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第1部 本
生物・進化
卵 その誕生がすべてを変えた(ハワード)
『卵 その誕生がすべてを変えた』2026/2/27
ジュールズ・ハワード (著), 平沢 達矢 (監修), 喜多 直子 (翻訳)

(感想)
生命誕生から、魚類、昆虫、爬虫類、両生類、鳥類、哺乳類の繁栄まで……卵の進化から見る、ダイナミックな生命の進化史です。
「プロローグ」には次のように書いてありました。
「卵の進化の「起爆剤」となったのは、エディアカラ紀以前の遊泳する精子と卵の出現と、やがて死を免れぬ「身体」の誕生、そして体内受精の始まり、つまりは陸棲生物の有性生殖による繁殖だった。その後、胎盤が進化して、ぼくたちの腹部に子と母が分離した痕跡がへそとして刻まれることになる。」
さて生物は37億年前には存在していましたが、そのころまだ卵はありませんでした。それでも10億年前から20億年前には、「シスト」と呼ばれる休眠細胞が現れていたそうです。シストとは、生命体が過酷な時期を安全に過ごすための頑丈な寝袋のような機構で、世代を超えて遺伝物質を伝達していくための装置でもあるのだとか。
そして原始の卵らしきもののかすかな痕跡が現れたのが、エディアカラの生物化石群。
「とりわけ注目すべきは、記載された一二〇種類の卵化石の多くが、死を迎えた時点で、内部の細胞が明らかな胚を形成していた痕跡を残している点だ。実際、細胞が原腸形成と呼ばれる胚発生の一段階を示している化石もある。原腸形成では、胚が中空の球状になった細胞の集まり(胞胚)から三次元の椀上構造に変形し(原腸胚)、そこからさらに発生を続ける。それらの標本には細胞分裂期にある卵も含まれていて、微小な卵化石が四個、八個、あるいは十六個などの細胞に分裂しているのがわかる。それらはたしかに真の卵だった。保護膜の中に格納され、新しい生命として発達しようとしている胚細胞だ。」
……この卵がどんな生物のものだったかについては分かっていないようです。
その後、カンブリア紀に、卵はさらに進化していったようです。この時代に生物は海から波打ち際へ、さらにしだいに陸地へ進出していき、陸棲になったことで、卵もさらに変化していきました。
そして魚(マテルピスキス)の化石の胚の下に、三億八〇〇〇万年前の臍帯が発見されるのです。
「マテルピスキスの体内では、まず卵から胎仔が孵って卵黄を使い果たす。卵黄嚢が空になると、胚は萎びた臍帯によって子宮の内壁とつながる。(中略)酸素、糖、アミノ酸、水が、付属体の表層を通過して胎仔へと届けられた。胎仔の排泄物である尿素もまた、付属体を通して排出されていた。」
さらに石炭紀になると、植物中の硬いタンパク質を分解する消化酵素を手に入れた昆虫が、翅と耐候性の丈夫な卵を進化させ、繁栄していくようになります。
そしてこの時代、陸棲の脊椎動物の卵も「有羊膜卵」という進化を起こしています。
「進化的には、有羊膜卵は地表ではなくむしろ地中で発達した。ねじれた木の根の隙間や、湿った土や泥の中に埋められた卵から進化したのだ。そのような卵を産んだのはトカゲのような動物で、現在の爬虫類の祖先、哺乳類の祖先、そして、絶滅した四肢動物系統だった。
有羊膜卵の成功の秘密は区画化にあった。有羊膜卵には液体で満たされた卵膜が複数あり、それぞれの卵膜には役割がある。」
さらにペルム紀になると、胎生へと移行していく生物が……
「ペルム紀の二つの有羊膜卵の発見は驚くべきものだった。それらの化石を通して、わたしたちは有羊膜類であるメソサウルス類の個体発生初期と、その最も脆弱だった瞬間を知ることができたのだ。重要なのは、五〇〇〇年の進化の中に、有羊膜卵が胎内にこもろうとしていたかすかな気配が見られることだ。つまり、陸の土や砂を産卵床とするのではなく、卵が生殖器官の中に留まろうとしていたのだ。」
また三畳紀の卵に、陸と淡水の両方を使う試みが始まって……
「(前略)三畳紀の動物相が回復の色を見せ始めるところから徐々に増え始め、多様性を急速に高めて、陸にぽっかり空いたニッチに素早く入り込んでいく卵を産む動物の変遷がうかがえる。その卵を産む動物というのが、初期の両生類だ。ゼリー状のカプセルに包まれて、もっぱら池や湖や川に産みつけられた(と考えられる)卵は、大量絶滅後の絶望的な状況から復活を遂げた最初の卵の一つだった。」
……こうして両生類が繁栄し始めますが、やがて恐竜が生まれると生態的地位を追われ始めていきます。
でも最終的に恐竜は滅びてしまい、それに代わって優勢になっていくのは胎生の生物でした。そして胎盤の進化が始まったのは……
「哺乳類がジュラ紀にこの戦略を身につけたのは、どうやら偶然のことだったようだ。胎盤の細胞外壁が母体組織と結合する際に用いられる重要なタンパク質(シンシチン)は、有羊膜卵を産む祖先ではなく、それよりもっと遠縁のものに由来していた。その起源というのが、現在のヒト免疫不全ウイルス(HIV)も含まれるレトロウイルスである。ジュラ紀かそれより少し前に、卵細胞にレトロウイルスを保有していた原始の哺乳類が、より特殊な母体結合(あるいは「母体侵襲」ともいえるだろう)の方法を偶発的に「解放」し、それが哺乳類の胎盤の前駆体となった。」
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脳の進化と胎盤の進化は大きく関連しているようで……
「(前略)哺乳類の脳が大きく進化すればするほど、胚の成長に必要なエネルギーを獲得できる胎盤に強い選択圧がはたらき、より侵襲性の高い胎盤が進化することになるのだ。」
……長い生物進化の歴史のなかで、卵は大きく進化してきたんですね……。
「各章で卵の物語を繙いていく中で、わたしたちは環境の変化に直面した卵の適応力を知ることとなった。嵐に遭遇しても、太陽光線にさらされても、大気が乾燥しても、森林火災や小惑星の衝突に見舞われても、卵はじつにたくましく進化し、適応し、強くなっていった。現代における進化の物語の中で、それと同じことがふたたび起こっているとしても何ら不思議ではない。」
……実は現在も、地球温暖化の影響なのか、昆虫が早く孵化するように変わっていたり、鳥類が産卵の時期と孵化の場所を調節していたりと、卵は変化し続けているようです。本書は次の文章で終わっていました。
「生命、そして卵は、ときに試練を乗り越えて進化していく。わたしたちにもそれができるかどうか、その答えは未来にある。」
『卵 その誕生がすべてを変えた』……卵(生物)の逞しい進化の過程を、科学的解説をまじえながら紹介してくれる本で、とても勉強になりました。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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『卵 その誕生がすべてを変えた』