。」
*
『はじめてのオーケストラ・スコア―スコアの読み方ハンドブック』……オーケストラ・スコアの読み方だけでなく、楽器紹介も含めた総合的な「オーケストラ入門」でした。とても分かりやすくて勉強になる本なので、クラシック音楽が好きな方は、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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『はじめてのオーケストラ・スコア』