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第1部 本

科学

宇宙は「もつれ」でできている〈新装改訂版〉(ギルダー)

『宇宙は「もつれ」でできている〈新装改訂版〉 「量子論最大の難問」はどう解き明かされたか (ブルーバックス B 2308) 』2025/12/25
ルイーザ・ギルダー (著), 山田 克哉 (翻訳, 監修), 窪田 恭子 (翻訳)


(感想)
 1925年、ハイゼンベルクさんの行列力学によって誕生した量子力学。
 この新しい物理学を疑うアインシュタインさんたちが、1935年のEPR論文で打ち出したのが「量子もつれ」でした。たとえ100兆km離れていても瞬時に情報が伝わる「不気味な遠隔作用」が、他の多くの物理学者たちも巻き込んで、長く、激しい論争を巻き起こしていきます。隠れた変数、局所性と非局所性、量子の実在をめぐる議論……物理学の常識を書き換えた量子力学100年の発展史を克明に描いている本で、「量子論の名著歴代ベスト10」(英紙ガーディアン)選出の傑作ロングセラーです。
 なお2016年の旧版に改めて文章がチェック修正され、注記の補足や固有名詞の修正も行って新装改訂版として発刊されていて、主な内容は、次の通りです。
第1部(~1935年) 生涯の友人だったアインシュタインとボーアは、長い論争へと突き進んでいく。その原因は──、「量子もつれ」であった。
第2部(1940年~) 「決定論」を信奉する物理学者たちは、“不完全”な量子論に納得できず、「隠れた変数」理論に救いを求める。
第3部(1952年~) 「隠れた変数」を否定するフォン・ノイマンに反発したジョン・ベルは、自らの理論を追究する。量子論の運命を転換させる1964年が、目前に迫っていた──。
第4部(1981年~) ベルを追う世代の科学者たちによって操作が可能となり、実用の場へと躍り出た「量子もつれ」は、世界をどう変えていくのか──。
   *
『宇宙は「もつれ」でできている〈新装改訂版〉 「量子論最大の難問」はどう解き明かされたか』というタイトルだったので、量子力学に関する科学的解説がみっちり詰まっている本かと思ったのですが、本文中には科学的解説はあまりなく、量子論に関わった著名な物理学者たちは、量子やもつれをどう考え、量子力学はどう発展してきたかの経緯を克明に描いた「科学歴史」の本でした。
 とは言っても、冒頭に「「新装改訂版」のための特別解説」が加えられていて、そこに量子論の科学的概説があるので、量子論について学びたい方にも、それなりに参考になると思います。
 さて「第一部」では、1926年に「非相対論的波動方程式(シュレーディンガー方程式)」が発表され、電子のように質量をもつ「物質粒子」をこの方程式にあてはめると、その物質粒子の「波動性」が現れ、「波」としてふるまうことが明らかとなったことなど、量子力学が始まったころの理論が紹介されていきます。
 アインシュタインさんたちは、この量子力学に、次のようにEPR論文で疑問を提示します。
「アインシュタイン、ポドルスキ―、ローゼンの議論は「物理的実在の量子力学的記述は完全とみなすことができるか?」というタイトルの論文(通称「EPR論文」)として発表された。(中略)
 いずれにしてもEPR論文は、アインシュタインの光子箱の思考実験同じように世に広く知られることになった。ただしERP論文のほうがさらに徹底的に、複雑な論理と量子力学的分析を用いて論じていた。
 二つの「系」(粒子であれ箱であれ)が互いに作用した後に分離する。一つの系で運動量を測定すると、実験者は遠く離れた手つかずのもう一つの系の運動量を知ることができる。逆に位置を測定すれば、遠く離れた系の位置は、近くの系の量子力学の波動関数から計算できる。
 この段階で、二つの選択肢があることになる。あちらの運動量を知るためにこちらの運動量を測定するか、あるいはあちらの位置を知るためにこちらの位置を測定するかということだ。
 だが、EPR論文がその名をとどろかせたのは、「実在の要素」を定義した点である(そしてそこに意義がある)。「系にいっさい影響を与えることなく確実に物理量の値を予測できるならば、この物理量に対応する物理的実在の要素が存在する」。その場合、遠くの「系」の二つの特徴――位置と運動量――は実在の要素と考えるべきではないだろうか? だとすれば、そうではないと言う量子力学は不完全ではないだろうか?
