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第1部 本

脳&心理&人工知能

脳は世界をどう見ているのか(ホーキンス)

『脳は世界をどう見ているのか (ハヤカワ文庫NF)』2025/7/3
ジェフ・ホーキンス (著)


(感想)
 私たちの脳は「座標系」を用いて世界をモデル化する。その担い手は、新皮質を構成する「皮質コラム」。物体1つに対して数千のコラム、その1つひとつが次の入力を予測し、外界を知覚している。これは政治や数学といった抽象的な知識でも同様で、思考とは座標系内の概念から概念へと動きまわることに他ならない……「1000の脳」理論が示す知性の本質と人類の未来とは? 神経科学者のホーキンスさんが、脳やAIについて解説してくれる本です。
「第1部 脳についての新しい理解」によると、脳には古い部位と新しい部位があるそうです。
・「(前略)脳は時間をかけて、古い部位に加えて新しい部位を進化させることによって、だんだんに複雑なふるまいができるようになっていった。」
・「脳の新皮質と古い部位は神経繊維によってつながっているので、まったく別々の器官だとは考えられない。どちらかと言うとルームメイトに似ていて、行動予定も正確もばらばらだが、何かをやるのに協力する必要がある。新皮質は行動を直接制御するわけではないので、いかにも不当な立場にある。脳のほかの部位とちがって、新皮質の細胞はどれも筋肉に直接つながっていないので、新皮質だけでは筋肉を動かすことができない。新皮質が何かをしたいときは、古い脳に信号を送る。指示通りにするように古い脳に依頼するのだ。」
 ……古い脳には偏桃体などたくさんの別々の器官が含まれ、それぞれが固有の機能を持っています。それに対して、新皮質の部位はどれも同じ原理で動くようです。それというのも……
「(前略)新皮質は同じものを、つまり基本回路のコピーを、たくさんつくることによって大きくなったのだ。」
 ……そして新皮質は常に「予測」をしているようです。
・「(前略)私の新皮質は、何を見たり聞いたり感じようとしているか、同時に複数の予測をたてている。」
・「予測をするために、脳は何が標準か――つまり、過去の経験をもとに何が予想されるはずか――を学習しなくてはならない。」
・「(前略)新皮質は生まれながらに世界についてなんらかの想定をしているが、具体的には何も知らない、と考えることができる。経験をとおして、世界の豊かで複雑なモデルを学習するのだ。」
・「脳は入力が時間とともにどう変わるかを観察することによって、世界のモデルを学習する。ほかに学習の方法はない。」
   *
 ホーキンスさんは次のことを発見したそうです。
1)新皮質は世界の予測モデルを学習する
2)予測はニューロン内部で起こる
3)皮質コラムの秘密は座標系
 ……この「座標系」がとても重要で、「すべての知識は座標系内に保存される」のだとか。しかも場所や物体などの実体のある知識だけでなく、概念の知識も座標系に蓄えられているそうです。このような考え方については、「訳者あとがき」に簡潔な解説があったので、それを抜粋紹介します。
「(前略)ホーキンスの脳理論には大きな進歩があった。脳がどうやって予測するのかを解明したのだ。第1部でその理論的枠組みが明らかにされる。カギは「動き」と「座標系」。予測するにはまず、世界はこういうものだというモデルを学習する必要がある。」
 ……例えば、コーヒーカップが何かを知るのには、底や取手のような特徴の位置関係(=物体の構造)を記憶することになり、その記憶をしまうために脳が作り出すのが、地図に似た座標系なのだとか。そして……
「(前略)座標系を、新皮質を構成する何千何万という「皮質コラム」という要素それぞれがつくり出し、それをもとに皮質コラムそれぞれが予測を行う。言ってみれば、脳はひとつではなく何千もあるというのが「一〇〇〇の脳」の意味なのだ。
 さらに興味深いのは、座標系はカップのような外の世界の物体を認知するためだけではなく、人が直接感知できない知識を整理するのにも使えるという主張だ。たとえば政治や数学といった、概念についての知識もすべて座標系に保存されるので、物理的空間内を歩きまわるのと同じように、座標系内の概念から概念へと動いていくことが思考だという。」
   *
 ……ニューロンが座標系の位置を次々呼び覚まして、それぞれの位置に保存されているものを想起させるとき、思考が起こる、ということのようでした。
 そして「何かについての私たちの知識は、何千ものコラムに分散している」のですが、それらのコラムが、時間をかけて入力を統合することによって、物体全体のモデルを学習できるようで、入力の統合を行うのは、コラムの「投票」なのだとか。つまり、私たちの知覚は、コラムが投票によってたどり着いた合意だそうです。
「(前略)物体を認識するということは、コラムが投票し、感知している物体が何かについて合意に達しているということだ。」
 ……なるほど……この考え方には、かなりの説得力を感じました。
 つづく「第2部 機械の知能」では、AIに関する考察に入っていきます。ここでは「機械に意識があるのはどういうときか」が面白いと思いました。
「脳が正しく働いているとき、ニューロンは思考と行動の両方について、たえず記憶を形成する。(中略)
活動しているニューロンが現在の経験を表現している瞬間もあれば、以前の経験や以前の思考を表現する瞬間もある。自分は存在していて意識があるという感覚を生むのは、過去にアクセスできるこの能力、つまり時間を飛んでさかのぼり、またすっと現在にもどる能力である。」
 ……そして、このような人間の脳と同じ原理で世界のモデルを学習している機械は……
「(前略)もし私たちの機械が、そういう状態が起きたときにそれを記憶し、その記憶を再生できるなら、あなたや私と同じように、自分の存在を気づいて意識しているのか? 私はそうだと思う。」
   *
 さらに「第3部 人間の知能」では、未来について考察しています。
 例えば、地球が人の住めない場所になったときのための火星移住計画に必要なものは、真のAIを備えたロボット(人間の技術者と建設作業員を送る代わりに、知的ロボットの技術者と建設作業員を送れば、火星を人間用に準備することができるかもしれない)で、その他として、火星に住むのに適した人間を遺伝子編集でつくり出すことも可能かもしれないと語っていました。
 さらに人間が絶滅した後に、未来の知的生命体(地球内で進化した生命体か地球外知的生命)に、私たちがかつて存在したという事実を伝えるために、太陽の光を自然には生じないパターンでほんの少しさえぎる一連の物体(衛星)を置いておくというアイデアも示しています。未来の生命体が、かつて存在した知的生命体(人間)のことを知りたがるかもしれないから、その衛星にアーカイブを設置すれば、私たちの歴史と知識を伝えられるかもしれないと……荒唐無稽なようにも感じますが……途方もないほどの未来のことまで考えているんですね☆
『脳は世界をどう見ているのか』……神経科学とAI(人工知能)の研究を行なうヌメンタ社の共同創業者、チーフサイエンティストでもある神経科学者のホーキンスさんが、脳やAI、さらに私たちの未来まで深く考察している本で、とても勉強になり、刺激的でもありました。いろんなことを考えさせてくれる本なので、みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『脳は世界をどう見ているのか』