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第1部 本

生物・進化

マリントキシン(長島裕二)

『マリントキシン ー海洋生物がもつ自然毒ー』2026/4/7
長島裕二 (著), 荒川修 (著), 高谷智裕 (著), 糸井史朗 (著)


(感想)
 マリントキシンとは、海洋生物がもつ毒素の総称。魚介類だけでなく微生物やプランクトンなどの有毒微細藻類や海藻類にも存在し、クラゲの毒のように有毒生物自身が毒素をつくるものもある……さまざまなマリントキシンを、その毒素別にとりあげ解説してくれるマリントキシンの入門書です。
「第1章 海洋毒の概要」によると……
「海洋生物がもつ毒素をマリントキシンといい、主に食中毒を起こす毒と、刺すまたは咬むことでヒトに被害を与える刺咬毒に大別される。この他、微細藻類が産生する毒がエアロゾルになって健康被害を与えたり、魚類の大量斃死や水棲生物の異常行動を引き起こしたりすることもある。」
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 フグ毒で有名な「テトロドトキシン」だけでなく、「シガトキシン」、「パリトキシンとその類縁体」、「麻痺性貝毒」、「下痢性貝毒・アザスピロ酸」、「記憶喪失性貝毒」、「神経性貝毒」、「刺毒」について、詳しい解説がありました。
 ちなみにマリントキシンなどの自然毒の中毒については……
「自然毒食中毒の危険因子は毒素、すなわち化学物質であり生物ではない。このため、食品の加工、流通、貯蔵中に自己増殖することはない。また、ほとんどの場合、調理加工における加熱で毒素は分解されず、毒性の消失や減少はないと考えた方がよい。」
 ……寄生虫などの場合なら「加熱」または「冷凍」で予防できるのに、自然毒の食中毒は調理では対処できないから、前もって除去することが大切なんですね。
 そしてフグ類が持つことで有名なテトロドトキシン(TTX)すら、未解明なことも多いようです。毒のない環境で育てたフグには毒がないことから、食物連鎖を通じてフグ類の体内に蓄積されるとの考え方に疑いの余地はないようですが、毒のある母魚から生まれる卵には、すでに毒があり(母体からのTTXの能動的な移行)、これは卵期の被食回避にも役に立っているそうです。
 この毒がどのように作用するかについては……
「(前略)動物の神経や筋肉の情報伝達には、細胞膜のタンパク質のナトリウムチャネルが必須であるが、TTXはこのナトリウムチャネルの働きを特異的に阻害する。」
 ……そして症状と治療法は……
・「フグ毒中毒の症状は一般的に食後30分から5時間で始まり、頭痛、吐き気、唇の周りのしびれ等の症状がみられる。重症の場合、呼吸困難で死亡することもある。」
・「フグ中毒では特効薬や抗血清・抗体などの解毒剤はないことから、対症療法を行うしかない。中毒患者に対する処置として、胃の洗浄や活性炭の投入(胃内にある毒の除去)、利尿剤の投与(尿への毒の排出促進など)が行われる。呼吸困難に対する最も有効な処置は、挿管による人工呼吸といわれている。発症から8時間もちこたえると急速に回復に向かうとされ、24時間以上生存すれば回復が期待される。」
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 マリントキシンには、TTXと同じように神経に作用する毒が多く、治療法も対症療法しかないものが多いようでした。
 例えばシガトキシンも……
「シガトキシン類は、電位依存性ナトリウムチャネルに特異的に結合し、チャネルの活性化を維持するため、チャネルの開閉により生じる膜電位の変異が正常に機能しなくなり、神経伝達に支障をもたらす。死亡例はきわめてまれだが、中毒症状は多岐にわたり、大きく消化器系、循環器系、神経系に分けられる。」
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 驚かされたのが「記憶喪失性貝毒」。1987年の11~12月、プリンスエドワード島で養殖ムラサキガイを食べた人に急性中毒が発生したのですが、その症状に「記憶喪失」などがあったそうです。
「(前略)中毒症状に特徴があり、胃腸炎症状(吐き気、嘔吐、下痢、腹部の痙攣)に加えて神経症状(頭痛、平衡感覚の喪失、記憶喪失、錯乱、見当識障害)がみられ、昏睡状態に陥るケースもあった。」
 ……この原因物質はドウモイ酸で、起源生物は珪藻の一種らしいのですが、なぜ記憶障害を引き起こすのかというと……
「ドウモイ酸が記憶障害を引き起こすのは、ドウモイ酸の化学構造の一部にグルタミン酸の構造を含むことと関係する。グルタミン酸は、一般的なアミノ酸であるが、脳の中で興奮性の神経伝達物質として働き、主に海馬では、学習・記憶の形成に重要な役割を担っている。毒化した貝類の摂取により体内に取り込まれたドウモイ酸は、グルタミン酸が作用する受容体(カイニン酸型グルタミン酸レセプター)に結合して受容体を活性化し、カルシウムイオンを持続的に細胞内に流入させる。そして過剰なカルシウムイオンの流入は細胞質や膜などを含む神経細胞に対し毒性を引き起こす。ドウモイ酸の作用は、グルタミン酸よりもはるかに強力で、その受容体が高密度に分布している大脳の海馬の特定の領域の神経細胞を選択的に破壊する。これが記憶障害を引き起こす原因とされている。」
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 ……貝を食べて記憶障害が起こるなんて……想像もつきませんが、怖いですね……。
 またもう一つ驚かされたのが、「ミズクラゲは、ときとしてヒトを死亡させるハブクラゲと同じくらい毒性が強い」ということ! 水族館ではふわふわ漂っているミズクラゲを「美しい癒し系クラゲ」として気持ちよく眺めていたのに、とても意外でしたが、ヒトに毒性を示さないのは、ミズクラゲの毒針が短くて、ヒトの表皮だけで毒がおさまってしまうから(神経に触れないから)なのだとか……毒はちゃんと持っているんですね……
『マリントキシン ー海洋生物がもつ自然毒ー』……マリントキシンについて総合的に教えてくれるマリントキシンの入門書(大学の教科書レベルの本)です。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『マリントキシン』