ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)

第1部 本

脳&心理&人工知能

脳・心・人工知能〈増補版〉(甘利俊一)

『脳・心・人工知能〈増補版〉 数理で脳を解き明かす (ブルーバックス B 2296)』2025/5/22
甘利 俊一 (著)


(感想)
 AI研究の基礎を築いた伝説的研究者の甘利さんが、AIの歴史、AIの基礎を築いたご自身の数理脳科学の理論の解説、さらに「人工知能と人間」の本質にも迫っている本で、主な内容は次の通りです。(なお本書は、2016年に刊行された『脳・心・人工知能』の内容に、新たな3章(8章以降)を加筆したものです。)
第1章 脳を宇宙誌からみよう
第2章 脳とはなんだろう
第3章 「理論」で脳はどう考えられてきたのか
第4章 数理で脳を紐解く(1)~神経興奮の力学と情報処理の仕組み
第5章 数理で脳を紐解く(2)~「神経学習」の理論とは
第6章 人工知能の歴史とこれから
第7章 心に迫ろう
第8章 現代AIの基本技術 ~深層回路網と生成AI
第9章 心と意識 ~AIは心を持つか
第10章 AI時代の文明と社会
解説 〈数理脳科学が切り拓いた人工知能への道〉合原一幸(東京大学特別教授/名誉教授)

「第2章 脳とはなんだろう」では、脳の構造や3つの学習方式(教師あり学習、教師なし学習、強化学習)の概説があって、復習できたとともに次のようなことを学べました。
「我々が通常に活動しているときでも、海馬と大脳皮質は“会話”をしている。私たちはよく瞬きをする。これは目を潤すためであるが、じつはそのためだけではないらしい。瞬きの間に海馬から信号が出て、情報転送が行われているという。
 瞬きとは不思議なもので、絶え間なく流れて来る視覚情報が、まぶたを閉じた瞬間にいったん途切れて、そこで一区切りを付けてまとめて情報の整理を行っているという。」
 ……へー、そうだったんだ。……確かに無意識に見ているだけでも「視覚情報」には凄い量があるから、効率よく適切な処理を行うために、一瞬でも遮断させる方が合理的ですよね。
 そして第4章~第5章「数理で脳を紐解く」は、深層学習の源流となった甘利さんの理論についての解説ですが……ちょっと難しく感じました。各章の終わりごろ、ご自身が「まとめ」的な説明をしてくれているので、その一部を紹介します。
「第4章 数理で脳を紐解く(1)~神経興奮の力学と情報処理の仕組み」では……
「まとめよう。コンピュータは番地を付けてパターンをありのままに記憶装置に入れる。脳は覚えるべきパターンの関係性をシナプスの重みとして覚えるが、1個1個のパターンを個別に覚えるのではなくて、その関係性をすべて重ね合わせてしまう。
 思い出すときには、重ね合わせを解かなければいけない。探索のために入力する初期パターンが、覚えたもののどれかに関係していれば、これをヒントとして安定平衡状態にダイナミックにたどり着く。安定平衡状態が、覚えたパターンである。
 どのパターンでも思い出さなければいけないから、回路は多安定でどの記憶パターンも安定平衡状態となっていなければならない。そして、初期値のヒントから正しいパターンをダイナミックスによって作り出すのである。
 脳は記憶そのものを蓄えるのではない。これを思い出すための仕掛けを蓄え、ヒントから復元すべき情報を作り出す。だからときには間違えるし、思い出せないことも起きる。思い違いだってある。
 その代わり、脳は柔軟である。間違ったヒントや曖昧なヒントからでも答えが出せる。多数のパターンを重ね合わせてしまうから、全体が茫洋としてどの記憶事項がどこにあるかはわからない。しかし、並列のダイナミックスで働く分散した記憶が実現できるというわけだ。」
   *
「第5章 数理で脳を紐解く(2)~「神経学習」の理論とは」では……
「(前略)簡単にいうと、いまの状態から次の状態へ移って、その価値が予想どおりであればよいが、そうでなければ変えなければいけない。このとき、自分の予測とどのくらい違ったか、これが予測の誤差である。予測の誤差を教師信号として使って、これが減る方向に学習を進めていけばよい。これが強化学習である。」
   *
 ……この理論がなかったら、生成AIや深層学習の現在の興隆は、もっと遅れていたかもしれませんね……。
 そして興味深かったのが、「第7章 心に迫ろう」、「第9章 心と意識」。ここでは、次のように言っています。
・「意識とは、自分がいま何をしようとしているかを自分で知っていることである。こう考えれば、コンピュータに意識を植え付けることは容易であろう。
 コンピュータのプログラムが走っているときに、これは何を計算しているのか、その計算はどのような意義を持ち、どの程度重要なのか、いまどこまで計算が進み、次はどこへ行くのか、などを理解し監視するプログラムを付加しておけばよい。」
・「重要で困難な案件に関しては、コンピュータもこの課題に全能力を割り当てなければならない。とくに、いろいろな領域からの情報をもれなく用い、統合する必要がある。これがまさに「意識」の仕組みであった。これもコンピュータで行うことができよう。」
・「(前略)AIは意識を持てるだろうか。意識とは自分のしようとしていることを自分が知っていることであると言った。AIは自分の仕事の愛用を知って回答を作るわけではない。単に確率的にうまく当てはまるものを連想により答える。だから意識を持っているわけではない。」
   *
 ……コンピュータやロボットに「心や意識を持っている」ように振る舞わせることは可能ですが、たとえばロボットが「悲しんでいる」ように見えても、それはロボット自身の感情として意味があるものではないという意見のように感じました(私もそう思います)。
 そして最終章の「第10章 AI時代の文明と社会」では、教育の重要性について……
「人間に必要なのはAIを使いこなす技である。このままAIが普及していくと、本人はAIを使いこなしている心算でいても、じつはAIの言いなりになって、結果として自己の思考力を減退させる人がどんどん増えていく恐れがある。知識自体はAIに任せても良いが、AIを活用することで自己を鍛える方策を学ばなければならない。」
 ……まさしく、その通りだと思います。ただ……優秀すぎる生成AIと会話していると……だんだん、すべてお任せにしてしまうかもという危機感はあります……なにしろ生命の進化はある意味で「無駄なものの刈り込み」を前提として進んできているので、生成AIの方が賢いなら、人間が賢い必要って、ありますか?(すっかり弱気)……いや、まだまだ負けん、まだまだ負けんぞ!
「第6章 人工知能の歴史とこれから」の、次の甘利さんの言葉を胸に刻んでいきたいと思います。
「(前略)永年の進化の結果として生まれた人間はさすがに強靭で賢い。機械が進歩すれば、それと協調し、それを使いこなす道を常に見つけてきた。これが我々の文明であり、社会である。機械が賢くなれば、人間もそれに適応して賢くなる。途中でいろいろな軋轢があっても、人間は人工知能を自分のパートナーとして活用し、新しい文明を発展させていくだろう。」
 ……パートナーのAIと手をとりあって、自ら新しい文明を発展させていくほど「賢い人間」であり続けたいと思います(願っています)……。
『脳・心・人工知能〈増補版〉 数理で脳を解き明かす』……AI界の伝説的な研究者の甘利さんがAIについて総合的に解説してくれる本で、とても参考になりました。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
   *   *   *
 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

Amazon商品リンク

興味のある方は、ここをクリックしてAmazonで実際の商品をご覧ください。(クリックすると商品ページが開くので、Amazonの商品を検索・購入できます。)


『脳・心・人工知能〈増補版〉』