 論文の最後の2段落も、同様に大きな意味をもっていた。「同時の測定あるいは予測が可能な場合に限り、二つ以上の物理量を実在の同時的な要素としてみなすことができると主張するならば、我々の結論にはいたらない」とEPR論文は認めている。「この考え方に立ては、遠く離れた系のP[運動量]とQ[位置]の量は片方あるいはもう片方――ただし、両方同時にではない――のみが予測できるため、両者は同時には実在しないことになる。」
 ……ちょっと私には理解不能な文章だったのですが……著名な物理学者にとっても簡単な問題ではなかったようで、次のようなことが起こったようです。
「EPR問題をめぐって大量の手紙が行き交った。アインシュタインからシュレーディンガー、シュレーディンガーからパウリ、パウリからハイゼンベルク、ハイゼンベルクからボーアといった具合である。夏の間じゅう次から次へと手紙が書かれ、同じ日に三人が手紙を書いたこともあった。」
 ……それでも、この本を読むと、量子力学に関係していた物理学者たちは、互いに論文を送り合ったり、意見を手紙で送り合ったりという活動をたくさん行っていたんだなーということが良く分かりました。
 量子論というのは、「目で見て確かめることはできない」世界に関する話なので、数式やモデルが「本当にこれで正しいのか?」を、その数式やモデルを提唱した本人自身も確信をもてないまま発表しているようでもありましたが……。
 この量子論の発展の途中経過を、簡単にまとめると……
「もつれはまず、シュレーディンガーの波動方程式に抽象的な形で含まれていた。次に、アインシュタインがもつれの意味するところを想像してEPRパラドックスを提起した。それをベルが入念に吟味し、実証可能な矛盾を見出した。そしてホーン、シモニー、クラウザー、ホルトが思い描いた計画によって、その矛盾がいよいよ実験室へと持ち込まれることになった。
 このように、もつれは具体化に向けて一歩前進するたびにその形を大きく変えたが、これまではもっぱら理論物理学者の手に委ねられていた。1969年になって、実験物理学者が「もつれの時代」の陣頭指揮を執ることになったのである。」
   *
 そしてこの後、「量子もつれ」などが、次のように実験で確かめられるようになっていきます。
「1990年代後半、アントン・ツァイリンガーはもつれの理論を実験の世界に持ち込み、世界的なリーダーとして頭角を現していた。下方変換とよばれる手法によって、高エネルギーのレーザー光子を結晶に当てることで、低エネルギーのもつれた光子に分けられるようになったためである。」
 ……さらにツァイリンガーさんと彼の研究チームは、「量子もつれ交換(もつれのテレポーテーション)」などを具体化していきました。そして……
「ツァイリンガーは2000年に、こんどは建物内にあるコンピュータ「アリス」から、数棟離れた建物内のコンピュータ「ボブ」にヴィレンドルフのヴィーナスの写真を暗号化して光ファイバーで送った。暗号化された写真は、派手な色合いの斑点がランダムに並んでいるだけだったが、ボブが複号するとふくよかな女神のほぼ完璧な像が、黒字に茶褐色の色合いで浮かび上がった。」
 ……など、「量子もつれ」が存在することが明らかになっていったようです。
『宇宙は「もつれ」でできている〈新装改訂版〉 「量子論最大の難問」はどう解き明かされたか』……「量子論」が、どのように発展してきたかについて、膨大な資料をもとに紹介してくれる科学歴史の本でした。量子論に関わった物理学者たちは、ただでさえ難解な問題に取り組んでいたのに、世界大戦で世界各地に亡命を余儀なくされたり、家庭的な問題を抱えていたり、原子爆弾などの設計に関わったり……さまざまな困難な状況に遭遇しながら、量子論を発展させてきたんだなーということも知りました。興味がある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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